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309話:アーチェリー商会


「RPGの神の件では、アリウスにすっかり世話になって……いや、そんな言葉じゃ、全然足りないな。アリウス、もう一度言わせてくれ。本当に、ありがとう。俺がこうして、アーチェリー商会で商売を続けられるのも。全部、アリウスのおかげだ」


 ブリスデン聖王国のダグラスの街にあるアーチェリー商会の本社を訪れて、フレッドに会うと。もう何度目になるか解らない礼を言われた。


「フレッド、何度も言わせるなよ。おまえは俺の友だちだし。俺としてもRPGの神との因縁を片付けるのに、良い機会だったからな。だけどRPGの神が完全諦めたとは思わないし。東方教会も一枚岩じゃないから、おまえやアーチェリー商会の人間を狙う奴はまだいるだろう。だから油断はするなよ」


「解っているさ。アーチェリー商会の社員の中に紛れ込ませていた護衛もいなくなったことだし。ブリスデン聖王国の連中が見張っているとは言っても、自分たちのことは自分たちで守るのが基本だからな」


 俺はガルドに依頼して『奈落』の暗殺者たちを、アチェリー商会の社員として紛れ込ませていた。RPGの神の件が片づいた後も用心のために、しばらく護衛を続けたけど。そろそろ問題ないだろうと、最低限の人数(・・・・・・)だけを残して。暗殺者たちには『奈落』に戻って貰った。


「護衛の件でも、アリウスには随分と金を使わせたからな。時間は掛かると思うが、借りた金は絶対に返すからな」


「別に貸したつもりはないけど。フレッドがそう言うなら、アーチェリー商会と『自由の国(フリーランド)』の交易の中で。少しずつ返してくれよ」


 フレッドは突然勇者の力に覚醒したけど。根っからの商売人で、勇者になる前は戦いとは無縁の生活を送っていたみたいだし。商売をしているときの方が、生き生きとしているよな。


「ああ、そうさせて貰うよ。金だけの話じゃなくて、俺もアリウスが目指す魔族と人間の共存に協力させてくれ」


 交易を通じて魔族と人間の繋がりは、少しずつだけど確実に築かれている。


 世界一の商会であるガルシアとミランダのロレック商会と、エリスのマリアーノ商会。そこにフレッドの実力もあって急成長しているアーチェリー商会が、魔族との取引に加わったことで。近い将来、魔族との取引が当たり前のものになるだろう。


※ ※ ※ ※


「ヴィレッタさん、久しぶりだな。『星屑(スターダスト)』の魔導具を造ったとき以来か。あのときは色々とアドバイスしてくれて助かったよ」


「アリウス、何を言っているんだい。君には魔道具開発のことで、こちらこそ世話になっているからね。協力するのは当然だよ」


 この日。俺はノエルの職場であるロナウディア王国の魔法省で。ノエルと一緒に、ノエルの直属の上司である第8研究室室長のヴィレッタ・コーネリアスと会っている。


「ノエルも研究者として優秀だからね。優秀な部下のおかげで、私も助かっているよ」


「ヴィ、ヴィレッタ室長……ア、アリウス君の前だからって、褒めないでください! 私はそんなに優秀じゃないですよ」


「ノエル、謙遜することはないよ。私はお世辞を言うのが嫌いだからね」


 ヴィレッタに褒められて、ノエルが真っ赤になる。こう言うところは、ノエルは昔から変わらないな。


「ところで。アリウスは魔法省に何の用あるんだね? いや、アリウスが魔法省に来ること自体は一向に構わないが。君がやることはスケールが大きいから、私も興味があってね」


「ヴィレッタさん、期待させたなら悪いけど。今日はノエルの職場見学に来ただけで。仕事の邪魔をするつもりはないから、しばらくここにいても構わないか?」


「ああ、勿論だ。そういう話なら、私も二人の邪魔をするつもりはないよ。ノエルが一生懸命研究しているところを、存分に見て行ってくれ」


 ヴィレッタの言葉に、ノエルがまた真っ赤になる。


「それと……ちょうど良いか。ノエル、君に王立魔法学院の臨時講師をして欲しいという依頼があってね。勿論、受ける受けないは君の意向次第だけど。これも良い経験だから、私としては臨時講師になることを勧めるよ」


「へー……ノエルが学院の先生か」


「アリウス君……わ、私に先生なんて無理だよ」


「そんなことはないだろう。ノエルは人に教わるときも、教えるときも一生懸命だから。教師としても十分やっていけると思うよ」


 『自由の国(フリーランド)』の城塞で、使用人が何か解らないことがあれば。ノエルは率先して教えているし。他のみんなに何か教わるときも、ノエルは本当に一生懸命だからな。


「さすがは、アリウス。ノエルのことを良く見ているね。君は良い旦那さんだな」


「ヴィレッタさん、揶揄(からかわ)わないでくれよ。俺はノエルが大切だから、ノエルのことを良く見るのは当然だろう」


「はいはい、ごちそうさま。寂しい年長者の前では、少しは遠慮して欲しいモノだがね」


 ヴィレッダは40代後半だけど、一度も結婚したことがないらしい。自分の私生活について、あまり話をするタイプじゃないけど。恋愛よりも研究が好きで、これからも研究者として一人で生活を続けるつもりだとノエルは聞いているそうだ。


「俺は人に勧めるほど恋愛経験がないし、余計なことをするつもりはないけど。ヴィレッタさんの気が変わったときは言ってくれよ。俺もそれなりに知り合いがいるからな」


「そうだな。私と同じ年代で、アリウスのような男がいたら……いや、ノエル。そんな顔をしないでくれ。軽い冗談だ」


 ノエルに警戒されて、ヴィレッタが苦笑する。


「ヴィレッタ室長、冗談じゃ済みませんよ。今でもアリウス君に近づいて来る女の人が沢山いるんだから」


「そういうのは、俺の方が興味ないから問題ないだろう」


「勿論、アリウス君のことは信じているけど。女の子に囲まれてるいアリウス君を見るのは、私たちにとって良い気分じゃないよ」


 みんなが嫌がることは、したくないけど。そんなことを気にしていたら、一人で外出できなくなる。俺も十分気をつけるから、勘弁して貰うしかないな。


「それじゃあ、アリウス。ゆっくりと職場見学をしてくれ」


 そんな話を俺とノエルがしているうちに。ヴィレッタは逃げるように立ち去った。



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