305話:話し合い
それから俺を含めた神たち全員が集まって、話し合いをすることになった。
元ダンジョンの神である草薙渉もオブザーバーとして参加する。
だけど話し合いは全然噛み合わなかった。原因はRPGの神と他の神たちの考え方の違いだ。
『神たちのルール』とは、簡単に言えば『神たちのゲーム』を成立させるために。この世界に干渉することの制限を決めたモノで。
神によって干渉できることは違うけど。それぞれ範囲が決まっていて、直接世界に干渉することは一切できない。神が直接干渉したら、この世界を壊してしまうからだ。
干渉する回数にも制限があるけど。制限ギリギリの回数まで世界に干渉するのはRPGの神だけだ。他の神たちは下手に干渉すればゲームが詰まらなくなるからと、ほとんど世界に干渉することはない。
RPGの神がやったことは迷惑極まりないけど。倫理観を無視すれば、ゲームに勝ちたいって気持ちは解らなくはない。『神たちのゲーム』の勝利条件は、自分たちが創ったこの世界を自分の色に染めることだ。
だけど、そんな曖昧な勝利条件で本気で勝とうと思っているのは、RPGの神だけで。他の神たちは、自分の領域で起こることを眺めて楽しんでいるだけで。他の神と対戦しているつもりはないみたいだからな。
「RPGの神。おまえがやっていることは的外れだし、只の悪足掻きなんだよ。おまえは勇者が魔王を倒す王道RPGの世界を再現したいみたいだけど。そもそも勇者が人を狂人化させるスキルを使う時点で全然王道じゃないし。
俺はダンジョンの神になったから、年を取って死ぬことはない。この世界には魔王アラニスもいるんだから。どんな奴に勇者の力を与えても、おまえの思い通りにはならないからな。
そんなことよりも、おまえも他の神のように、他のやり方でゲームを楽しむ方法を見つけたらどうだよ?」
「魔王アラニスと良い、貴様と良い…・どうしてイレギュラーな存在が、私の計画の邪魔をするのだ? ましてや、この世界の存在に過ぎない貴様が、神になるなどおかしいだろう!」
「おまえ、何を言っているんだよ? 俺が『ダンジョンの神の力』を継承したのは『神たちのルール』に基づいたモノだよな」
『神たちのルール』には強制力があるから、いくら神でもルールに抵触することはできない。
神の力を継承させる条件も『神たちのルール』で決められていて。『神たち』全員が絶対に達成できないと判断した条件をクリアした者には、神の力を継承する権利が与えられ。
『世界迷宮』をソロで完全攻略することは、神の力を継承するための条件として設定したモノの一つだ。
「絶対に達成できない条件をクリアするなど……理論的矛盾だろう?」
「絶対に達成できないと判断したのは、おまえたちの勝手だけど。俺が『世界迷宮』をソロで攻略したのは事実なんだから、認めるしかないだろう」
俺はRPGの神を正面から真っ直ぐに見る。
「俺はこれ以上、おまえの悪足掻きに付き合うつもりはないからな。俺の条件は二つ。おまえが俺たちに干渉することを止めることと、フレッドを解放すること。この条件が飲めないなら、俺はおまえと徹底的に戦う。勿論、『天啓』で東方教会とか、おまえの手先たちに、もうフレッドを狙うなと命令することも条件に含めるからな」
「貴様貴様に都合の良いことばかり……貴様は、神である私に命令するつもりか?」
「命令じゃなくて、話し合いだろう。嫌なら俺と戦えば良い。俺はそれでも構わないよ」
RPGの神はこれ以上、俺と戦いたくないらしく。俺の条件を呑んだ。
これでRPGの神が完全に大人しくなるとは思わないけど。他の『神たち』が見ている前で制約をつけたから、下手に動けなくなるだろう。
「なあ、RPGの神。俺は『ダンジョンの神の力』を手に入れて、『神たちの領域』に自由に来れるようになったから。定期的におまえに会いに行くよ」
目的はRPGの神の監視と嫌がらせのためだ。
「な……」
RPGの神は唖然とするけど。別に『神たちのルール』に抵触することじゃないし。ダンジョンの神になった俺が『神たちの領域』に行くのは普通のことだからな。
※ ※ ※ ※
「「「「「アリウス、お帰りなさい」」」」」
「みんな、ただいま」
『自由の国』に戻った俺を、みんなが迎える。
RPGの神の件も、とりあえずは片づいたことだし。俺は久しぶりに、みんなとゆっくりした時間を過ごすことにした。
『世界迷宮』を完全攻略しても。勿論、俺はダンジョンの攻略を止める訳じゃない。
むしろ俺がダンジョンの神になったことで、色々とできるようになったから。これからも平常モードで、ダンジョン攻略を楽しもうと思う。
神たちの話し合いの後。元ダンジョンの神である草薙渉から約束通りに、この世界について色々と教えて貰った。その中には俺たち転生者のことが含まれる。
どうして俺たちがこの世界に転生したのか。そしてもう一つ、俺が知りたかったこと――
それは俺と同じ転生者のミリアに、前世の記憶がない理由だ。




