308話:男子会
「アリウスは、すっかり落ち着いたね。国王が板について来たって言うか……いや、これまでも十分、国王らしいことをして来たと思うけど」
「エリクが言いたいことは解るよ。最近は時間に余裕があるからな」
さらに半年が過ぎて。俺はロナエディア王国の王宮で、エリクと会っている。
一応、公務の扱いだけど。会っているのはエリクの私室で。
「エリクも、そろそろロナウディア王国の国王になるんだろう? 俺も敗けていられねえぜ。もっと頑張らないとな」
「俺もバーン以上に頑張らないと。兄貴やバーンとは目指すモノが違うが。俺もロナウディア王国の公爵として、王国を支えて行きたいからな」
バーンとジークもお忍びで来ている。女子会ならぬ男子会って感じだな。
「バーンはグランブレイド帝国の皇帝を目指すのか? 確か、バーンは継承権的には第2位だろう。カサンドラもいるから、本気で皇帝を目指すなら色々と面倒そうだな」
バーンには2人の兄と姉がいる。1番上が姉であるカサンドラ・ルブナス大公。次が長兄の元皇太子のドミニクだけど。俺とエリスとのトラブルのときに廃嫡されたままだ。
次兄は病弱で、政治に興味がないようだけど。現継承権第1位はこの次兄だ。
だけど1番問題になりそうなのは、エリクの奥さんのカサンドラだろう。カサンドラは相当な野心家で、エリクと2人で二つの大国を手に入れるつもりだという噂だ。
まあ、カサンドラ本人が否定しないから、噂程度の話じゃないけど。
「正直に言うと、俺はまだ迷っている。カサンドラの姉貴と争いたくないと言うよりも、これは俺自身の問題だな。俺がグランブレイド帝国の皇帝になる器なのか。カサンドラの姉貴やエリク、アリウスを見ていると。自分に自信があるとは言えないぜ」
「決めるのは、勿論バーンだけど。僕としてはバーンが皇帝になってくれた方がありがたいかな。野心があり過ぎるカサンドラに、これ以上権力を握らせるのはどうかと思うからね」
カサンドラがグランブレイド帝国の皇帝になったら、本気で世界征服を目指しかねないからな。
「アリウスや魔王アラニスがいるんだから、さすがに世界征服は無理だろうけど。カサンドラのことだから、2人を取り込もうと画策するだろうね」
「兄貴はサラッと、物凄く物騒な話をするな。だが可能性がない話じゃないから、俺もバーンが皇帝になって欲しいぜ」
カサンドラはSSS級冒険者クラスの実力がある上に、エリクに匹敵する策略家だし。これまでも相手の方から仕掛けさせて、幾つもの国をグランブレイド帝国に併合して来た。
「戦争は外交手段の1つだから、全否定はしないけど。戦争になれば少なくない被害がでるから、できれば避けたいところだな」
俺は実力行使で戦争を止めるつもりはない。私利私欲で一方的に侵略するなら話は別だけど。カサンドラは強かだから、脇が甘いことはしない。
「こうして俺たちが集まって政治の話をするなんて、学院時代は想像していなかったぜ。立場が立場だから、仕方ないが」
俺たちはゲームの『恋学』だと、攻略対象のキャラだけど。俺以外は大国の王子や皇子だから、継承争いに巻き込まれても仕方ないし。むしろエリクやカサンドラは、平和的に話を進めていると思う。
「なあ、バーン。急いで決める必要はないんだし。おまえは自分がやるべきことをしながら、じっくり考えれば良いだろう。俺はバーンのことを応援しているからな」
バーンが何を選ぼうとしても、俺たちは友だちだからな。
「ああ、親友。頼りにしているぜ」
この半年間の間に、俺は『自由の国』の国王としての仕事をこなしつつ。時間があるときに、エリスたちみんなの仕事場に同行して。みんなの仕事ぶりを見たり、みんなの部下や同僚たちと話をした。
特にエリスはロナウディア王国の公爵で、マリアーノ商会の仕事仕事もしている。ソフィアも同じく公爵で、ロナウディア王国の公共工事に携わっている。
もし2人が長期間休むことになっても、部下たちが仕事を回せるように人材を育てているみたいだけど。俺も少しはサポートしたいからな。
まあ、それはそれとして。国王としての仕事をするのにも慣れて来たし。
俺は『神の領域』にダンジョンを創って。時間を気にせずにダンジョンを攻略できるようになったけど。もっと強くなるためにダンジョンを攻略するのとは別に、原点に戻って一人の冒険者として。冒険を楽しみたいと思うようになった。
グレイとセレナは、今度は2人で『世界迷宮』を攻略中だし。ジェシカたち『白銀の翼』や、シリウスとアリシアたちのパーティーと毎回一緒だと、かえって邪魔をすることになるから。
俺は1人で冒険に出掛けようと思う。勿論、時間があるときだけで。他のことよりも優先するつもりはないけど。