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3-19話


 王都の街が夜の闇に沈む頃になって、馬車が洒落た感じの店の前で停まる。ここがエリクが予約した店ってことだな。


 俺とエリスは馬車の中に用意してあった目元を隠す仮面を着けて馬車を降りる。グランブレイド帝国のドミニク皇太子と婚約しているエリスが、他の男と二人きりで食事をするのはさすがに不味いという判断だろう。


 俺は約束通りにエリスをエスコートして店の中に入る。

 魔導具を使った青い光に照らし出される店内。天井の高いホールではミニオーケストラが音楽を奏でて、着飾った男女が曲に合わせて踊っている。


 これは後で聞いた話だけど、エリクが予約したこの店は、今王都の若い貴族たちの間で一番注目されているらしい。俺的にはどうでも良い話だけど。


 腕を組んで店に入った俺とエリスに、客たちが注目する。仮面で目元を隠しても、エリスが美少女なのは解るし。プロポーションも完璧だから、注目されるのは当然だろう。

 だけどさすがは王女ってところか。エリスは他人の視線なんて全然気にしていない。


「噂だとアリウスは社交家でも女の子の相手を滅多にしないって話だけど、スマートにエスコートしているじゃない」


 俺が社交界に顔を出すときは、ダンスの相手はするけど。女子をエスコートしたのは、確かにソフィアくらいだな。


「俺は貴族の女子が苦手なんだよ。恋愛やゴシップの話題とか、聞いていても詰まらないからな」


 政治的な話題には興味があるけど。誰が誰を好きだとか、誰と付き合っているとか、その程度の話が重要だとは思わないからな。


「それ、本当なの? 怪しいわね。アリウスは女の扱いに慣れているみたいだし。背が高くて見た目も良いから、貴方と一緒の女は鼻が高いわよ」


「またそんなことを言って。エリス、俺を揶揄(からか)うなよ。俺なんかよりも、エリクの方がモテるだろう」


「確かにエリクはモテるわよ。だけどアリウスとはタイプが全然違うわ。どちらかと言うと私の好みのタイプは――」


 エリスはわざと言葉を止めてクスリと笑う。やっぱり、俺を揶揄っているな。

 俺たちは螺旋階段を上って、二階からホールを見下ろせる個室に入る。エリクが予約したVIPルームだ。俺は念のために『防音(サウンドプルーフ)』を発動する。


 この店のメシは創作料理って感じで、様々な料理が出て来る。味も悪くないし、気取らない料理は俺好みだ。食事をしている間も、俺とエリスは止めどなく話し続けた。お互いの家族のこととか、学校のこととか、他愛のない内容だけど。


 エリクは子供の頃から天才だけど、(したた)かだから敵を作らなかったとか。ジークは自分で思っているよりも才能があるのに、エリクと自分を比べてばかりいて、エリスが歯痒い思いをしたとか。


 俺も家族の話をしたけど、父親のダリウスと母親のレイアのことは、エリスも良く知っているみたいだな。シリウスとアリシアの話をしたら、是非会わせてくれとエリスが食いついた。エリスは社交界に顔を出さないから、二人のことを知らなかったみたいだけど。エリスは子供好きなのか?


 あとはエリスが留学している帝国の大学の話だな。エリスに言わせると、帝国の大学は軍事一辺倒の教育をするから詰まらないらしい。


「軍事一辺なら、バーンに合いそうだな」


「バーンって、学院に留学している帝国の第三皇子よね。私とは入れ違いになったけど、どういう人なの?」


「まあ、一言で言えば暑苦しい脳筋だな。悪い奴じゃないけど」


 エリスがクスクスと笑う。


「何よ、それ……典型的な帝国の皇族じゃない。でもアリウスの話しぶりだと、バーン皇子とも仲が良いみたいね」


「一緒に昼飯を食べたり、朝練をするくらいにはな。この前の武術大会のためにみんなで朝練を始めたんだけど、今でも続けていてジークとサーシャ、それにソフィアも参加しているよ。俺はたまに顔を出すくらいだけど」


 エリクの婚約者のソフィアと、ジークの婚約者のサーシャはエリスと面識があって、二人もエリスのことを心配していたからな。


「サーシャとソフィアって……アリウスは貴族の女子が苦手って言っていたのに、全然そんな感じじゃないわね」


 エリスはジト目になるけど、一瞬見せた二人に対する感情は温かいものだ。


「ソフィアは俺の友だちだからな。サーシャとはそこまで話したことはないけど、ジークのことを本気で想っていることは傍で見ていても解るよ」


「アリウスは人のことを良く見ているのね。貴方がエリクとジークの友だちで良かったわ」


 エリクとジークの話をするとき、エリスは優しい姉の顔になる。


「確かに俺とエリクは今日みたいに俺のことをハメても、あとで仕返しするだけで許すくらいには仲が良いよ」


「それって本当に仲が良いの? アリウスがエリクに良いように使われているとは思わないけど」


そういうところ(・・・・・・・)を含めて、俺はエリクが嫌いじゃないからな」


 俺はエリクに頼まれたから、エリスとドミニク皇太子との結婚を破談にさせるために協力しようと思った。それは今も変わらないけど、それだけじゃない。


「アリウスとエリクの関係が何となく解った気がするわ。エリクが他人に頼るなんてって最初は思ったけど、貴方とエリクはお互いを信頼しているのね……私はアリウスに益々興味が湧いたわ」


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