3-33話
その日の夜。帝都グランエッジでも有数のレストランにエリクとエリスも含めて、みんなで出掛けた。レストランにいる間も情報収集はできるし、みんなに気を遣わせないためだろう。
ドレスコードのある店で。エリクが事前に説明したらしく、ミリアとノエルもドレスを着ている。ちなみにドレスはソフィアが貸したそうだ。
「ア、アリウス君……へ、変じゃないかな?」
「ああ。ノエル、良く似合っているよ」
別にお世辞じゃない。清楚な感じの飾り気の少ない白いドレス。
ノエルは元々素材が良いからな。ソフィアの侍女がノエルの髪をセットして軽くメイクをしたら、ちょっと幼さが残る感じの可愛い系美少女になった。
「思っていた通りね。やっぱりノエルは可愛いわよ」
ミリアはノエルをマジマジと見て、まるで自分のことのように喜んでいる。
「ミ、ミリア。そんなに見られると、恥ずかしいよ……」
真っ赤になるノエル。みんなが微笑ましい目で見ている。
「ミリアも良く似合っているな」
純白の髪と紫紺の瞳のミリアは、薔薇の花が刺繍された水色のドレスを着ていた。
「そ、そう? こういうの、私には似合わないと思うけど。アリウスに言われると、お世辞でも嬉しいわ」
「ミリアも知っているだろう。俺はお世辞なんて言わないからな」
「そうよ、ミリア。ドレスを貸した甲斐があるわね。ホント、良く似合っているわ」
「そうね。女の私から見ても、ソフィアも凄く可愛いわよ」
ミルクティーベージュの髪と碧眼のソフィアは、鮮やかな青のドレス。金髪で深い青の瞳のエリスは、落ち着いた黒のドレスだ。
可憐な感じの綺麗系美少女と、凛々しい感じの綺麗系美少女。二人が並んでいる姿は、物凄く華やかに見える。
「アリウス。私たちに対する感想はないの?」
エリスが悪戯っぽく笑う。
「エリスもソフィアも、本当に良く似合っているよ。思わず見惚れてしまうくらいにな」
「アリウス……あまり揶揄わないで……」
ソフィアが頬を染める。婚約者のソフィアをエスコートするのはエリクの役目だ。エリクを差し置いて、俺がこんなことを言うのはどうかと思ったけど。俺の素直な感想だし、エリクはいつものように気にする素振りも見せなかった。
レストランでは如何にも高級そうな料理が出て来た。味は悪くないけど、ミリアとノエルが支払いを気にしている。
「今回は私のために付き合って貰ったんだから、お金のことは気にしないでね」
そんな二人にエリスとエリク、ソフィアも気づいたけど。エリスが自分の役目だと全部払った。エリスは王女だし、ロナウディア王国でも屈指の商会を経営しているからな。
相手の方もそれが当たり前だと思う奴が多いけど。ミリアとノエルはちょっと恐縮した感じでお礼を言っていた。
※ ※ ※ ※
「へー……ここがグランブレイド帝国の帝都ね。さすがは大国の中心部って感じだわ」
次の日、ジェシカが合流した。俺がカーネルの街に行って連れて来たんだけど。
今回の件はエリスがジェシカに『伝言』を送って、俺が恋人のフリをすることまで全部伝えていた。さらにはジェシカにも見届ける権利があると、グランブレイド帝国に来るように誘ったらしい。
ジェシカもS級冒険者だから、自分で魔法を使って来るつもりだったみたいけど。そもそもジェシカはグランブレイド帝国に来たことがないから帝国まで『転移魔法』で移動できない。『飛行』で移動いるには時間が掛かるから、俺が迎えに行ったって訳だ。
「ふーん……アリウスがエリスの恋人役ね」
ジェシカがジト目で見る。
「ジェシカ、『伝言』で伝えたけど。あくまでもアリウスは、私の恋人のフリをしているだけよ」
エリスがフォローする。恋人のフリをするからと言って、無し崩し的に俺をどうこうするつもりはないらしい。エリスはそういう奴だし、何事も正々堂々とういうのがエリスのやり方だからな。
「それくらいは、私も解っているわよ。エリス、今回は貸しだからね」
ジェシカもエリスの性格が解っているようで、文句は言わなかった。
「アリウスを面倒に巻き込んだことは、本当に申し訳ないと思っているわ。だけど貴方が引き受けてくれて、凄く嬉しいのも本当の気持ちよ」
エリスが満面の笑みを浮かべる。面倒な話だけど、貴族には格があるからな。ロナウディア王国でエリスの恋人役が務まる奴は意外と少ない。未婚で婚約者もいないとなると、俺以外はマルスとラグナスくらいか。
エリクは諜報部の連中と情報収集をしているので、俺は他のみんなと帝都の街を歩く。帝国の建築は見た目よりも強度を重視していて、武骨な建物が多い。
エリスは恋人のフリをする必要があるからと、ずっと俺と腕を組んで歩いている。色々なところが当たっていて、みんながジト目で見ているけど慣れるしかないな。
「ふーん……結構やるみたいね」
ジェシカが注目しているのは『認識阻害』と『透明化』で隠れている諜報部の連中だ。特にレオンは『認識阻害』を発動すると、ジェシカでもギリギリ感知できるレベルだからな。
帝都の街を散策した後、オープンカフェのような店で昼飯を食べる。昨日の夕飯は高級レストランで食べたからな。ソフィアとジーク、サーシャも気取らない店で食べたいってことで意見が一致した。
「なあ、みんな。せっかく帝都に来たんだから、闘技場に行ってみないか」
俺の言葉に真っ先に反応したのはジェシカだ。
「闘技場って、試合をやっているの?」
「結構強い奴が出場するみたいで、帝都の観光名所として知られているんだよ」
「ふーん、面白そうね。ねえ、みんな。行ってみない?」
みんなは特に異存もなく、俺たちは闘技場に向かうことになった。
「アリウス……ううん、何でもないわ」
エリスがクスリと笑ったのは、俺の意図に気づいているからだろう。




