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298話:勝者


 中難易度(ミドルクラス)ダンジョン『オルフェンス廻廊』で、ノルンたちC級冒険者パーティー『暁の明星』を助けてから。俺はしばらくブレナの街に行っていない。

 別にノルンに付き纏われたくないとかじゃなくて。単純に他のことで忙しいからだ。


 『世界迷宮(ワールドダンジョン)』を毎日攻略しているし。自由の国(フリーランド)のことを、全部アリサに丸投げする訳にいかないからな。

 勿論、エリスたちみんなのこともある。B級冒険者アルとして過ごすことよりも、みんなとの時間の方が優先なんだよ。


 それにもう一つ(・・・・)、やることがあったからな。だから俺がブレナの街を再び訪れたのは、1ヶ月後のことだった。

 ノルンたちを助けたことで、面倒なことになっているかも知れないけど。別に俺が気にするようなことじゃないからな。


「あんた……あのときのオールドルーキーだね」


 冒険者ギルドに入ると。最初に声を掛けて来たのは、『オルフェンス廻廊』の最下層で会った赤い髪にバンダナを巻いたボーイッシュな感じの女子。A級冒険者のライラだ。

 俺のことを只のB級冒険者だと思っているライラは、ソロで最下層にいた俺を助けようとした。


「あのとき、あんたは突然いなくなっちまって。『索敵(サーチ)』にも反応しなかったから、転移系の魔法でも使ったんだろう。あんた、本当にB級冒険者なのかい?」


 ライラは訝しそうに俺を見る。B級冒険者でも『転移魔法(テレポート)』や『短距離転移(ディメンジョンムーブ)』を使える奴はいるけど。他の魔法や物理系戦闘能力を磨くことよりも、優先して憶えたってことだから。そんな奴がソロで活動するのは難しいだろう。


 だけど俺がヴァンパイアロードを倒した話は、どうやら広まっていないようだな。

 22階層にいたノルンたち以外の冒険者は、すでに逃げていたし。ノルンたちは俺のことを他の奴に喋らなかったってことだな。


「どうせ転移石でも使ったんだろう。こいつ、実は金持ちなんじゃねえか?」


 ライラのパーティーのもう一人の物理系アタッカー、シグルが割って入る。ちなみに転移石はダンジョンを脱出するために使用する使い捨てのマジックアイテムだ。

 最難関(トップクラス)ダンジョンには階層間の移動を阻む『転移阻害アンチテレポート』があるから使えないけど。


「B級冒険者になったばかりの癖に、最下層にいたのだって。金にモノを言わせて、高価なマジックアイテムを乱発して、ゴリ押しで最下層まで来たんだろう。てめえがやっているのは金持ちの道楽で、ダンジョン攻略とは言わねえんだよ」


 シグルは俺が気に食わないようだな。まあ、俺が本当に金の力でダンジョンを攻略していたら。気に食わないと思う気持ちも解らなくはないけど。


「だけどジグル。最下層で会ったとき、こいつの装備は店で買ったような安物だったじゃないか」


 ライラは周りの状況を良く見ているな。


「安物に見えるように偽装したんだろう。自分を強く見せるために、姑息な手を使いやがって。なあ、てめえ。冒険者を舐めるんしせゃねえぞ!」


 俺の襟首を掴もうとしたシグルの手首を逆に掴んで。


「おまえさ。俺に喧嘩を売っているのか?」


 売られた喧嘩は買う主義だからな。軽く力を込めるとミシリと骨が軋む音がする。


「てめえ、放しやがれ……い、痛ってぇぇぇー!」


 シグルは痛みに耐え切れずに、叫び声を上げる。勿論、力はセーブしている。俺のステータスだと普通に掴むだけで、腕を引き千切って握り潰してしまうからな。


「オールドルーキー。済まないが、それくらいで勘弁してやってくれないか」


 ライラは驚く様子も見せずに言う。シグルが俺に絡むのを止めなかったし。こうなることを予想していたんだろう。


「そのオールドルーキーって呼ぶのを止めてくれよ。俺はB級冒険者のアルだ」


「それは失礼したな。では改めて頼む。アル、シグルを許してやってくれないか。こんな奴でも、あたしたちのパーティーのメンバーだからね。済まない、この通りだよ」


 ライラは深々と頭を下げる。


「おまえが謝ることじゃないけど。解ったよ」


 シグルから手を放して解放する。痛みに踞っているシグルに、ライラのパーティーのヒーラーが回復魔法を掛ける。


「やっぱり、アルは只のB級冒険者じゃないようだね」


 ライラは興味津々という顔をする。


「ちょっと訳ありなんだ。詮索しないで貰えると助かるよ」


「解ったよ。シグルの件で、アルに借りができたならね。だけどあんたがA級冒険者のシグルを子供同然にあしらったことは、ここにいる冒険者全員が見ているけど。どうするんだい?」


 今、冒険者ギルドにいる冒険者は30人ほどだ。他にも冒険者ギルドの職員たちもいる。

 俺たちのやり取りはそこまで注目されていた訳じゃないけど。目ざとい冒険者たちは俺がしたことに気づいている。


「まあ、そこは問題ないよ。そろまで力を隠したい訳じゃないからな」


 S級以上の冒険者なら、シグルをあしらうのは簡単だし。俺がアリウスだとバレなければ問題な。


「あ、アルさん! お久しぶりです!」


 このタイミングで、ノルンたち『暁の明星』のメンバーが冒険者ギルドに入って来る。

 ノルンは嬉しそうに駆け寄って来る。別に馬鹿にするつもりはないけど、まるで尻尾を振っている犬みたいだな。


「この前は私たちを助けてくれて、本当にありがとうございました。アルさんは命の恩人です。もう一生付いていきますよ!」


「ノルン、それはどういことだい? 詳しく話を聞かせて貰いたいね」


 ライラが興味津々と言う感じで割り込んで来る。ライラとノルンは知り合いみたいだな。


「いくらライラさんでも話せませんよ。これはアルさんと私たちだけの秘密ですから。ねえ、アルさん!」


 アザとい笑みを浮かべて、ノルンが片目を瞑る。つまりノルンは俺が実力を隠したいんだろうと思って、俺がヴァンパイアロードを倒したことを他の奴に話さなかったのか。


「別にそこまで隠さなくても構わないけど。わざわざ言うようなことじゃないからな。そんなことよりも、おまえたちはもっと慎重に行動しろよ。他の冒険者を守るためにやったことは解っているけど。おまえたちの実力じゃ、死にに行くようなモノだならな」


 ノルンたちを助けたときに。ノルンたちが他の冒険者が逃げる時間を稼ぐために、ヴァンパイアロードに挑んだことは聞いている。だけど俺が助けなかったら、ノルンたちはヴァンパイアロードに瞬殺されていたからな。


「他の奴を守りたいなら、もっと強くなれよ。だけど死んだらそれまでだからな。撤退するタイミングは絶対に間違えるな」


 ノルンのパーティーのバルトは、もう俺に文句を言うことはなく。なんか憧れるような視線を向けて来るんだけど。


「アルさん、解っていますって。だからアルさんが私たちのパーティーに入って、鍛えて貰えませんか? 今なら私が付いてきてお得ですよ」


 ノルンがアザとく笑う。いや、おまえたちのパーティーに入るつもりはないからな。


「あたしにも、なんとなく状況が解って来たよ。つまりノルンはアルの本当の実力を知っているってことだね」


 ライラが舌なめずりするような顔をする。


「アルがパーティーに入る気があるなら、あたしたちも立候補するよ。アルの実力はあたしたちも解ったからね」


 ノルンとライラは俺を挟んで、視線で火花を散らす。いや、だから俺はパーティーに入るつもりなんてないからな。


「まったく、油断も隙も無いわね。アル・・が新しい街の冒険者ギルドに行くって言うから。こんなこと・・・・・になるんじゃないかって予想していたわ」


「アルももう少し自覚した方が良いわよ。貴方のことを他の女子が放っておく筈がないから」


 突然の声に、ノルンとライラが視線を向けると。エリスとミリアが冒険者ギルドに入って来るところだった。


 まあ、みんなにはブレナの街に行くと伝えてあるし。何かあったときのために、みんなに渡した『転移魔法(テレポート)』が使えるブレスレットに、ブレナの街を転移ポイントとして登録しておいたからな。


 二人は『変化の指輪』で髪の色と髪型を変えて、冒険者の格好をしているけど。凛々しい感じの完璧美人と、綺麗と可愛いが同居する美人の登場に冒険者たちが注目する。


 エリスとミリアは俺たちがいるところまで、ゆっくり歩いて来ると。両側から俺にの腕に抱きついて。


「貴方たちには悪いけど。彼は私たちにとって、誰よりも何よりも大切なパートナーなのよ」


「だから他の誰にも譲るつもりはないわ」


 エリスとミリアは笑顔で、堂々と宣言する。


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