番外編:武術大会 バーンとミリアの三回戦
昼休みが終わって、武術大会の三回戦が始まる。
昼休みの間に、試合場の線が引き直されて。一つになった広い試合場で、三回戦が順番に行われる。初戦はバーンとレイモンドの試合だ。
「なあ、親友。今の俺の実力を全部出して戦って来るぜ」
バーンが試合場に向かう前に言う。戦う前に決めつけるつもりはないけど。今のバーンの実力じゃ、レイモンドに勝つのは厳しいだろう。バーンが強くなったことは認めるけど、レイモンドの実力は格が違うからな。
「バーン殿下。早速、始めるとしようか。先輩の務めとして、後輩である殿下に先制の機会を譲ろう」
レイモンドは白いサーコートを着ているから、中にどんな鎧を着ているのか解らない。だけど見た目からそれほど重装備じゃないことは解る。武器は刃渡りが一m以上ある十字剣だ。
「レイモンド先輩は余裕だな。じゃあ、遠慮なく行かせて貰うぜ。『火焔球』!」
いきなりバーンは自分が使える最強の魔法を放つ。レイモンドは素早く空中に飛んで『火焔球』を躱すと、そのまま斜め下方向に加速してバーン目掛けて突っ込んで来る。無詠唱で『飛行』も『加速』も発動済みってことだ。
バーンは右に回り込んで躱そうとするけど、レイモンドは追尾して方向を変える。横凪ぎに振るった十字剣をバーンは何とか盾で受けるが、耐えきれずに身体ごと弾き飛ばされる。
地面を転がるバーンの頭上に、一〇〇ポイントを超えるダメージが表示される。
「さすがは優勝候補のレイモンド先輩だな。だが俺もこのまま終わるつもりはないぜ――『粉砕剣』!!」
バーンがスキルを発動するけど、レイモンドはバーンの剣を躱して、容赦なく攻撃を加える。
スキルも攻撃魔法も使っていないけど、瞬く間にバーンの『特殊結界』にダメージが蓄積されていく。
レイモンドは長い十字剣を自在に使いこなして、バーンの間合いに入れさせずに。バーンが飛び退いて距離を取ろうとしても、スピードで勝るレイモンドはがさない。
バーンは諦めずに仕掛けるけど、レイモンドに攻撃が当たることはなく。ダメージポイントの蓄積でバーンの『特殊結界』が音を立てて消滅する。
「アリウス。今の俺じゃ、手も足も出なかったぜ」
控え席に戻って来たバーンが悔しそうな顔をする。レイモンドとの実力の差は明白だけど、バーンは気持ちでは負けていない。
「バーン。真面目に鍛錬を続ければ、おまえは強くなる。武術大会が終わったら、約束通りに魔力操作のやり方を教えるよ。だけど魔力操作は簡単に上達するモノじゃないから、覚悟しておけよ」
「アリウス、解っているぜ。俺は強くなるためなら、どんなことでもやるからな」
俺とエリクは三回戦も勝って、次はミリアの試合だ。
ミリアの相手はソフィアに勝った二年生のセシル・クロミア。高い身体能力を生かした近接戦闘に特化したサーベル使いで。魔法を切る『魔法切断』も使うから、ミリアにとっては強敵だろう。
「平民がここまで勝ち上がって来るなんて快挙じゃない。だけど残念ね、私が相手だから貴方はここで敗けることになるわ」
「セシル先輩、私だって敗けるつもりはないですよ。友だちの敵討ちって訳じゃないですけど、みんなが応援してくれるから全力で頑張ります」
「「『身体強化』『加速』!」」
試合開始と同時に、ミリアとセシルは支援魔法を発動させる。近接戦闘に特化したセシルは一気に距離を詰めようとするけど。
「『輝きの矢』!」
ミリアが光属性第二界層魔法を発動すると、光の矢が六本出現する。
「『魔法切断』!」
セシルは透かさず、魔法を切るスキルを発動しながら大きく横に跳ぶ。六本同時に切ることは無理だから、躱し切れないモノだけ切るつもりだろうけど。
「何!」
セシルが驚いているのは、セシルの動きに合わせて光の矢の軌道が変わったからだ。 六本の光の矢はカーブを描いてセシル目掛けて飛んでいく。
セシルは勘と読みで二本の光の矢を同時に切り落とすが、四本が直撃。セシルの頭上に一〇〇ポイントを超えるダメージが表示される。
ミリアは光属性第三階層魔法『聖なる槍』も使えるけど。『輝きの矢』を主に使うのは、習熟度が違うからだ。
魔法もスキルも魔力操作の精度によって威力が全然違うから、単純に高界層魔法の方が強い訳じゃないし。ミリアの魔力操作の精度なら、発動してから『輝きの矢』の動きを操作することもできる。
「一年生だと舐めていたことは謝るわ。だけど、ここからが本番よ!」
セシルは加速して真っ直ぐ突っ込んで来る。
「『輝きの矢』!」
ミリアは再び魔法で迎え撃つ。正面からの攻撃の方が読みやすいのか、セシルは三本の光の矢を切り落とすが、残りの三本が直撃。『特殊結界』にダメージが蓄積されるが、セシルは構わすに突っ込んで来る。
「『月光剣』!」
『月光剣』はダメージを増幅させるタイプの片手剣用の中位スキルだ。
「『閃光剣』!」
それに対して、ミリアのスキルは剣を加速させて手数を増やすタイプ。
セシルは身体能力が高くて、『加速』も発動しているけど。それはミリアも同じで、ミリアの剣速はセシルを超える。だけど、それだけじゃない。
「嘘、力で私が敗けるなんて!」
ミリアはセシルに力負けしないどころが、明らかに押している。ミリアの魔力操作によって、スキルの威力が上がっているからだ。剣に集める魔力の量と集束度によって威力は全然違う。
速度と威力に勝るミリアは動きも正確で、セシルに勝てる要素はない。セシルの頭上ののダメージポイントが蓄積されて、『特殊結界』がバリンと音を立てて消滅する。
観客席の生徒たちがどよめいているのは、平民のミリアが三回戦を勝ったこともあるけど。これでベストエイトに一年生が三人も入ったからだ。
ゲームのときも主人公のミリアや攻略対象たちは武術大会で活躍したけど。あくまでも一年生としてはというだけで、誰も四回戦には進めなかった。




