3-22話
次の日。学院は期末試験も終わって、あとは夏休みを待つだけだ。俺はやることがたくさんあるけど。
今日は学院をサボって一日中、三番目の最難関ダンジョン『冥王の闘技場』を攻略するつもりだった。だけど昨日のうちにエリスから『伝言』が来て。
『アリウス、今日学院で一緒にお昼にしましょう』
エリスを嗾けた責任を取ると約束したから無視する訳にもいかないだろう。
俺はみんなの朝練に付き合ってから教室に向かう。ミリアとソフィアは少し様子が変で、何か言いたそうだったけど。みんなと練習をしていたから、ゆっくり話をするほど時間がなかった。あとで二人と話をしてみるか。
午前中の授業を受けながら、世界中の情報屋から集まって来る情報を整理する。
勇者アベルと同盟軍の動きについても、俺は情報収集を続けている。諜報活動については、基本的にはエリクとアリサに任せるつもりだけど。どこから情報が入って来るか解らないからな。
アリサから聞いた話だと、アベルは魔王アラニスに対抗するために『魔族の領域』への侵攻をそっち退けで鍛錬を始めたそうだ。だけど同盟国は侵攻の準備を進めていたところだから、アベルの勝手な行動に不満が噴出しているらしい。俺としては勇者同盟軍の足並みが乱れるのは歓迎だけど。
昼休みになると同時に、バーンが教室のドアを開けて入って来る。
「なあ、親友。一緒に昼飯を食いに行こうぜ!」
「バーン。悪いけど、今日は約束があるんだ」
俺が断ろうとすると。
「あら、私はバーン殿下が一緒でも構わないわよ」
エリスが教室に入って来る。
「「「エリス殿下……」」」
豪奢な金髪と、海のように深い青い瞳。凛々しい感じの綺麗系美少女。クラスメイトたちは女子も男子も注目している。
「姉上、どうしたんですか?」
エリクがいつもの爽やかな笑顔で応対に出る。完璧な王子様と完璧美美少女の姉弟が対峙する構図に、女子たちが黄色い声を上げる。
エリクの取り巻きのラグナスたちが、エリスに挨拶しようとすると。
「貴方たちに用はないわ。私はアリウスを迎えに来たのよ」
エリスの台詞に、ラグナスが俺を睨むけど。
「姉上、そういうことでしたら。アリウス、姉上のエスコートをお願いするよ」
エリクの言葉にラグナスたちが渋々引き下がる。エリクのことだからは最初から全部解っていて、ラグナスたちを抑えるためにやったんだろう。
「エリス殿下、本当に俺も一緒で構わないのか?」
「ええ。バーン殿下とアリウスの仲が良いことは聞いているから」
俺とエリスとバーンが廊下を歩いていると、生徒たちの囁く声がそこら中から聞こえる。俺とバーンが一緒にいると目立つのはいつものことだけど、いつもと反応が違うのはエリスが一緒にいるからだ。
グランブレイド帝国に留学していた筈のエリスが突然帰国して、帝国に二度と戻らないと宣言したことは学院中で噂になっている。だけどエリスは周りの生徒の反応なんて全然気にしていない。
エリスは王女だから自分のサロンで昼飯を食べると思ったけど、エリスが向かったのは学食だった。
学食に着いて、ランチのプレートを受け取る列に並ぼうとすると。
「アリウス、その必要はないわ。貴方の分は私がお弁当を用意したから」
エリスは手ぶらで、弁当を持っているようには見えないけど。そういうことかと俺は納得する。
「じゃあ、バーン。先に行ってテーブルを確保しておくよ」
俺とエリスが適当に空いている席に座ろうとすると、奥のテーブルの方からソフィアがやって来る。
「エリス殿下、お久しぶりです」
「ソフィア、堅苦しい挨拶は無しにしましょう。最後に会ったのは私が留学する前だから、一年以上経つわね」
エリスの親しげな笑みに、ソフィアも嬉しそうに応える。
「エリス殿下。よろしければ、奥の席で私たちとご一緒しませんか?」
「ありがとう、ソフィア。アリウスから聞いているけど、貴方とアリウスは仲が良いのよね?」
エリスが揶揄うような笑みを浮かべる。
「ええ……私とアリウスは友だちですから」
何故かソフィアの顔が赤いのは、エリスに揶揄われて恥ずかしいんだろう。
ソフィアが俺たちを学食の奥に案内すると、ミリアとノエルがソフィアと一緒に使っていた四人掛けのテーブルを空ける。
「ミリア、ノエル。気を遣わせてごめんなさい」
「ソフィア、気にしないで……エリス殿下、初めまして。ミリア・ロンドと申します」
「ノ、ノエル・バルトです……」
「エリス・スタリオンよ。ミリア、ノエル、よろしくね」
エリスは飾らない笑みで応える。
「ミリアとノエルもアリウスの友だちなのよね? だったら、みんなで一緒に食べましょう」
ちょうど隣りのテーブルが空いていたから、俺たちは二つのテーブルを繋げて一緒に座る。
「エリス殿下とアリウスは、お昼はまだですよね? 私たちがプレートを取って来ます」
ミリアとノエルが席を立とうとすると。
「ありがとう。だけどその必要はないわ」
エリスは何もない場所から三○cm四方ほどの装飾された箱を取り出す。周りの生徒たちが驚いているけど、エリスは『収納庫』が使える。エリスが手ぶらだった理由はこれだ。
箱の蓋を開けると中には、たくさんの料理が詰まっている。
「昨日一緒に食事をして、アリウスが良く食べることが解ったから。たくさん用意したけど、これで足りるかしら? 私の手作りだから、味の方はそんなに自信がないわよ」
確かに王室御用達の料理人が作ったって感じじゃない。だけど肉中心の料理は俺好みだ。




