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300話:誘拐


 俺がブレナの街を再び訪れてから、一週間ほど経った頃。フレッドが誘拐された。

 犯人は元SSS級冒険者の『狂犬』デュラン・ザウウェルだ。


 突然、デュランはブリスデン聖王国のダグラスの街にあるアーチェリー商会の本社に現れて。商会の職員五人を惨殺すると、大人しく従わなければ皆殺しにすると脅して、フレッドを連れ去った。


 フレッドを狙われる可能性は当然想定していた。だからブリスデン聖王国の連中に護衛をさせて、アリサの配下にもアーチェリー商会周辺を監視させた。


 だけどデュランはアーチェリー商会に突然現れて、犯行も一瞬のことで。アリサが情報を掴んだのは、デュランとフレッドが姿を消した後だった。


「アリウス、済まない。俺の監督不行き届きだ。まさかデュランが、ここまでするとは……」


 冒険者ギルド部長のオルテガは『自由の国(フリーランド)』にやって来て、深々と頭を下げる。オルテガはデュランをSS級に降格させた後も、監視下に置いていたから。デュランの行動を事前に察知できなかったことに責任を感じているんだろう。


「それを言えば、お互い様だろう。俺はフレッドが狙われる可能性を想定していたのに、防げなかったからな。そんなことよりも、フレッドを救い出すことが先決だろう」


 デュランの背後にいるのはRPGの神の手先。おそらく東方教会の連中だろう。

 東方教会の教皇ルードは俺を恐れているから、下手なことはしないだろうけど。東方教会も一枚岩じゃないからな。


 教皇ルードの指示を無視して、今もテロ活動をしている奴らは多いし。そいつらに金を流して活動を支援する奴も後を断たない。


 フレッドを誘拐した理由は、フレッドを無理矢理戦わせて。レベルを上げることで、新たな勇者のスキルを覚醒させることだろう。


 フレッドがまだ覚醒していない勇者のスキルは二つ。一つは初代勇者が覚醒した『勇者の支配(ブレイブドミニオン)』。効果範囲内の人間を強制的に支配して、狂戦士化させるスキルだ。


 もう一つはRPGの神の甘言に乗って、フレッドを利用しようとしたブリスデン聖王国のジョセフ公爵から聞き出した情報だけど。勇者自身を強制的に凶暴化させるスキルらしい。そんなスキルに覚醒したら、フレッドは自分の意思に関係なく、大量虐殺をすることになるだろう。


 俺とフレッドはお互いに『伝言(メッセージ)』を登録しているけど。フレッドが『伝言(メッセージ)』を寄越さないのは、俺に連絡すれば家族やアーチェリー商会の人間を殺すと脅されているからだろう。


 相手がデュラン一人なら、フレッドだって俺なら倒せると思うだろう。だけどデュランには共犯者がいる可能性が高いからな。


 東方教会の連中もそうだけど。アリサが後手に回るなんて、デュランは手際が良過ぎる。アーチェリー商会の中に内通者がいると考えるべきだろう。


 だから俺がデュランを殺したとしても、報復としてフレッドの家族やアーチェリー商会の人間が殺される可能性がある。フレッドの性格なら、自分のことよりも家族や商会の人間を優先するだろう。


 フレッドとデュランが今、どこにいるか。すでに情報は掴んでいる。アリサとエリクに協力して貰って、世界中から情報を集めたからな。

 二人がいるのは通称『犯罪都市国家』ドータの地下にあるダンジョンの中だ。


「デュランはドータに逃げ込んだのか……確かに厄介(・・)な場所だが。俺もこのまま手を(こまね)いているつもりはない。冒険者ギルド本部長として是非とも協力させてくれ」


 オルテガが厄介な場所と言ったのは、『犯罪都市国家』ドータを支配しているのがSSS級冒険者序列2位のリアン・ヴェートだからだ。

 リアンの実力は元序列1位のシンや、現序列1位のオルテガに匹敵すると言われていて。『犯罪都市国家』を支配するような奴だから、一癖も二癖もある性格だ。


「俺はリアンを無視して『犯罪都市国家』ドータのダンジョンに向かうつもりだけど。リアンの相手をオルテガさんがしてくれるなら助かるよ」


 リアンに断りもなくドータのダンジョンに向かえば、面倒臭いことになりそうだけど。フレッドがいつ新たな勇者のスキルに、覚醒するか解らない状況で。リアンの面子がどうとか、そんなことに関わっている場合じゃないからな。


「解った。リアンの相手は俺がしよう。アリウスはフレッドを救出することに集中してくれ」


「オルテガさん、助かるよ。俺が絶対にフレッドを救い出してみせるからな」


※ ※ ※ ※


 その日のうちに、俺は『犯罪都市国家』ドータに向かった。


 ドータはダンジョンがあるからできた都市で。魔物を倒すと出現する魔石やドロップアイテムなど。資源の宝庫であるダンジョンを独占するために。盗賊王カルマいう1万人以上の部下を束ねる盗賊が、辺境の地にあるダンジョンの上に、勝手に砦を築いた。


 ダンジョンを独占した盗賊王カルマの元に、さらに人が集まって。砦の周りに街ができて、やがて『犯罪都市国家』と呼ばれる規模にまで発展した。

 

 当時のドータは犯罪者の吹き溜まりのよう場所で。特に盗賊王カルマが死んだ後は、組織が分裂して。ドータの盗賊たちは内部抗争に明け暮れて、治安は最悪だった。


 そんなドータを再び纏め上げたのが、SSS級冒険者序列2位のリアン・ヴェートだ。


 リアンが支配者になってから『犯罪都市国家』ドータは明らかに変わった。

 ドータの犯罪組織は全てリアンの支配下に置かれて。カタギの人間には決して手を出さないという不文律ができる。


 さらにリアンはカジノや花街、賭け目的の地下闘技場などの娯楽施設を充実させて。治安が良くなったドータに、世界中から金持ちの観光客が集まるようになった。


 リアンのことはオルテガに任せることにしたから。俺は『認識阻害(アンチパーセプション)』と『透明化(インビジブル))』を発動して、『犯罪都市国家』ドータに潜入すると。

 市街地の地下に広がる高難易度(ハイクラス)ダンジョン『マリージアの断罪』に直行する。


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