345話:ダンジョンの作り方
『自由の国』の街の拡張工事は順調に進んでいる。
俺は街の外壁を造って、整地をしただけで。外壁の補強や建物の建設は、ソフィア監修の下、アリサが指揮を執って進めている。
あとは移住者が増えるペースに合わせて、建物と居住区画を増やしていって。2番目の外壁の外側は、当面は畑と酪農のために使うつもりだ。
外壁を造るとき以外は、ソフィアとアリサに任せておけば良いし。『自由の国』の政務についても、俺が直接関わる必要があることだけやれば。あとはアリサに任せておいて、何の問題もない。
正直なところ、俺が何もしなくても『自由の国』の運営は問題ないだろう。俺の存在が抑止力になっていることは理解しているけど。それも『自由の国』の防備を強化すれば、解決してしまう話だ。
『自由の国』の戦力を増強して、魔族の氏族や他の国を刺激するつもりはないから。表向きは戦力を増強するつもりはないけど。
ギルモア大陸には、あれからも定期的に行っている。ちょっと派手に魔物を狩り過ぎて、『モンスターハントの神』の神から文句を言われたけど。
俺だって生態系を壊すほど、魔物を乱獲しないように考えていて。魔力で魔物の生息域を確認してから、狩りをする場所を毎回変えている。だから問題ないだろう。
最近。俺が始めたのが、新しいダンジョンを創ることだ。
俺は『ダンジョンの神』の力を手に入れて。『神たちの領域』に自分用のダンジョンを創って、攻略しているけど。
今回考えているのは『自由の国』に、誰でも挑める新しいダンジョンを創ることだ。
『自由の国』の街の近くに、『ギュネイの大迷宮』のような幅広いレベルの冒険者が挑めるダンジョンがあれば、訓練用に使えるし。『自由の国』に移住者を募るのにも、使えるだろう。
『ダンジョンの神』には魔力を使って、ダンジョンを創造する能力がある。だけどダンジョンを一から創るには、時間が掛かり過ぎる。
だから俺は『神たちの領域』に『自分の領域』を展開して。時間が流れる速度を、ほとんどゼロにした状態で。新しいダンジョンを創っている。
ダンジョンが完成したら、同じものをコピーして『自由の国』の街の近くにダンジョンを創ればいい。これで時間の問題は解決する。
あとは想像力の問題だ。俺はダンジョンに拘りがあるから、アイデアを具体的な形に変えるのに時間が掛かる。
これも『自分の領域』中で行えば、ほとんど時間は掛からない。だけど体感時間は経過するから。ダンジョン創りにあまり熱中しないように自制している。
※ ※ ※ ※
「そいう訳で。俺の代わりに、新しいダンジョンのデザインを考えないか?」
俺が話を持ち掛けたのは、元『ダンジョンの神』の草薙渉だ。
草薙渉は俺に『ダンジョンの神』の力を継承して、力を失ったけど。神として不老なのは変わらないし。こいつ自身の魔力も健在だ。
「何故、俺がそんなことをする必要がある?」
「おまえは元『ダンジョンの神』なんだから、ダンジョンに一番詳しいし。そもそもダンジョンを創るのが好きじゃなかったら、『ダンジョンの神』にならなかっただろう。俺たちの世界のダンジョンを創ったのは、全部おまえだよな?」
「その認識は間違いじゃないが。完全に正しくはない」
「どういうことだよ?」
「おまえたちの世界にダンジョンが幾つあると思っているんだ? そんなモノを全部、俺が自分で創っていたら、アイデアが幾つあっても足りないだろう」
確かにその通りだけど。だったら誰がダンジョンを創ったんだ?
「『世界迷宮』と最難関ダンジョンは全部俺自身が創った。
だが高難易度以下のダンジョンは、俺がオリジナルと呼んでいる攻略難易度毎の幾つかのパターンを創っただけで。
あとはダンジョンの枠組みだけを創って、中身は『迷宮の主』に任せていた」
『迷宮の主』って、何だよ? 初めて聞くんだけど。
「ああ。アリウス、おまえには言っていなかったな。『迷宮の主』はダンジョンの魔物の一種だが。アリウスもダンジョンの中枢であるダンジョンコアが、魔物を生み出したり。破損した箇所を、修復していることは知っているだろう?」
俺も『神たちの領域』にダンジョンを創ったから。ダンジョンコアのことくらいは知っている。
ダンジョンコアはダンジョンの魔物を生み出すエネルギー源で。永続的に魔力を生み出すことができる魔道具のようなものだ。只の魔道具と言ってしまうと語弊があるけど。
「『迷宮の主』は、ダンジョンコアを制御する能力を持っている。だからダンジョンを創るのが手間なら、コンセプトを『迷宮の主』に伝えて、あとは『迷宮の主』に任せれば良い。『迷宮の主』はさっきも言ったようにダンジョンの魔物の一種だから。『ダンジョンの神』のおまえなら、創ることができる筈だ」
つまり俺たちの世界の高難易度以下のダンジョンの大半は『迷宮の主』が制御しているってことか。
「じゃあ、新しいダンジョンも『迷宮の主』を先に創って。細かいところは『迷宮の主』に任せれば良いってことか」
「いや、何を言っているんだ。おまえは俺に新しいダンジョンのデザインを依頼したいんだろう? だったら俺に任せれば良い。どうせ時間は幾らでもあるんだ。これまでにない画期的なダンジョンを創ってやる」
結局のところ。草薙渉は『ダンジョンの神』を辞めて、時間が有り余っているし。ダンジョンを創るのが好きだから、自分でデザインしたいってことか。
ということで。『自由の国』の街の近くに創るダンジョンは、俺がコンセプトを伝えて。草薙渉にデザインを任せることにした。
だけど、それとは別に。俺は『迷宮の主』に興味があるから。別のダンジョンを創って、そっちは『迷宮の主』に任せるつもりだ。




