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301話:覚悟


「おい、勇者。そんな魔物は、さっさと片付けろ。てめえのレベルなら簡単だろうが!」


 ここは高難易度(ハイクラス)ダンジョン『マリージアの断罪』の最下層。俺はラスボスと戦っている。


 『マリージアの断罪』のラスボスは魔王ベルザード。勿論、本物の魔王じゃない。羊のような角と黒い翼を持つベルザードは、名前付きの(ネームド)デーモンロードを取り巻きとして従える悪魔系の魔物だ。


 俺は『勇者の心(ブレイブハート)』を発動して。白い光を放つ聖剣で悪魔たちを次々と仕留めて行く。


 2日前。元SSS級冒険者のデュラン・ザウウェルは、突然ダグラスの街にあるアーチェリー商会の本社に現れて。居合わせた従業員5人を惨殺した。


「勇者、大人しく付いて来いよ。じゃねえと、こいつらを皆殺しにするぜ。ああ、てめえとアリウスが繋がっているのは知っているが、俺の依頼人はアリウスの野郎を憎んでいるからな。てめえがアリウスの手を借りるなら、奴ら(・・)はアーチェリー商会を本気で潰しに掛かるぜ」


 完全な犯罪行為を犯してまで、俺を連れて行こうとするのは、背後で大きな組織が動いているってことだろう。家族やアーチェリー商会の人間のことを考えれば、俺はデュランに従うしかなかった。


 そして俺はデュランに『マリージアの断罪』の最下層まで連れて来られて。この2日間、延々とラスボスと戦わされている。

 『勇者の心(ブレイブハート)』を発動しているのもデュランの指示だ。たぶん勇者のスキルを発動させた方が、新たな勇者のスキルに覚醒し易いってところだろう。


 『勇者の心(ブレイブハート)』を発動しても、勇者である俺は狂気に支配されることはない。だけど身体から溢れ出す不自然な膨大な魔力に不快感を感じる。こんな借り物の力なんて俺は欲しくないんだよ。


 何十回と魔王ベルザードをリポップさせて、その度に倒し続けるうちに。俺は新たな勇者のスキル『勇者の支配(ブレイブドミニオン)』に覚醒した。


 スキルを発動させなくても、俺には何故か勇者のスキルがどんなものか解る。

 『勇者の支配(ブレイブドミニオン)』は効果範囲内の人間を強制的に支配して、狂戦士化させるスキルだ。


 こんな大量虐殺をするようなスキルに覚醒するなんて。ホント、勇者って、とんでもない存在だな。俺を利用しようとしたブリスデン聖王国の連中から、救い出してくれたアリウスには悪いけど……そろそろ潮時だろう。


 最後の勇者のスキルに覚醒したら、俺は自分の意志に関係なく、勇者のスキルに支配されるらしい。大量虐殺なんて御免だからな。


 聖剣を使えば、俺が『魔道具破壊(アイテムブレイク)』を発動しても殺すことができるだろう。俺が死ぬことで新たな勇者が生まれるかも知れないけど。新たな勇者が勇者のスキルに覚醒するまでに、アリウスなら、どうにかしてくれる筈だ。


 結局、アリウスに頼りっぱなしだな。自分でも情けないと思う。俺の推しのミリアに軽蔑されても仕方ないだろう。だけど今の俺にできることは、これくらいだからな。俺が死ねば家族やアーチェリー商会の人間を狙う意味もなくなる。


「おい、勇者。何をやってやがる? さっさと魔物をリポップさせろ!」


 俺の変化に気づいたデュランが嘲るように笑う。人を殺したくないから自分が死ぬなんて、こいつは絶対に思わないだろう。


「もうこんなことは止めだ。俺はおまえたちの思い通りにはならないからな」


 『勇者の心(ブレイブハート)』を発動したことで、跳ね上がったステータスで。俺は自分の首を切り落とすつもりだった。


「フレッド、おまえなあ。もう少し俺のことを頼れよ。おまえの家族とアーチェリー商会のことは手を打ったから、もう心配いらないからな」


 突然現れたアリウスは、何でもないことのように言う。


「アリウス、てめえ!」


 デュランがバトルナイフと魔銃を同時に抜くが。アリウスにとっては、デュランの動きは遅過ぎたようだな。武器を持つ両腕を一瞬で切り落とされる。


「アリウス、てめえは……本当に容赦がねえな……」


「デュラン、おまえを許すつもりはないけど。おまえを殺すのは、俺の役目じゃないからな」


 氷青色(アイスブルー)の瞳に冷徹な光を宿して、アリウスはまるでモノを見るようにデュランを見る。これが敵と対峙したときのアリウスなんだな。


「アリウス……また迷惑を掛けたな。済まない……」


「フレッド、おまえのせいじゃないだろう。それに俺はおまえの家族とアーチェリー商会の人間を守るなんて、偉そうなことを言った癖に。守り切れなかったんだからな。謝るのは俺の方だ。だけど――」


 アリウスは真っ直ぐに俺を見る。


「何があっても、もう二度と自分で死のうとなんかするなよ。フレッド、おまえが最後の勇者のスキルに覚醒して、止められないことが解ったら。俺がおまえを殺してやるよ。だけど俺は最後まで絶対に、諦めるつもりはないからな」


 アリウスが本気で言っていることが解る。俺なんかよりも、アリウスは幾つもの修羅場を潜り抜けて。とうに覚悟を決めているんだろう。


「ああ、アリウス。済まな……いや、ありがとう」


 ここは謝るんじゃなくて、礼を言うところだ。それくらいは俺にも解る。


「ホント、フレッドはつくづく面倒事に巻き込まれるよな。今度、メシでも奢れよ」


 アリウスは揶揄(からか)うように笑って。


「まあ。とりあえず、今日のところは後始末が先だな」


 『絶対防壁アブソリュートシールド』でデュランを閉じ込めると。『転移魔法(テレポート)』を発動した。




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