表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

486/617

3-22話


 次の日。学院は期末試験も終わって、あとは夏休みを待つだけだ。俺はやることがたくさんあるけど。


 今日は学院をサボって一日中、三番目の最難関(トップクラス)ダンジョン『冥王の闘技場』を攻略するつもりだった。だけど昨日のうちにエリスから『伝言(メッセージ)』が来て。


『アリウス、今日学院で一緒にお昼にしましょう』


 エリスを(けしか)けた責任を取ると約束したから無視する訳にもいかないだろう。


 俺はみんなの朝練に付き合ってから教室に向かう。ミリアとソフィアは少し様子が変で、何か言いたそうだったけど。みんなと練習をしていたから、ゆっくり話をするほど時間がなかった。あとで二人と話をしてみるか。


 午前中の授業を受けながら、世界中の情報屋から集まって来る情報を整理する。

 勇者アベルと同盟軍の動きについても、俺は情報収集を続けている。諜報活動については、基本的にはエリクとアリサに任せるつもりだけど。どこから情報が入って来るか解らないからな。


 アリサから聞いた話だと、アベルは魔王アラニスに対抗するために『魔族の領域』への侵攻をそっち退けで鍛錬を始めたそうだ。だけど同盟国は侵攻の準備を進めていたところだから、アベルの勝手な行動に不満が噴出しているらしい。俺としては勇者同盟軍の足並みが乱れるのは歓迎だけど。


 昼休みになると同時に、バーンが教室のドアを開けて入って来る。


「なあ、親友。一緒に昼飯を食いに行こうぜ!」


「バーン。悪いけど、今日は約束があるんだ」


 俺が断ろうとすると。


「あら、私はバーン殿下が一緒でも構わないわよ」


 エリスが教室に入って来る。


「「「エリス殿下……」」」


 豪奢な金髪と、海のように深い青い瞳。凛々しい感じの綺麗系美少女。クラスメイトたちは女子も男子も注目している。


「姉上、どうしたんですか?」


 エリクがいつもの爽やかな笑顔で応対に出る。完璧な王子様と完璧美美少女の姉弟が対峙する構図に、女子たちが黄色い声を上げる。

 エリクの取り巻きのラグナスたちが、エリスに挨拶しようとすると。


「貴方たちに用はないわ。私はアリウスを迎えに来たのよ」


 エリスの台詞に、ラグナスが俺を睨むけど。


「姉上、そういうことでしたら。アリウス、姉上のエスコートをお願いするよ」


 エリクの言葉にラグナスたちが渋々引き下がる。エリクのことだからは最初から全部解っていて、ラグナスたちを抑えるためにやったんだろう。


「エリス殿下、本当に俺も一緒で構わないのか?」


「ええ。バーン殿下とアリウスの仲が良いことは聞いているから」


 俺とエリスとバーンが廊下を歩いていると、生徒たちの(ささや)く声がそこら中から聞こえる。俺とバーンが一緒にいると目立つのはいつものことだけど、いつもと反応が違うのはエリスが一緒にいるからだ。


 グランブレイド帝国に留学していた筈のエリスが突然帰国して、帝国に二度と戻らないと宣言したことは学院中で噂になっている。だけどエリスは周りの生徒の反応なんて全然気にしていない。


 エリスは王女だから自分のサロンで昼飯を食べると思ったけど、エリスが向かったのは学食だった。

 学食に着いて、ランチのプレートを受け取る列に並ぼうとすると。


「アリウス、その必要はないわ。貴方の分は私がお弁当を用意したから」


 エリスは手ぶらで、弁当を持っているようには見えないけど。そういうこと(・・・・・・)かと俺は納得する。


「じゃあ、バーン。先に行ってテーブルを確保しておくよ」


 俺とエリスが適当に空いている席に座ろうとすると、奥のテーブルの方からソフィアがやって来る。


「エリス殿下、お久しぶりです」


「ソフィア、堅苦しい挨拶は無しにしましょう。最後に会ったのは私が留学する前だから、一年以上経つわね」


 エリスの親しげな笑みに、ソフィアも嬉しそうに応える。


「エリス殿下。よろしければ、奥の席で私たちとご一緒しませんか?」


「ありがとう、ソフィア。アリウスから聞いているけど、貴方とアリウスは仲が良いのよね?」


 エリスが揶揄(からか)うような笑みを浮かべる。


「ええ……私とアリウスは友だちですから」


 何故かソフィアの顔が赤いのは、エリスに揶揄われて恥ずかしいんだろう。

 ソフィアが俺たちを学食の奥に案内すると、ミリアとノエルがソフィアと一緒に使っていた四人掛けのテーブルを空ける。


「ミリア、ノエル。気を遣わせてごめんなさい」


「ソフィア、気にしないで……エリス殿下、初めまして。ミリア・ロンドと申します」


「ノ、ノエル・バルトです……」


「エリス・スタリオンよ。ミリア、ノエル、よろしくね」


 エリスは飾らない笑みで応える。


「ミリアとノエルもアリウスの友だちなのよね? だったら、みんなで一緒に食べましょう」


 ちょうど隣りのテーブルが空いていたから、俺たちは二つのテーブルを繋げて一緒に座る。


「エリス殿下とアリウスは、お昼はまだですよね? 私たちがプレートを取って来ます」


 ミリアとノエルが席を立とうとすると。


「ありがとう。だけどその必要はないわ」


 エリスは何もない場所から三○cm四方ほどの装飾された箱を取り出す。周りの生徒たちが驚いているけど、エリスは『収納庫(ストレージ)』が使える。エリスが手ぶらだった理由はこれだ。


 箱の蓋を開けると中には、たくさんの料理が詰まっている。


「昨日一緒に食事をして、アリウスが良く食べることが解ったから。たくさん用意したけど、これで足りるかしら? 私の手作りだから、味の方はそんなに自信がないわよ」


 確かに王室御用達の料理人が作ったって感じじゃない。だけど肉中心の料理は俺好みだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ