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40-2(0)話:勇者覚醒

スミマセン、今回も時系列が前後します。

本章の一番初め。クリスの襲撃がある前の話です。


「勇者アベル殿。くれぐれも軽はずみな行動は控えて貰いたいものだな」


「おい、誰にモノを言っているつもりだ? どうするか決めるのは、勇者である俺だ。おまえたちは、黙って従っておけ」


 大陸中東部に位置するイシュトバル王国。


 王宮の会議室に集まった同盟国の要人たちを前に、王太子アベル・ライオンハートは玉座のような椅子に凭れ掛る。波打つような緑色の髪と、碧の瞳の貴公子。見た目はイケメンだが、まるで帝王のような不遜な態度。


 同盟国の要人たちは呆れ、護衛たちは敵意を隠さない。それでも文句を言わないのは、勇者の力を利用するためだ。


 アベルが勇者として覚醒したのは、半年ほど前のこと。


『アベル・ライオンハートよ。そんなたに勇者の力を授けよう』


 頭の中に突然声が響いて、アベルは勇者の力を手に入れた。


 300年ぶりに勇者が誕生したことは、天啓として世界中の教会関係者へと瞬く間に広まった。その数日後、魔族の国ガーディアルが魔王復活を宣言する。


 この世界の約半分は魔族が支配する『魔族の領域』であり。人間と魔族は互いを敵として、長い間争いを続けて来た。その争いに終止符が打たれたのは、300年前に勇者が、魔族の王である魔王を倒したからだ。


 魔王亡き後、魔族たちは『魔族の領域』に留まり。その後も人間と魔族の間で、何度か紛争が起きたが。種族規模の争いにまで、発展することはなかった。

 しかし300年ぶりに新たな勇者が誕生して、魔王が復活したことで。二つの種族の争いが再び激化しようとしている。


「この俺に魔王を倒して世界を救えだと? いったい何様のつもりだ。所詮は金が目的の癖に、随分と偉そうなことを言うじゃないか」


 同盟国の者たちが退出すると、アベルは人目を憚ることもなく(うそぶ)く。


「まあまあ、アベル様。誰が聞いているか解らへんから、そういうことは言わん方がええで」


 アベルの傍らに立つ5人のうちの1人、白い髪と金色の瞳の女が面白がるように笑う。

 小動物のような顔立ちに、150cmほどの小柄な身体。彼女はアリサ・クスノキ。勇者パーティーのサブリーダーだ。


「魔王は人類を滅ぼす脅威だから倒す。人を動かすには、解り易い大義名分が必要やからな。たとえ事実と違ったところで、勝てば真実になる(・・・・・・・・)から問題ないで」


 アベルが勇者の力に覚醒した直後、多くの国が勇者を支持すると表明して。イシュトバル王国と同盟を結んで、魔王討伐に参戦すると申し出た。


 だが彼らは魔王を脅威だと本気で考えているのではない。魔王討伐に参戦する本当の理由は、『魔族の領域』には貴重な資源が大量に眠っているからだ。


 300年前の戦いで勇者は魔王を倒したが、それは薄氷の勝利であり。ほとんど相討ちのような形で、勇者は命を落として。同行した同盟軍も多大な損害を被り、『魔族の領域』からの撤退を余儀なくされた。


 祖国に戻った兵士たちは、妖精銀(ミスリル)や天然の魔石などの貴重な資源を持ち帰った。人間にとって貴重な資源も、魔族は大して興味がないらしく。『魔族の領域』には資源が剥き出しの鉱山が放置されているのだ。


 資源の存在を知った国々は、その後も幾度となく『魔族の領域』への侵攻を企てた。だ

が強大な力を持つ魔族の力を前に、敗北を繰り返すことになった。

 そんな彼らにとって新たな勇者の誕生は、魔族に奪われた資源(・・・・・・・・・)を取り戻す絶好の機会(・・・・・・・・・・)なのだ。


「どうせアベル様は魔王を倒すつもりなんやろう? だったら大義名分があった方が、アベル様にとっても都合がええで」


「勿論、魔王は俺が倒す。勇者の力があれば、魔王を討伐するなど造作もないことだからな」


 全身から迸る膨大な魔力。アベルは元々不遜な性格だが、勇者の力に覚醒したことで増長している。


「アベル様が魔王に勝つのは当然のことや。せやけど三百年前の勇者は魔王には苦戦したって話やからな。金が目的の奴らでも、使える駒は上手く使った方がええで」


「確かに、アリサが言うことにも一理ある。奴らが連れていた護衛の中にも、それなりに使うそうな奴がいたな」


 アベルに敵意を向けていた護衛たちは、それぞれの国が選りすぐった猛者たちだ。アベルは頭の中で、勇者パーティーの面々と護衛たちを比べる。


「それにしても、同盟国の連中が侵攻の準備を整えるまでには、まだしばらく時間が掛かるという話だったな。この俺をいつまで待たせるつもりだ?」


「アベル様、それは仕方ないで。軍を動かすには、金と時間が掛かるからな」


 アリサの正論に、アベルはフンッと鼻を鳴らす。


「ならば待っている間に、勇者パーティーを増強しておくか。同盟国の連中すら、それなりに使える奴を従えているのだ。勇者である俺に付き従うに相応しいのは、世界有数の強者――この世界に10人しかいSSS級冒険者だと思わないか?」


 増長したアベルは、SSS級冒険者が自分に従うべきだと本気で思っている。

 しかしSSS級冒険者とは、国という枠組みを超越した存在であり。金も名誉もすでに手に入れた彼らが、勇者に従う理由はない。


「アベル様はそう言うけどな。SSS級冒険者は自分勝手な変人の集まりや。簡単に首を縦に振るような連中やないで」


 それが解っているから、アリサはSSS冒険者のせいにして誤魔化そうとするが。


「だったら、アベル様。俺がSSS級冒険者を連れて来てやるぜ!」


 これまで黙っていた勇者パーティーの1人が割り込んで来る。

 鮮やかな蒼い髪と血のように赤い瞳。派手な金色のフルプレートを纏う男は、獰猛な笑みを浮かべる。


「なあ、アベル様。俺がSSS級冒険者を連れて来るから、一つ条件付けさせてくれ」


「何だ? その条件を言ってみろ」


 アベルは嘲るように笑う。


「生死は問わずで、構わねえだろう? 俺がSSS級冒険者を仕留めれば、俺の方が格上だって証明になるからな」


「なるほど……良いだろう。SSS級冒険者の件は、おまえに任せよう」


 アベルは男に期待しているのではなく。これで少しは暇潰しになると思っただけだ。

 そして勇者パーティーのサブリーダーであるアリサも、メンバーの一人である男の暴走を、冷徹な金色の瞳で眺めていた。


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