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54-2(1)話:それぞれの過ごし方


 朝日の中で、魔力で負荷を掛けながら身体を動かす。

 朝の鍛錬は俺の日課だから、子供の頃から1日も欠かしたことがない。


 身体が解れたら、今度は戦っていることをイメージして剣を振る。

 音速を余裕で超える速度で動くから、人に見られると面倒だがらな。始める前に『認識阻害(アンチパーセプション)』を発動することにしている。


 イメージする敵は最難関(トップクラス)ダンジョン『魔神の牢獄』の偽神(デミフィーンド)だ。

 全方位を偽神に囲まれた状況をリアルに想像して。敵の動きに合わせて、攻撃と回避をコンマ1秒単位で繰り返す。勿論、魔力操作も一切手を抜いたりしない。


 結局、1日目は別荘が襲撃されることはなかった。まあ、予想通りだけど。

 いきなり襲撃するつもりなら、夜を待たずに森を散策しているときに襲撃できた。それをしなかったってことは、こっちが警戒して消耗するのを待っているんだろう。


 エリクが俺のために用意してくれた部屋に戻ると、シャワーを浴びて汗を洗い流す。

 この世界には魔道具が普及しているから、風呂もシャワーも普通にある。

 『浄化(ピュリファイ)』の魔法を使えば汚れは落ちるけど、シャワーを浴びる方が気持ちが良い。


 服を着替えて、朝飯を食べに行く。昨日の昼飯と夕飯も同じ部屋で食べたから、場所は解っている。


「アリウス、おはよう」


「こっちで一緒に食べない?」


 ソフィアとミリアが先にいて朝飯を食べていた。サーシャが一緒にいないのは、たぶんまだ寝ているからだろう。サーシャは朝が弱いって話を、2人から聞いたことがある。


 2人の前の席に座ると、別荘の侍女がコーヒーを入れて。朝食の皿を持って来る。


「アリウスの部屋に呼びに行ったんだけど、返事がなかったわ。もしかして、まだ寝ていたの?」


「いや、外で鍛錬をしていたんだよ。朝の鍛錬は日課だからな」


「毎日鍛錬を欠かさないとか。如何にもアリウスらしいわね」


 ミリアが悪戯っぽく笑う。朝からミリアとソフィアの顔を見るのは、なんか新鮮に感じる。学院でもクラスが違うから、2人に会うのは昼飯のときか、合同授業のときくらいだからな。


「アリウス、昨日はよく眠れたの?」


「ああ。俺は冒険者だから、どこでもぐっすり眠れるんだよ」


 俺が応えると、ソフィアが何故か困ったような顔をする。


「アリウスって、意外と嘘が下手よね。どうせ私たちを守るために、眠らないでずっと起きていたんでしょう?」


「え! アリウス、寝てないの?」


 俺って、そんなに解りやすいのか? いや、ミリアは気づいていなかったみたいだし。ソフィアが鋭いってことだろう。


「俺は鍛えているから、一晩寝ないくらい問題ないよ。ダンジョンを一週間連続で攻略したときは、その間ほとんど眠らなかったからな」


「それでも……アリウスが私たちを守ろうとしてくれることは嬉しいし。貴方なら大丈夫だと思うけど。無理はしないでね」


「そうよ、アリウス。エリク殿下や護衛の人たちもいるんだし。私にできることがあったら言ってよね」


 ソフィアとミリアが心配そうな顔をする。


「ああ、無理(・・)はしないよ」


 体調管理も冒険者の基本だからな。自分が無理だと(・・・・・・・)思うこと(・・・・)をするつもりはない。

 だけど敵の戦力が解らない以上、最悪の状況を想定しておく必要があるからな。


 今日は別荘の中で過ごすことになった。

 昨日のうちにヨルダン公爵の襲撃があって解決していたら、湖でボートに乗って遊ぶ予定だったけど。さすがに湖で襲撃されたら、みんなを守るのが難しいからな。


 ソフィア、ミリア、サーシャの女子3人は、相変わらず部屋に集まって。チェスのようなゲームをしながら、お喋りをしている。サーシャはジークのことが気になるみたいだけど。


 ジークの方は真面目な顔で、襲撃に備えているけど。襲撃の前にジークにできることは、そこまでないからな。昨日は良く眠れなかったのか、目の下に隈ができている。


「ジーク、そんなに緊張するなよ。ヨルダン公爵が昼間のうちに仕掛けて来る可能性は低いから、眠っておいた方が良い。眠れないなら酒でも飲めよ」


 別荘の侍女が用意した紅茶のカップに、琥珀色の蒸留酒(ブランデー)を注いでジークに渡す。


「いや、こんなときに酒なんて……」


「万が一、襲撃があったら。『解毒(キュアポイズン)』で酔いを覚ましてやるから、大丈夫だよ」


「……解った。アリウス、済まない」


 ジークは蒸留酒入りの紅茶を一気に飲み干すと、自分の部屋に向かう。ホント、ジークは普段悪ぶっているけど、素直だよな。今自分にできることを真剣に考えて、やろうとしているし。


 エリクは襲撃のことなんて忘れたかのように、優雅に紅茶を飲みながら本を読んでいる。護衛や諜報部の連中が来る度に打合せをしてるし。外にいる諜報部の連中と『伝言(メッセージ)』でありとりしているけど。


 バーンは相変わらず、護衛のジャンとガトウと一緒に鍛錬をしている。100レベルを余裕で超える2人に、バーンは今もボコボコにされているけど。真面目に鍛錬しているから、確実に成長している。


 エリク以外の護衛たちは別荘の警備に参加しないで、自分の主を守ることに専念している。守る相手の優先順位が違うから、一緒に戦っても上手く連携が取れないからだ。


 マルスは護衛を連れていないし、完全に孤立している。だけど昨日俺が言ったことが少しは効果があったのか、もう怯えた顔はしていない。マルスも覚悟を決めたんだろう。


 結局、2日目の昼間も襲撃はなかった。俺たちは夕飯を一緒に食べてから、それぞれの部屋に戻る。


 ソフィアたち女子3人はソフィアの部屋に集まって、パジャマパーティーをしているけど。ソフィアとサーシャの護衛たちも一緒だから、一ヵ所に集まった方が守りやすいという意図があるんだろう。


 そして2日目も終わる午前0時近くになって――俺の『索敵(サーチ)』に反応があった。


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