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4-68話:蛮勇


 シンの後について俺たちは空を飛ぶ。一時間ほどで到着したのは、王都から少し離れた場所にあるゼスタという湾岸都市だ。


魔法や飛空艇があるこの世界でも、大量の物を安価に運ぶ手段として船を使うから、ゼスタの街は人口二万人とそれなりに栄えている。


 シンは当然のように飛んだまま街を囲む外壁を超えて、人通りのある街中に降り立つ。だけど周りの人間は誰も驚いたり、違和感を感じたりしていない。シンが街に入る瞬間だけ『認識阻害(アンチパーセプション)』を発動したからだ。


 俺たちも同じように街に入る。エリクとエリスも事もなげに同じことをした。二人のレベルなら、これくらいのことはできるだろう。


 しばらく大通りを歩いて、裏路地に入ると急に人通りが減る。時折見掛けるのはガラの悪い連中だ。


湾岸都市には荷物の積み下ろしなどの力仕事が多いし、船乗りの中には気性が荒い奴らも多い。だからガラが悪いからと、真面な仕事をしていない連中だと決めつける訳にはいかないけど、大半の奴が武器を持っている。


「ここで知り合いが酒場をやっているんじゃ。美味い酒を出す上に人目につかない場所だから、悪巧み(・・・)をするには最適なんじゃよ」


 シンが案内したのは、まるで廃屋のような如何にも怪しい店だった。

 だけど中は思ったよりも真面(まとも)で、腰の曲がった老店主が俺たちを迎える。


「シン、先客が待ちわびておるぞ」


「酒と料理は出しておるのだろう? だったらさすがには暴れんじゃろう。四人ほど連れが増えたが問題ないな?」


 シンは勝手知ったるという感じで店の奥に進んで行くので、俺たちも後に続く。


 一番奥の一つしかない個室の扉を開けると、中にいたのは上半身裸の身長二mを超える巨漢。『奈落(ならく)』の『処刑人(エクスキューショナー)』ガルドだ。


 ガルドは魔力の隠し方が上手いけど、俺は一度戦ったことがあるから、魔力の色でこいつがいることは解っていた。


「てめえは……アリウス、ぶっ殺してやる!」


 だけどガルドは俺に気づいていなかったらしい。扉を壁ごとぶち壊す勢いで突進して来たけど。


「今さら気づいた時点で、お主の負けじゃ」


 シンが魔力を集束させた二本の指をガルドの額に当てる。その瞬間、ガルドの身体が凍りついたようにピタリと動きが止まった。


「ジジイ……てめえ、何をしやがった!」


「お主の魔力の流れを止めて、儂の魔力で拘束しただけじゃ。この程度のことも解らんとは、『奈落(ならく)』最強の化物などと言われても、とんだ期待外れじゃのう」


「なんだと、てめえ……ぶっ殺してやる!」


「うるさいのう……暫く黙っておれ」


 シンがガルドの額を再び突くと、ガルドは身体ごと部屋の一番奥まで弾き飛ばされて、そのまま喋らなくなった。『索敵(サーチ)』の反応で死んでいないことは解るけど、あのガルドが相手にされてすらいない。


「さすがはシンさんってところだぜ」


この子も結構強い(・・・・・・・・)のに、シンさんが相手じゃ形無しね」


「グレイ、セレナ、何を言うておる。お主らも此奴(こやつ)など一捻りじゃろう」


「負けるつもりはねえが、実際に戦ってないと解らねえぜ」


「私はこの子みたいなタイプは苦手なのよね」


 部屋の前でこんなやり取りをしているのに、腰の曲がった老店主は驚いたり騒ぐどころか、こっちを見向きもしない。


索敵(サーチ)』に反応した魔力の大きさで解っていたけど、やっぱりこの人も只者じゃないな。だけど違和感があるのは覇気を一切感じないことだ。


 エリクとエリスは冷静に事の成り行きを見守っていた。だけどシンが身の安全を保証すると言ったことを鵜呑みにした訳じゃなくて、俺のことを信頼してくれているからだろう。


 唯一、エイジは唖然としていたけど、ガルドがいることをエイジも聞かされていなかったのか?


 とりあえず、ガルドを放置して飲み物と料理を注文する。テーブルの上にはガルドが飲み食いしていた酒と料理が残っていたけど、シンが指示して片付けさせた。

 飲み物はそれぞれが、料理はシンが老店主にお任せで頼んだ。


 飲み物と一緒に運ばれてきた料理は、如何にも湾岸都市という感じ大皿に乗せられたカルパッチョ。魚の切り身の他に海老や貝類もあって、なかなか美味そうだ。


「シンさん、ここの店主ってもしかして……」


「ああ、元儂のパーティーのメンバーじゃ。もう四半世紀以上も前のことになるが、儂らは七番目の最難関(トップクラス)ダンジョン『神話の領域』を攻略しているときに仲間の半分を失った。そのせいで奴の心はすっかり折れてしまってのう。儂らも攻略を諦めざるを得なかったんじゃ」


 グレイとセレナは六番目の最難関(トップクラス)『修羅の世界』を攻略済みで、俺は攻略を始めたばかりだ。シンは二五年以上前にすでに攻略していて、そんなシンでも七番目の最難関(トップクラス)ダンジョンの攻略は挫折したのか。


「今のシンさんなら『神話の領域』も完全攻略できるんじゃない?」


「儂は兎も角、一緒に攻略するメンバーがおらんじゃろう。ソロで最難関(トップクラス)ダンジョンに挑むような蛮勇は持ち合わせておらんわ」


 そう言いながらシンは俺を見る。もしかして俺がソロで挑んでいることに気づいているのか?


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