361話:バーンのやり方
バーンが何度殴り掛かっても、カサンドラに触れることすらできず。逆に殴り飛ばされて、血塗れになる。
それでもバーンは何度でも立ち上がる。勿論、カサンドラが手加減しているからだけど。
「バーン。おまえの狙いはそういうことか。呆れた奴だな。私を止めるために、自分を人質にするつもりか?」
「ああ。強かなカサンドラ姉貴なら、俺を殺してグランブレイド帝国を敵に回す気はないだろう」
カサンドラは大公になって、今はグランブレイド帝国の皇族じゃない。だからバーンの姉でも、バーンを殺せば帝国の逆賊として扱われる。
「俺は絶対にカサンドラ姉貴を止めるつもりだから。どうしても戦争を起こしたいなら、俺を殺すしかないな」
バーンは、まるでカサンドラのように不敵に笑う。
「ならば、おまえがいつまで耐えられるか。試してやろう」
それからもバーンは何度もカサンドラに殴り飛ばされて、その度に立ち上がった。
幾ら回復魔法を使っても、痛みはあるし。カサンドラの手元が狂えば、バーンは死ぬ。
カサンドラなら手元が狂う筈がないと、思っているかも知れないけど。こんな状態で、死の恐怖を感じないのか? いや、そうじゃない。バーンは覚悟を決めているんだろう。
「お、俺は……ぜったいに……あ、姉貴を止める……」
全身ボロボロになって、MPも尽きて。バーンは意識を失って甲板の上に転がる。
だけど目を覚ませば、バーンは再びカサンドラを止めようとするだろう。
「おい、アリウス。どうせ見ているのだろう? 私の負けだ。早くこの馬鹿を回復してやれ」
俺は『認識阻害』と『透明化』を解除すると。『完全回復』を発動する。
「アリウス。もし私がバーンを殺してしまったら、どうするつもりだったんだ?」
「そんなことを、させるつもりはないよ。俺がギリギリで止めるつもりだったからな」
『神たちの領域』に創ったダンジョンでの超高速戦闘に慣れている俺なら、バーンが危ない状況になった瞬間に止める手段は幾らでもあるからな。
「結局、私はアリウスの掌の上で踊らされたということか」
「いや、そうじゃないだろう。カサンドラさんは、バーンの覚悟に負けた。バーンは絶対に諦めないからな。これからもカサンドラさんが何を画策しても、その度にバーンが止めるんじゃないか」
カサンドラなら、大抵の奴に気づかれずに事を進めることができるけど。エリクはそんなことを望んでいないし。こっちにはアリサもいる。だからカサンドラが本気で秘密裏に事を進めようとしても。俺たちがバーンに教えるからな。
「カサンドラさん。もし俺たちが気づく前に、カサンドラさんが戦争を起こしたら。俺が手段を選ばずに、戦争を終わらせるからな」
「アリウスが手段を選ばないだと? 解った。肝に銘じておこう」
カサンドラが不敵な笑みを浮かべる。どうしたら俺に対抗できるか、考えている顔だな。
不穏な空気を感じて。これまで静観していた10人の部下が、カサンドラを守るように陣形を組んで身構える。
「警戒するのは解るけど、そんなに身構えるなよ。カサンドラさんの方から仕掛けて来ない限り、俺は戦うつもりなんてないからな」
ボロボロになったバーンの元に、ガトーとジャンたちが駆け寄る。傷は回復させたけど、バーンはまだ目を覚まさない。
バーンを痛めつけたカサンドラを、ガトーたちが睨みつける。カサンドラは、どこ吹く風で平然としているけど。10人の部下たちがガトーたちに殺意を向ける。一触即発の空気って奴だな。
「ガトー、ジャン。おまえたちが手を出したら、バーンがどう思うか。バーンはグランブレイド帝国の奴同士で戦わせたくなくて、自分1人で戦ったんだぞ」
「アリウス陛下……そうですね。済みませんでした」
「おい。おまえたちも絶対に手を出すなよ」
ガトーとジャンが素直に従う。こういうところもバーンの部下って感じだな。
「じゃあ、話が決まったことだし。フランチェスカ皇国の奴らに見つかる前に、引き上げるか」
ガトーとジャンがバーンを抱えて。そのまま俺たちが立ち去ろうとすると。
「アリウス陛下。失礼かと思いますが、1つお願いがあります」
カサンドラの部下の1人。一番若い20代半ばの男が声を掛ける。
短く切った髪。精悍そうな顔。鍛え上げられた身体。如何にも軍人という感じの男は、真っ直ぐに俺を見る。
「噂のアリウス陛下にお会いできる機会など、滅多にありませんので。どうか俺と手合わせして頂けませんでしょうか」
こいつは自分の力に自信があるけど、決して傲っている訳じゃない。カサンドラの部下として、カサンドラをやり込めた俺に一矢報いようって感じだろう。
「おい、ヘクター。いきなり何を言い出すのだ?」
カサンドラが止めようとするけど。
「カサンドラさん、構わないよ。その方がカサンドラさんの部下たちも納得すると思うし」
動いたのヘクターだけだが。他の部下たちも思うところがあるから、止めなかったんだろう。
「アリウスがそう言うならば良かろう。どうせなら、おまえたち全員でアリウスに挑んでみるか?」
「カサンドラ閣下、遠慮させて頂きます。我々の役目は閣下を護ることですので」
最年長の部下が即答する。
「バリトン、おまえの判断は正しいが。詰まらんな」
「ありがとうございます。誉め言葉として受け取らせて頂きましょう」
結局、俺とヘクターが1対1で戦うことになったけど。
カサンドラの開始の合図同時に、俺はヘクターの意識を狩り取る。
ヘクターは何もできずに、その場に崩れ落ちる。
カサンドラが面白がるように笑って、部下たちが唖然としている。こいつらには、俺の動きが全く見えなかったんだろう。
ガトーとジャンたちも唖然としているけど。バーンの代わりに俺が勝ったことで、ちょっと喜んでいる感じだ。いや、おまえたちが勝った訳じゃないからな。
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