347話:迷宮の主の仕事
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俺は高難易度ダンジョン『グリューダの地下城塞』の『制御室』に。『迷宮の主』と一緒にいる。
「ところで。おまえに名前は無いのか?」
「はい。私はダンジョンを制御するために造られた存在ですので。名前は必要ありません」
『迷宮の主』が名乗らなかったから、察しはついていたけど。
『制御室』にいるのは、『迷宮の主』1人で。他には誰いない。
『迷宮の主』は一応、ダンジョンの魔物だから。ダンジョンコアから供給される魔力だけで生きているし。食事をする必要も眠る必要もないらしい。
こいつは自分の意思があるのに。ずっと1人で、『制御室』に籠っているってことか。
「俺はこれから他のダンジョンの『迷宮の主』にも会うことになると思うから。区別するために、おまえのことグリューダって呼ぶけど、構わないか?」
「はい。承知しました」
『迷宮の主』に名前をつけたところで、こいつがパワーアップするなんてことはない。
「それではアリウス様。普段、私がダンジョンをどのように制御しているか、説明させて頂きます。ですが、正直に言いますと。ダンジョンが完成してから、私はほとんど何もしていません」
元『ダンジョンの神』の草薙渉がグリューダに命じたのは、ダンジョンの細部の構造を造ることと、魔物と罠を配備すること。
ダンジョンの魔物は倒されても、時間が経てば勝手にリポップするし。発動した罠も自動的に元に戻る。
つまりダンジョンが完成してしまえば、グリューダがやることは何もなく。せいぜいが不測の事態に備えるくらいらしい。
「不測の事態っていうと?」
「その……アリウス様のようなダンジョンを破壊するレベルの脅威が現われたときですね」
グリューダは俺が収束させた魔力に脅威を感じて、慌てて『制御室』から出て来たらしい。
「映像を見るだけで解ったあれほどの魔力……さすがは『ダンジョンの神』であるアリウス様ですね」
俺が『ダンジョンの神』であることと、魔力の強さは関係ないけど。
何もやることがなくても、グリューダは苦痛を感じていないみたいだな。まあ、そんなことを言ったら、他のダンジョンの魔物も、冒険者が来ないと何もすることがないからな。
『制御室』の壁一面には、ダンジョンの中の各地と思われる映像が映し出されている。
「グリューダは、ダンジョンの中の様子を見ているみたいだけど。俺みたいな奴が来ることを警戒しているだけか?」
「はい。普通の冒険者には一切干渉しません。映像を眺めることで、暇潰しにはなりますが」
「ちなみにダンジョンの魔物で。グリューダのように自分の意思がある奴は、何か暇潰しをするものなのか?」
「その質問にはお答えできません。このダンジョンには、私以外に意思のある魔物はいませんから」
まあ、ここは高難易度ダンジョンだからな。最難関ダンジョンや『世界迷宮』なら、意思のある魔物がいるけど。
その後。俺はグリューダに『迷宮の主』の能力を一通り説明して貰った。
ダンジョンの中の構造を造ることと、魔物や罠を配置すること。一度造った後に構造や配置を変えることもできるらしいけど。変えてしまうと攻略済みの冒険者が再び訪れたときに困るから、基本的には変えることはないらしい。
構造が定期的に変わるダンジョンもあるけど。たぶんそういうコンセプトを草薙渉から指示された『迷宮の主』が、やっているんだろう。
その他の『迷宮の主』の能力は、魔物に直接指示して動かしたり。罠を自動的に発動させることもできるそうだけど。これも冒険者に干渉することになるから、実際にやることはないそうだ。
「『迷宮の主』って。ダンジョンが完成したら、本当に何もやることが無いんだな」
だからと言って、『迷宮の主』の存在を否定するつもりはない。俺のような不測の事態に備えるだけでも意味があるし。この世界に大量に存在するダンジョンを創るには、『迷宮の主』が必要だったことは解る。
「なあ、グリューダ。やることが無いなら、俺が新しく創るダンジョンの管理をしないか? そのダンジョンは構造や配置を頻繁に変えることを売りにするつもりだから、おまえが退屈することはないと思うし。
ダンジョンの魔物がダンジョンから出られないことは知っているけど。俺が『転移魔法』で移動させるし。他の『神たち』に話を通すから、問題ないだろう」
ダンジョンの魔物はダンジョンの外に出ることができない。これは『神たち』が決めたルールで。ダンジョンの外に出てこの世界に干渉しないことを条件に、『ダンジョンの神』は異常なレベルの魔物を生み出した。
『神たちのゲーム』のバランスを崩しかねない最難関ダンジョンや『世界迷宮』の魔物が存在する理由は、そういうことで。だから俺も『神たちの領域』に『世界迷宮』を余裕で超えるレベルの魔物たちを配置することができる。
ちなみにダンジョンに配置できる魔物の強さの上限は、ダンジョンコアの大きさで決まるから。中難易度ダンジョンや高難易度ダンジョンに、最難関ダンジョンレベルの魔物を配置することはできない。
「え……良いんですか?」
俺の言葉に、グリューダの表情が変わる。本気で喜んでいるな。
俺はグリューダを参考にして、自分で『迷宮の主』を創るつもりだったけど。わざわざ創らなくても、グリューダが暇しているんだからな。
他にも世界中にグリューダのような『迷宮の主』がいる筈だけど。まあ、俺がグリューダと出会ったのも何かの縁だし。少なくとも『迷宮の主』は暇なことに苦痛を感じている訳じゃないみたいだから。別のダンジョンを創るときがあれば、声を掛けてみるか。




