307話:平常モード
「こうしてアリウスと酒を飲むのも、久しぶりだな」
RPGの神の件が片づいてから1ヶ月が過ぎて。俺はカーネルの街の冒険者ギルドで、ゲイルたちと酒を飲んでいる。
俺は『神の領域』から、この世界に戻って来て。エリスたちみんなと毎日、ゆっくりと夜を一緒に過ごして。みんながそれぞれ休みの日には、一緒に出掛けている。
だけど、それ以外にも色々とやることがあった。
俺が最初にしたのは『世界迷宮』の攻略に集中しているときに、協力してくれた人たちに礼をしに行くことだ。
エリクとカサンドラに、冒険者ギルド本部長のオルテガ。俺の父親のダリウスと母親のレイアに、ロナウディア王国のアルベルト国王と、グランブレイド帝国のヴォルフ皇帝。ロレック商会のガルシアとミランダにも、交易を通じて色々と世話になったからな。
バーンとジークのところにも話をしに行って。俺がいない間、『自由の国』のことを全部任せていたアリサとシンや、クスノキ商会のメンバーたち。他にも『自由の国』を守ってくれたヒュウガたちにも礼を言って回った。
『アリウスはん、うちには礼なんてええで。その分の報酬を貰ったからな』
アリサには『自由の国』のことを全部任せるときに、相応の追加報酬を払ったけど。アリサがいなかったら、俺は『世界迷宮』の攻略に集中することなんて、できなかったからな。
『アリウスはんが、評価してくれるのは嬉しいけど。うちは所詮、番頭やと自覚しとるで。『自由の国』の連中は、ここがアリウスはんの国だから集まって来たんやし。うちの言うことを聞くのも、アリウスはんの影があるからや』
さすがに俺を買い被り過ぎだと言っても、アリサは決して譲らなかった。
『アリウスはんがそう思うなら、追加報酬は喜んで受け取るで。せやけど、そんなことよりもや。アリウスはんの時間があるときでええから、他の『自由の国』の連中に声を掛けてやってくれんか?』
アリサ曰く。『自由の国』に集まって来た連中は、ここが俺の国だから移住して来たんだから。俺と直接話をする機会があれば、大抵の不満は解決するらしい。
まあ、今の俺はそこまで忙しくないし。時間があるときに、『自由の国』の連中と話をするくらいは構わないけど。
そして、もう1人。俺が礼を言いに向かったのは、魔王アラニスのところだ。
『神たちのルール』には強制力があって、RPGの神がルールを無視して暴挙に出ることはできないと予想していたけど。俺の予想が外れている可能性もあった。
だから俺がいないときに何かあったら頼むと、魔王アラニスに言っておいた。アラニスなら大抵のことは、どうにかできるからな。
『まさか、アリウスが『ダンジョンの神の力』を手に入れるとはな。こんなことはアリウスにしかできないだろうね』
魔王アラニスは面白がるように笑った。だけど俺が『ダンジョンの神の力』を本当に手に入たのか、疑う素振りは一切見せなかった。
俺と魔王アラニスは一緒に魔界に行った戦友だからな。それくらいは信用されているってことか。
『ところで。アリウスはこれから、どうするつもりなんだ? 神の力を手に入れて、RPGの神の件が片づいたから。もう満足したという訳ではなかろう?』
勿論。俺はこれからも強くなるために、ダンジョンに挑み続けるつもりだ。
俺はダンジョンの神の力を手に入れたことで、色々と便利なことができるようになった。
新しいダンジョンを創るスキルも、その一つで。俺は自分の思い通りのダンジョンを創ることができる。
せっかく時間ができたのに、みんなを放っておいて。ダンジョンに熱中するつもりはないけど。時間の問題は『神たちの領域』にダンジョンを創れば解決できる。
神たちは『神たちの領域』の中に自分の『支配領域』を展開することができる。俺が元ダンジョンの神である草薙渉と最初に会ったのも、あいつの『支配領域』だった。
『支配領域』のルールは神が自分で決めることができて。時間の流れる速度を変えることも可能だ。
だからダンジョンを創るのも、攻略するのも自分の『支配領域』の中で行えば、時間の問題は全部解決する。
みんなだって、それぞれやることがあるから。俺はみんなと24時間一緒にいる訳じゃない。空いている時間を有効利用するなら、問題ないだろう。
ということで。俺はすでに『神たちの領域』に『世界迷宮』を超える攻略難易度のダンジョンを創って攻略を始めている。
攻略が進んだら、さらに攻略難易度が高いダンジョンを創れば良いし。『神たちの領域』にあるダンジョンに挑むのは俺だけだから、どんなに攻略難易度を上げても問題ないだろう。
勿論、俺にとって、みんなのことが最優先だけど。みんなも、それぞれやることがあるから。みんなが休みの日以外は、俺の自由に過ごせる時間があるし。
ゲイルたちや、ジェシカたちSS級冒険者パーティー『白銀の翼』のメンバーにも、俺の双子の弟と妹のシリウスとアリシアが世話になっているから。
これまでも礼をするために、『白銀の翼』のメンバーが滞在している高難易度ダンジョン『竜の王宮』の近くの街や。カーネルの街の冒険者ギルドに何度か訪れているけど。夜はみんなと過ごすことにしているから、これまで訪れたのは昼間で。こうして一緒に酒を飲むのは、本当に久しぶりだ。
「アリウスさんは、すっかり女の尻に敷かれているな。酒くらい、いつでも好きに飲みに行けば良いだろう?」
ツインテール女子のヘルガが、そう言いながら俺のグラスに蒸留酒を並々と注ぐ。
「俺は別に尻に敷かれている訳じゃないからな。みんなと一緒に過ごすのが楽しいんだよ。今日だって、たまには一人で飲みに行ったらと、みんなが言ってくれたんだ。ホント、良くできた奥さんたちだよ」
「アリウス兄さん。そろそろ、僕たちの相手もしてして欲しいんだけど」
「そうよ、アリウスお兄ちゃん。ゲイルさん、ヘルガさん。アリウスお兄ちゃんを独占しないでよね」
シリウスとアリシアが俺の腕を引っ張る。2人も17歳になって、すっかり冒険者として一人前になったけど。俺の呼び方は相変わらずだ。
「シリウス、アリシア。明日、久しぶりにダンジョンに一緒に行くか」
「え……ホント、アリウス兄さん!」
「アリウスお兄ちゃん、凄く嬉しいわ。大好き!」
アリシアが俺の腕に抱きつく。アリシアは身体的にも、色々なところが成長しているけど。こういうところは、まだまだ子供っぽいよな。




