304話:神との戦い
ダンジョンの神になることで年を取らなくなることの意味は、俺も理解しているつもりだ。
だけどそんな先の話は、そのときになってから考えれば良い。
「解ったよ。俺が『ダンジョンの神の力』を継承する」
そう言った瞬間。途轍もなく膨大な魔力が、俺の身体に流れ込んで来る。
フレッドが勇者に覚醒したときも、きっとこんな感じだったんだろう。
ステータス画面に表示されるダンジョンの神のスキルの数々。それぞれのスキルがどんなモノなのか。頭の中に勝手に浮かんでくる。
これで『ダンジョンの神の力』を継承したってことか。
「アリウス。これでおまえは新たなダンジョンの神になった。神となったおまえは『神たちの領域』に足を踏み入れることができる」
「じゃあ、RPGの神を倒して来るよ」
ダンジョンの神だった男に促されて、俺は光の扉を潜った。
光の扉を抜けると、どこまでも続くような距離感のない空間が広がっている。
足元には地球のような、だけど大陸の形が違う青い惑星がある。この星が俺たちがいる世界ってことか。
「貴様は……アリウス・ジルべルト! どうして、貴様がここに……」
『神たちの領域』には先客がいた。
背中まで伸びたプラチナの髪と金色の瞳。人では決してあり得ないほどの完璧な美女。どうやら、こいつがRPGの神みたいだな。
「RPGの神、そんなに驚くなよ。俺はダンジョンの神から力を受け継いたんだ」
「何だと……奴が裏切ったのか……」
「裏切った? 俺に『ダンジョンの神の力』を継承させたのも『神たちのルール』の範囲なんじゃないか? ルールに従わなければ、ダンジョンの神は俺に干渉できないだろう」
『神たちのルール』には強制力がある筈だ。只の約束ごとだったら、RPGの神の性格なら、とうにルールを破っているだろう。
図星だったのか、RPGの神の顔色が変わる。神でも顔色が変わるんだな。
「だが貴様が『神たちの領域』にいるなら、私が手を下しても構わないと言うことだ。我々神の創造物に過ぎない人間風情が……思い上がるな!」
RPGの神は足下にある星から、魔力を集めて集束させる。こいつも神だから、世界の魔力を吸収して使えるってことか。
光の渦のように集まって来る魔力が全部凝縮されて、超高濃度の魔力の球体ができる。
こんなモノが直撃すれば『世界迷宮』のラスボスも一撃で消滅するだろう。
「私の思惑を散々踏み躙りおって……アリウス、本物の神の力を思い知るが良い!」
PRGの神が放った魔力の球体が、膨張しながら超高速で迫る。周囲の空間を埋め尽くす膨大な魔力の光。こんなモノに飲み込まれれば、俺も無事じゃ済まないだろう。だけどさ――
『短距離転移』を発動してPRGの神の頭上に飛ぶと、魔力を収束した2本の剣で切り裂く。
『世界迷宮』をソロで攻略した俺にとって、こいつの動きは遅過ぎるんだよ。
身体を深く切り裂かれたRPGの神が呻き声を上げる。今の俺の魔力量と魔力操作の精度なら、ダンジョンの神のスキルに頼らなくても、攻撃が通用するようだな。
まあ、RPGの神は膨大な魔力で直ぐに再生するけど。
RPGの神は周囲に無数の魔力の塊を出現させて、俺に集中砲火を浴びせる。だけど360度全方位からの攻撃にも慣れているからな。
俺は高速移動と『短距離転移』を繰り返して、RPGの神の攻撃を全て躱す。
「な、何故だ……何故、私の攻撃が当たらない?」
「おまえは只魔力が膨大なだけだからな。そんな雑な攻撃は俺に当たらないよ。おまえは膨大な魔力があるから、直ぐに再生するみたいだけど。おまえの魔力が本当に無限か試してみるか?」
俺は魔力を収束させた球体を無数に出現させる。集中砲火を浴びせるのは、こいつの専売特許じゃないからな。
RPGの神は瞬間移動して躱そうとするけど、それくらいは想定している。RPGの神が転移した瞬間、俺は『索敵』で位置を捉えて。魔力の球体全部を『短距離転移』させて叩き込む。
爆発したような膨大な魔力に飲み込まれて、RPGの神は絶叫を上げて消滅する。
だけど相手は神だからな。一瞬でRPGの神の身体は再生した。
「まあ、これくらいで終わるなんて思っていないからな」
俺は再び無数の魔力の球体を出現させると同時に、一瞬で距離を詰めて。2本の剣でRPGの神の身体を4つに切り裂く。『短距離転移』で離脱した直後、魔力の球体の集中砲火を浴びせる。
RPGの神の絶叫が響いて身体が消滅する。勿論、RPGの神は直ぐに再生するけど。再生する度に消滅させる。
これくらいの攻撃なら今の俺の魔力量なら全然余裕がある。魔力の消費量が回復量を少し上回る程度だから。一週間はぶっ続けで戦うことができるだろう。
「ま、待て……アリウス、待つのだ!貴様も神の一員になったのだろう? ならば争いごとは『神たちのルール』に従って解決するべきであろう!」
RPGの神が泣きを入れる。まあ、こいつは俺たちみたいな戦闘狂じゃないし。傷つく度に絶叫しているから、痛みは感じているんだろう。
「おまえが先に仕掛けた癖に、何を言ってるんだよ? 俺の魔力が尽きるか、おまえが消滅するか。それまでは付き合って貰うからな」
RPGの神を消滅させることが可能なら、その方が後腐れがない。
「アリウス。おまえの気持ちは解るが、とりあえず話くらいは聞いてやったらどうだ? RPGの神が何か企んでいたとしても、今のおまえには通用しないだろう」
話に割り込んできたのは元ダンジョンの神だ。まあ、こいつには『ダンジョンの神の力』を継承して貰った借りがあるからな。
「解ったよ。ところで、おまえのことは何て呼べば良いんだ?」
「草薙渉。これが人間だった頃の俺の名前だ」
なんか面倒臭そうな話が出て来たけど。神たちのことについても、後でじっくり話を聞かせて貰うからな。




