344話:拡張工事
「『自由の国』の街の外側に、新しい外壁を造って街を拡張するの? 良い話じゃない。私も是非協力させて」
みんなに『自由の国』の街を拡張することを相談すると。ロナウディア王国の公共工事を一手に担っているソフィアが即答した。
ということで。俺は『自由の国』の街の外壁の外側に、新しい外壁を造ることなった。
まずは『自由の国』の街の中心から距離を測って、新しい外壁を造る東西南北4点に目印になる岩を置く。
それから上空に飛んで。高高度から目印の岩を結ぶように、魔力で巨大な円を地面に描く。俺は常に魔力操作をイメージしてるから。正確に円を描くくらいは問題ない。
あとは土属性魔法で、円を描いた場所に地面から岩を隆起させて。高熱で岩を溶かして、形成しながら圧縮を加えて強度を増す。
地面の下に基礎部分は当然造ってあるし。壁の高さは10m。厚さは4mもあれば足りるだろう。
これを2回繰り返して。『自由の国』の街の周りに3重の外壁ができる。
あとは、とりあえず新しい2つの外壁に2ヶ所に穴を開けて。同じく土属性魔法で錬成した巨大な扉を設置しておく。
「さすがはアリウスね。これだけの広さがあれば、人口が10万人規模になっても全く問題ないわ」
ソフィアが嬉しそうに言う。新しく造った外壁の中にあるのは、郊外に作った畑くらいだけど。これで地上の魔物に畑を荒らされる心配はないし。空から魔物がやって来ても、畑の周りに配備したゴーレムで迎撃する。
まあ、これたけ街の敷地が増えると。警備のためのゴーレムを、『傀儡師』ヴィラルに追加で造って貰う必要があるし。外壁を金属と魔石で補強するとか。他にもやることは、たくさんあるけど。
俺は新しく造った2つの外壁の門を繋ぐように道を造る。岩を溶かして一体成型したから、凹凸のない滑らかな道だ。
「アリウス、この道も凄いわね。だけど、さっきから大量に魔力を消費しているでしょう。魔力は大丈夫なの?」
「これくらいなら、何の問題もないよ」
今の俺のMPは余裕で7桁あるからな。自然回復するMPは、5分で最大MPの1%程度だから。ソフィアと話しているうちに、消費したMPが回復する。
「まあ、仕方ないで。アリウスはんの魔力量は規格外過ぎて。うちらの感覚では測れんからな」
俺とソフィアのところに、アリサがやって来る。ドルイドのフォン・リエステラとを連れて。
「アリウスはん。敷地全体の整地までは、お願いしてええか? とりあえず、急場しのぎやが。警備用に使い魔と魔物を配備しておくわ」
アリサがそう言うと、上空に大量の烏が集まって来て。一番外側の外壁の上の各所に降り立つ。この烏は全て、アリサの使い魔だ。
フォンが魔法を発動すると、無数の蔦が地面から伸びて、外壁に絡みつく。この蔦はフォンが使役するトレントの一種で。そんなに強くはないけど、大量に召喚できる。何かが触れるとフォンが感知できるから。広範囲を見張るのに適しているらしい。
「あとの工事は必要に応じて、うちらで進めるわ」
「アリサさん、私も手伝うわ」
ソフィアが言うけど、アリサが止める。
「ありがたい話やけどな。新しい移住者が来るのは、まだ先の話やし。ソフィアはんには、ロナウディア王国で別の仕事があるんやろ。人手が必要なら、うちが手配するさかい。ソフィアはんは気にせんでええで」
「そういうことだよ。ソフィアは監修をしてくれるだけで十分だからな」
ソフィアは残念そうだけど。建設計画には加わって貰うからな。
アリサの計画だと。建築工事は、その手の人材を移住させることで賄うつもりらしい。
街の拡張工事は当分続くし。完成しても補修工事とか、仕事がなくなることはないから。十分な報酬を払えば、移住するメリットはあるだろう。
その他にも外壁に囲まれた安全な土地があるから。農業や酪農に携わる人が移住するメリットがある。
水源はすでに地下水を十分に確保しているし。それでも不足するなら、水魔法を発動する魔道具くらいは大量に持っている。
大量土地が足りなくなっても。さらに外側に壁を作れば良いだけの話だからな。
※ ※ ※ ※
それから2ヶ月ほど経って。新しい移住者が少しずつ移住して来た。
とりあえず、二番目の外壁の内側に建物を建てながら。建物を建てる一帯の周りに、一時的に新たな外壁を造って防備を固める。
広範囲を守るよりも、この方が守りやすいからだ。
「アリウスのお陰で、魔族との取引を始めることができた。アリウスには本当に感謝してるぜ!」
そんな『自由の国』の街にやって来たのは、ロレック商会のガルシアの紹介で。魔族との取引に加わることになったギュンター王国のディルト・ギュンター王子だ。
ギュンター王国が魔族と取引したいのは、金儲けだけが目的じゃなくて。魔族との交流を深めるために、直接取引したいって言うから。エリスに協力して貰って。エリスのマリアーノ商会の隊商に、ギュンター王国の商人を同行させることにした。
「ディルト。まさか、おまえ自身が魔族の領域に行くとは思っていなかったよ」
「ギュンター王国が魔族と本気で交流を深めたいなら。王子である俺が行くのが道理だろう。アリウス相手に偉そうなことは言えないが、俺も少しは腕に自信があるからな」
ディルトは100レベルを超えている。だけど魔族の領域には、もっとレベルが高い魔物が普通に生息しているし。魔族にもディルトより強い奴は山ほどいる。
それでもディルトは何も知らないで、魔族の領域に無謀に挑んだ訳じゃなくて。全部承知の上で、自分から魔族の領域に向かって。魔族との最初の取引を成功させた。
「まだ最初の取引をしただけで。しかもマリアーノ商会に同行させて貰っただけだが。これから自分たちで、自立して商売できるように頑張るから。アリウスには頼ってばかりで申し訳ないが、これからも協力して欲しい」
「ああ。勿論、協力するよ。俺たちも魔族との共存を進めたいからな」
『自由の国』が新しい移住者を募っていることは、ディルトにも話していて。
移住という形じゃないけど。ギュンター王国からも、魔族との取引を進めるための人材を外交官や、ギュンター王国に本部がある商会という形で、受け入れることにした。




