303話:神たちの資格
「なあ、ダンジョンの神。RPGの神と直接戦う方法ないのか? 俺はRPGの神を本気で倒したいんだよ」
グレイとセレナと一緒に『世界迷宮』の255階層を攻略した後。俺は天井に向かって呼び掛ける。
ダンジョンの神が見ている気がしたからだ。
俺は直感で動くタイプじゃないけど。ギリギリの戦いを繰り返して来たことで、俺は敵の気配に敏感になったから。何となくだけど、ダンジョンの神の気配を感じたんだ。
『RPGの神を倒したいだと? ならば世界迷宮』を完全攻略して、おまえの力を示せ。話はそれからだ』
ダンジョンの神はアッサリ応える。まあ、答えは予想していたけど。ダンジョンの神は『世界迷宮』を造るような脳筋だからな。
「『世界迷宮』の完全攻略か。元々、俺たちは攻略するつもりだったから構わねえが。もっと徹底的に攻略する理由ができたな」
グレイが獰猛な笑みを浮かべる。グレイと俺は同じ戦闘狂だからな。
「そうね。どうせアリウスはソロで『世界迷宮』の完全攻略するつもりなんでしょう? だったら、まずは3人で完全攻略するわよ」
セレナは自分は戦闘狂じゃないって言うけど違う。俺やグレイと同じ目をしている。
「ああ。グレイ、セレナ。フレッドを助けたいのもあるけど。俺はRPGの神を許すつもりはないからな」
勇者と魔王の戦いを仕組んだこと。この世界の魔神や神たちを誑かして、俺を殺そうとしたこと。世界中でスタンピードや、高レベルな魔物の出現が頻発していることも、全部RPGの神の仕業だ。
RPGの神を止めないと、これからも同じようなことが起きるだろう。だから俺はRPGの神を倒したいんだよ。
『自由の国』に戻ると。みんなにダンジョンの神と話したことを伝える。
「つまりアリウスは『世界迷宮』の攻略に集中するってことね。私は構わないわよ。アリウスを好きになったときから、貴方に生き方を変えて欲しいと思ったことはないわ」
エリスが真っ直ぐに俺を見つめる。
「無茶だけはしないでと言いたいところだけど。アリウスにとっては無茶じゃないんでしょう」
ソフィアが困った顔をする。
「ホント、アリウスは仕方ないんだから。『自由の国』にはアリサさんやシンさんだっているし。私たちのことは心配要らないわ」
ミリアが悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「アリウス君と会う機会が減るのは寂しいけど、我慢するよ。私も自分にできることで頑張るから」
ノエルが甘えるように、俺に抱きつく。
「アリウス。シリウスとアリシアのことは私たちに任せて。カーネルの街にはゲイルたちもいるんだし。シリウスたちに何か困ったことがあったら、私たちが面倒を見るわよ」
ジェシカが頼もしいな。
「みんな、ありがとう。まあ、定期的に戻って来るし。何かあったときは『伝言』をくれれば、直ぐに駆けつけるからな」
こうして俺とグレイとセレナは『世界迷宮』の攻略に専念することになった。
※ ※ ※ ※
それから約1年で、俺とグレイとセレナは『世界迷宮』の全400階層を完全攻略した。
さらに半年後。俺は『世界迷宮』のラスボスにソロで完勝できるようになる。
この1年半の間に、世界中で何度もスタンピードが起きた。
その度に冒険者ギルド本部長のオルテガは、SSS級冒険者を中心に派遣して。自分自分も討伐に参加した。
冒険者に復帰したエイジも、ジュリアと一緒に駆けつけて、正義を執行した。昔のような独り善がりの正義じゃなくて、人を守るための正義を。
スタンピードが同時に発生して、戦力が足りないときは、『奈落』のガルドや『犯罪都市国家』ドータのリアンにも協力して貰った。勿論、結構な額の報酬を払うことになったけど。
ガルドにはフレッドとアーチェリー商会の護衛も依頼してたけど。『奈落』の暗殺者たちは護衛の仕事を完璧にこなしている。
『自由の国』も何度も標的にされたけど。アリサが指揮してシンまでいる『自由の国』が揺らぐことはなかった。
ロナウディア王国にはエリクと、俺の父親のダリウスと母親のレイアがいるし。グランブレイド帝国には女帝カサンドラから問題ない。バーンやジークも自分たちの国のために頑張っている。
そしてエリスたちみんなは、お互いに支え合いながら。自分にできることを精一杯やっている。みんながいるから、みんなを守りたいから、俺はどこまでも強くなってやる。
『世界迷宮』のラスボスに完勝した俺の目の前に、黒鉄色の巨大な扉が出現する。
扉を抜けると。何もない広大な空間に一人の男がいた。
「『世界迷宮』をソロで完全攻略。まさかそんな奴が現れるとはな……」
黒髪に黒い瞳。前世の日本人のような顔つき。見た目は20代半ばの男ってところだ。
「アリウス、おまえとの約束を果たすとしよう。『世界迷宮』を攻略した報酬として。おまえに『ダンジョンの神の力と権利』を全て譲ろう。これでおまえはRPGの神と正面から渡り合うことができる」
「俺がダンジョンの神って……神になったら、この世界に直接干渉できないのか?」
もうみんなに会えなくなるのか?
「いや、おまえは転生者だが、この世界で生まれた存在だ。おまえが『ダンジョンの神の力』を使わずに世界に干渉することは『神たちルール』に抵触しない。
無論、『ダンジョンの神の力』を私利私欲のために使えば、他の神たちが黙っていないがな」
この世界を創った『神たち』の1人なんだから、俺が転生者だってことを知っているのは当然か。
ダンジョンの神になっても、今まで通りにみんなに会えるなら。とりあえず、問題ないけど。
「他に何か副作用みたいなものがあるんじゃないのか? 何のデメリットもないなんて、都合が良過ぎるだろう」
「デメリットかどうかは、受け止め方次第だが。神になった者は、年を取ることがない。あとはこの世界の魔力を吸収して使えるようになるなど、どちらかと言えばメリットばかりだ」
今、サクッと年を取らないって言ったけど。それって……
「まあ、おまえには『ダンジョンの神の力』など不要だろう。世界迷宮』をソロで完全攻略するなど、神である俺にも想定外のことだ。今のおまえなら、RPGの神にも勝てるだろう」
「そんな奴に『ダンジョンの神の力』を与えて良いのか? 俺がおまえを殺そうとするかも知れないだろう」
「そのときは受けて立とう。『ダンジョンの神の力』をおまえに譲ろうと、俺自身の力がなくなる訳ではない。おまえのような強者と戦えるなら、むしろ望むところだ」
ダンジョンの神が面白がるように笑う。こいつも、やっぱり戦闘狂だな。
「おまえには他にも聞きたいことが色々あるけど。その前にやることがあるからな」
俺たちがこの世界に転生した理由とか。ミリアが転生前の記憶を失っている理由とか。訊きたいことはたくさんある。
「ならば、アリウス。RPGの神を倒して来い。あのような姑息なことをする奴は俺も嫌いだ。おまえが勝ったら、俺が知っていることなら何でも教えてやろう」
ダンジョンの神の背後に光の扉が出現する。
「この扉の先には、神しか存在できない空間が広がっている。アリウス、『ダンジョンの神の力』を継承することに異存はないな?」
そんなこと……答えは決まっているだろう。




