343話:次の一歩
シンディーとの一戦の後。俺たちは荒野で、バーベキューをすることにした。
食材は魔物の肉と『自由の国』から持ってきた野菜。
『自由の国』の街の外に畑を作って。今では大規模に野菜を育てている。
魔物対策として、『傀儡師』ヴィラル・スカールが造ったゴーレムを配備しているから。魔物に畑を荒らされることはない。
「こんなことを言うのも何だけど。大量の『殺人蟻』を見た後に、よく君たちは平気で食事ができるな」
串焼きを頬張る俺たちを見て、ケイナが苦笑する。シンディーは呆然自失って感じで、とてもメシが食えそうにないけど。今は仕方ないだろう。
「アリウスと一緒にいたら、こんなことは慣れたモノよ」
「こんなに大量の虫と戦ったのは初めてだけど。魔物は魔物だから」
ミリアとソフィアの言葉に、みんなが頷く。『自由の国』の街が魔物に襲われることもあるし。みんなもそれぞれの仕事で、魔物の相手をすることも少なくないからな。
バーベキューの支度と串焼きを作るのは、みんなと一緒に俺も手伝った。こうして外で一緒にメシを作って食べるのも楽しいよな。
みんなも楽しんでいるみたいだし。今日は一緒に魔物狩りに来てよかったと思う。
『白銀の翼』のメンバーたちも、酒を飲みながらバーベキューを食べている。昼間から酒とか、どうかと思うけど。みんなで出掛けたときくらい構わないだろう。
マルシアが大量に串焼きを平らげているけど。それも想定の範囲内で。魔物の肉なら俺の『収納庫』の中に幾らでもあるからな。
そんな風に俺たちがバーベキューを楽しんでいると。突然、シンディーがおもむろに立ち上がる。
シンディーは『収納庫』から蒸留酒の瓶を取り出して。瓶のまま一気に飲み干すと。
「あーッ、負けた、負けた! 一切反応すらできずに、徹底的に負けちまったからな。かえって、スッキリしたぜ!」
シンディーは犬歯を見せて、ニヤリと笑うと。
「アリウス。これからあんたのことは、兄貴と呼ばせて貰うぜ!」
シンディーの完全復活。ジェシカが心配していたけど。シンディーはこう言う奴だからな。
「ここまで図太いと、呆れて何も言えないわよ」
「ジェシカの姉御、そんなこと言うなって。落ち込んでたって、何も始まらねえんだ。あたしはもっと強くなってやるぜ!」
シンディーは何でも自分の都合が良いように考えるところがあるけど。こういう前向きなところは、悪くないと思う。
「シンディー。おまえが俺のことを何て呼ぼうが構わないけど。強くなりたいなら、もっと徹底的に鍛錬しろよ」
「アリウスの兄貴。あたしだって、毎日トレーニングを欠かしてないぜ」
「いや、そういうレベルじゃなくて。例えば毎日、ケイナやギジェットと真剣勝負するとかな。身体を鍛えるだけじゃなくて、戦闘技術を磨けよ。おまえ1人でケイナとギジェットを倒せるようになるくらいに」
狩人はレイド単位で魔物を狩るのが基本だから。個人として飛び抜けた強さを持つ奴は少ないんだろう。
だからシンディーたちは自分たちの強さに満足していたところがある。
「アリウスの兄貴は厳しいな。だがジェシカの姉御なら、それくらい余裕で出来そうだし。よし、決めたぜ。ケイナ、ギジェット。おまえら2人を相手にして、あたしが勝てるようになるまで。鍛錬に付き合って貰うからな」
「シンディー……マジかよ」
「ギジェット。こうなったシンディーは、もう止められないから。諦めるしかないね」
昼飯の後は、みんなで普通に魔物狩りをして。大量の魔物の素材という土産を手に、俺たちは帰ることになった。
※ ※ ※ ※
それから2週間が経って。俺は今でもギルモア大陸へ行ってるけど。他にもやることが増えて来たから、頻度は減っている。というのも――
「アリウスはん。そろそろ『自由の国』の街を大規模に拡張せえへんか? 移住者が増えて、手狭になって来たからな」
今の『自由の国』の街の人口は8,000人ほど。外壁に囲まれた市街地には建物が増えて。空き地はあまり見当たらない。
俺が『自由の国』を創った目的は、人間と魔族の共存を進めるためだ。
だけど、これまでは『RPGの神』の件があったから。『RPGの神』の脅威をなくすことを優先して。『自由の国』の実務はアリサに任せて来た。
まあ、人間と魔族の共存を一朝一夕に勧められる筈もないし。急ぐつもりはないけど。
「だったら、この際。『自由の国』への移住者を、もっと大々的に募ってみるか」
勿論、新たな移住者が魔族と問題を起こしたら元も子もないから。身元や素性はキッチリ調べるし。魔族のさらなる移住者を求めるには、魔王アラニスや魔族の氏族の協力が欠かせないけど。
「アリウスはんなら、そう言うと思うたわ。これが街の拡張案の図面と。こっちが移住者を募る国と魔族の氏族のリストや」
用意周到なアリサは、すでに資料を用意していた。
「みんなにも相談する必要があるけど。概ね、アリサの計画で問題ないだろう。移住者の身元や素性をチェックするのも、アリサに頼むことになると思うけど」
「そっちも抜かりないで」
アリサの情報収集能力と人脈は、エリクに匹敵するし。非公式だけど、アリサは独自の諜報組織を作っているらしい。
他の組織に所属したり、他の仕事しながら。アリサの指示があれば、確実にこなす連中だ。
「細かいところは後で修正するとして。街の外壁の拡張は、先に手を付けて問題ないやろ。今回もソフィアはんに頼むんか?」
最初に『自由の国』の街を造ったときは、ソフィアに工事全般を依頼したけど。
「いや、ソフィアはロナウディア王国の公共工事で忙しいみたいだしな。監修はソフィアにお願いするつもりだけど。外壁造りは俺がやるつもりだよ」
細かい作業はしたことがないから、俺1人じゃ無理だけど。外壁を造るだけなら魔法を使えば、そんなに難しいことじゃないからな。




