表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

54/611

53話:準備


 後片づけも済んだから、移動を再開する。


 ブラストを監視する2人の騎士のノーコーンには、ジークの護衛たちが乗ることになった。

 まあ、バーンや女子の護衛を借りる訳にいかないからな。ジークの護衛を選んだんじゃなくて、消去法だけど。


 時速80kmで滑走したら14時前に別荘に到着した。普通の馬なら丸1日掛かるらしいけど。さすがはノーコーンってところか。


 王家の別荘は森に囲まれた湖畔にあった。

 まあ、王家が使う別荘だからな。別荘と言うより城だけど。


 別荘の管理を任されているのは、ジェフリー・バレンティンという年配の騎士爵だ。他にも10人ほどの侍女と使用人たちが俺たちを出迎えた。


 勿論、こいつらは只の侍女や使用人じゃない。ジェフリーを含めて王家に仕える兼任の護衛なんだよ。荒事専門じゃないから、そこまでレベルは高くないけどな。

 

 言い忘れていたけど、エリクに同行している2人の侍女も同類だからな。

 藍色の髪のベラと、亜麻色の髪のイーシャ。如何にも仕事ができる女子って感じの2人は、エリクの懐刀ってところだな。


 別荘で遅めの昼飯を食べてから、みんなで散策に出掛ける。

 俺の目的は周囲の状況を把握することだけどな。


 別荘の周りにあるのは湖と森だけだ。他に人もいない。別荘がある王家の直轄地には一般人は入れないんだよ。


「ねえ、あそこにリスがいるわよ!」


「え! どこですの?」


「あの大きな木の幹のところですね」


「あ、本当ですわ……可愛いです!」


 王都暮らしの3人の女子は、森の散策を楽しんでいる。


 俺の『索敵(サーチ)』には魔物(モンスター)の反応があるけど。近くにいるのは、みんなでも余裕で倒せるレベルだからな。

 別荘周辺の森には普通の小動物もいるし。いきなり襲い掛かって来る凶暴な魔物はいないみたいだな。


 まあ、魔物の話は置いておいて。この別荘がある環境って、完全に『襲ってくれ』と言っているようなものだよな。


 森が遮蔽物になるから潜伏するのは簡単だし。他に人がいないから、一般人に見つかって襲撃がバレることもない。

 しかも別荘の一面が湖に面しているから、こっちの退路は限られるってことだな。


 俺が襲撃するならどうするか。考えられる全ての可能性を頭の中でシミュレートする。

 エリクや諜報部の連中は、すでに色々と想定しているだろうけど。俺も冒険者になってから8年間、ダンジョン攻略だけをしていた訳じゃないからな。


 散策を終えて別荘に戻ると、俺はバーンと約束していた模擬戦をやることにした。

 とりあえず考えられる可能性は全部想定したし。いつでも準備はできているからな。

 あとは向こうが仕掛けて来るのを待つだけの話なんだよ。


 バーンが死なない程度に本気を出すって言ったけど。勿論、冗談だからな。

 だけど普通に模擬戦後、バーンはやりきった感じで。


「なあ、親友……結構効いたぜ。さすがはアリウスの本気だな」


 いや、だから全然本気じゃないからな。


「バーンはもっと真面目に鍛練した方が良いな。せっかくの身体能力を無駄遣いしているんだよ」


 バーンも『恋学(コイガク)』の攻略対象の1人だからな。スペックが高い。

 だけど高い身体能力に満足しているのか、技術が伴っていないんだよ。


「本気で鍛えれば、バーンは強くなると思うよ。とりあえず、王都に戻ったら学院のダンジョンに一緒に行くか? ダンジョン実習以外でも申請すれば入れる筈だからな」


 バーンはストイックに鍛錬するような性格じゃないからな。まずは実戦で技術の大切さを実感させる必要がある。


「なあ、親友……俺のためにそこまでしてくれるのか!」


 バーンが暑苦しく俺の肩を抱こうとする。当然避けたけどな。


「まあ、たまにならダンジョンに付き合ってやるよ」


 俺が直接鍛えることも考えたけど。バーンは模擬戦で俺に負けても、そこから何も学んでいないからな。

 自分なら勝てると思った相手に負ける経験をさせた方が良いだろう。


 学院のダンジョンにも最下層には50レベル台の魔物がいるからな。

 バーンに解らせるには十分だろう。


 俺としては、もう少し余計に授業をサボって最難関(ハイクラス)ダンジョン『魔神の牢獄』の攻略に当てれば、バーンに付き合う時間くらい作れるからな。


「ねえ、アリウス。バーン殿下と一緒にダンジョンに行くって話が聞こえたんだけど。私も一緒に連れて行ってくれないかな? 私だって強くなりたいのよ」


 ミリアが窓から身を乗り出して、いきなり割り込んで来た。

 俺たちが模擬戦をしていたのは別荘の中庭で、3人の女子が集まっている部屋の窓から丸見えなのは知ってたけどな。


「そうだな。ミリアも一緒に行くか。強くなりたいなら、俺は応援するからな」


「うん! アリウス、ありがとう!」


 ミリアが嬉しそうに笑う。本当に強くなりたいんだな。

 顔がちょっと赤いけど、貪欲に強くなりたいと思うのは恥ずかしいことじゃないからな。


 ソフィアが羨ましそうな顔をしているけど。ソフィアも強くなりたいのか? だったら協力するけどな。


 まあ、学院のダンジョンに行くのは王都に戻ってからだ。

 その前にヨルダン公爵の襲撃を阻止しないと。


 諜報部の連中がブラストを尋問したけど、他の襲撃者の情報は持っていなかった。

 ブラストは単独で突っ込んで来るような奴だからな。味方との連携なんて初めから考えてないんだろう。


 まあ、ブラストの情報に期待していた訳じゃないし。情報がないことは想定済みだからな。

 俺はやれることをやるだけだよ。


 襲撃する側はタイミングを計って仕掛けて来るけど、こっちは常に襲撃に備えておく必要がある。そういう点では向こうの方が有利だ。

 だからと言って眠らないで待つとか。そんなことをすれば消耗して相手の思う壺だからな。


 エリクに確認したけど。夜の見張りはエリクの護衛と諜報部の連中が交代でするからな。エリクを含めてみんなは普通に寝て貰う。


 俺は2日くらいなら眠らなくても問題ないからな。ずっと起きているつもりだよ。

 『索敵(サーチ)』を発動したまま眠ることもできるけど、眠っている間は効果範囲が狭くなるからな。

 まあ、みんなに心配させないように、寝ているフリをするけどさ。


 最悪の状況を想定して準備をしているからな。みんなを守るだけなら問題ないだろう。

 だけどエリクの目的はヨルダン公爵を潰すことだからな。


『僕はヨルダン公爵本人が襲撃に参加すると思うよ。彼はそういう人だからね』


 エリクがそんなことを言ってたけど。

 ヨルダン公爵は武力を誇るタイプじゃないからな。襲撃に参加しても戦力にならないだろう。

 とても計略を図るような奴の行動じゃないよな。


 それでもヨルダン公爵本人が来るってことは、感情的に行動するほどエリクが追い詰めたってことだな。


 感情的になると何をするか解らないから、行動が予測できなくて面倒だけど。まあ、そういう(・・・・)奴の相手は慣れているからな。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 15歳

レベル:????

HP:?????

MP:?????


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ