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52-2話:絶対に敵に回したくない奴


 ドラゴンで襲撃して来た『掃除屋(スイーパー)』のブラスト・ガーランド。

 奴には魔力を封じる手枷と足枷を嵌めた上で。エリクの護衛たちが、荷物用の馬車に積んだ頑丈な魔道具の檻へと連行していく。


「なあ、エリク。襲撃して来た奴はブラスト・ガーランドって言って、500レベル超えの『掃除屋(スイーパー)』だけど。ヨルダン公爵には、そいつを使い捨てにできるほどの戦力があるのか?」


 剣技大会のときの襲撃犯もそうだけど、ブラストはS級冒険者でも上位クラスの実力だ。

 ヨルダン公爵の戦力について、俺も調べたけど。ロナウディア王国の兵力の中心は王家が握っている。だからヨルダン公爵は王国三大公爵の筆頭と言っても、自前の戦力はたかが知れている。


 まあ、襲撃に自前の戦力を使うとバレというのもあって。十分な戦力があっても、襲撃に『掃除屋』とか金で雇った奴を使うのは常套手段だ。

 だけどブラストを使い捨てにしたってことは、他にもブラスト以上の『掃除屋』を雇っているか。ヨルダン公爵が秘密裏に、自前の戦力を蓄えていたってことだろう。


「僕が掴んだ情報だと、ヨルダン公爵は『死の商人』と呼ばれる裏世界の大物と取引きしたらしいよ。『死の商人』の正体は解らないけど、裏社会の相当な実力者で。高レベル『掃除屋』を手配しているのは『死の商人』のようだね」


 エリクは独自の情報網と人脈を持っていて。王国諜報部が知らないような情報まで掴んでいる。


「だけど僕もヨルダン公爵の戦力を予想はしているけど、把握している訳じゃないよ。『死の商人』のガードは固いから、ヨルダン公爵本人すら戦力を把握していないんじゃないかな」


 俺もブラストという『掃除屋』の存在を知っていただけで、ブラストが襲撃して来ることを知っていた訳じゃない。

 ダンジョン実習のときは、外壁に囲まれた王都だから、侵入した『掃除屋』を把握することができた。だけど王都の外だと、どこからでも侵入できるからな。どこにいるか解らない相手の戦力を、事前に把握するのは不可能だろう。


「何れにしても、今回ヨルダン公爵は、なりふり構わずに僕を殺しに来ると思うよ。だから公爵家の全戦力が敵に回ると考えておいた方が良いんじゃないかな」


 そんなことをすれば、エリクたちの命を狙ったことが完全にバレて。ヨルダン公爵家は破滅するだろう。俺たちを皆殺しにして、口封じをするつもりかも知れないけど。


「エリク、おまえはヨルダン公爵に何をしたんだよ?」


「僕はそんなに大したことはしてないんだけどね」


 エリクは俺に近づいて来て、小声で囁く。


「僕はヨルダン公爵の派閥の貴族たちに圧力を掛けて、大半を離反させたんだ。ダンジョン実習の襲撃事件のときに、黒幕の反国王派の貴族たちを捕まえただろう。彼らに色々と情報を吐かせたから、それを材料に使って。どちらにつくのが得か教えたら、みんな素直に従ってくれたよ」


 いつもの爽やかな笑みを浮かべながら、まるで世間話をするような軽い口調。だけどエリクがしたことは、貴族にとって致命的なダメージになる。


「それと知り合いの商人たちに、ヨルダン公爵領で高級品中心に物資の買い占めさせて、物価を高騰させたんだ。勿論、周辺地域や王都の商人には、ヨルダン公爵家にモノを売るときは、高値で売っても買う筈だと情報を流したよ。


 高レベルな『掃除屋』を雇うには相当な金額が必要だし。ヨルダン公爵は財務的にもダメージが大きいんじゃないかな。


 あとはヨルダン公爵の側近を何人か買収して、買収したことをわざとバラしたんだ。そのせいでヨルダン公爵は疑心暗鬼になっているようだね。他には……」


 なあ、エリク。おまえはヨルダン公爵を完全に追い詰めているよな。貴族としてはほとんどは破滅しているようなモノだろう。


「なんでエリクは、そこまでやるんだ?」


 俺の質問に、エリクは爽やかな笑みのまま答える。


「アリウス、君は何を言ってるんだ? ヨルダン公爵は、僕に喧嘩を売ったんだからね。今後同じことする奴が出ないように、徹底的に叩き潰すつもりだよ」


 この機会にエリクが反国王派の貴族を、ロナウディア王国から一掃しようとしていることは知っていたけど。どこまでも徹底的で、一切の容赦がない。

 こいつだけは絶対に敵に回したくない。俺は初めてそう思った。


「アリウス、本当にドラゴンを討伐したんだな!」


 このタイミングで、みんなが馬車から出て来る。ブラストを檻に閉じ込めるまでは、万が一があるから。それまで待って貰っていた。


「それにしても……凄いな。ドラゴンが縦に真っ二つじゃないか! アリウスが仕留めるところを、俺も見たかったぜ!」


 真っ先に飛び出して来たバーンが、ドラゴンを見て興奮している。

 みんなが乗っていた馬車には窓があるけど。二重構造になっていて、外側は護衛たちが固めている。だからバーンは戦いの様子を見ることができなかったんだろう。


「さすがはアリウスね。怪我人もいないみたいだし」


 ソフィアが優しい笑みを浮かべる。


「毎回思うけど。アリウスはホント、規格外よね」


 ミリアは呆れた顔をするけど。2人とも俺のことを心配してくれたことは解る。


「エリク、ドラゴンの死体はどうするんだ? ドラゴンの素材は貴重だろう」


 ダンジョンだとドラゴンを倒しても魔石しか残らないからな。ブラストも言ってたけど、天然のドラゴンは結構貴重なんだよ。


「アリウスが倒したんだから、全部好きにして構わないよ」


 そういうことなら遠慮なく貰うとするか。

 俺に素材を使って、何かを作る趣味はないけど。欲しい奴がいたら、適正価格で提供すれば良いからな。ドラゴンをそのまま『収納庫(ストレージ)』に回収する。


「お、おい……何だよ、今の? ドラゴンが消えたぞ!」


「ドラゴンが丸ごと入る『収納庫』だと?」


 エリクの護衛たちが騒いでいる。『収納庫』は空間属性第10界層魔法で。A級冒険者クラス以上なら、使える奴はそれなりにいるけど。入れられるサイズと容量に制限があって、サイズはせいぜい2m、容量は1tってところだ。


 ドラゴンが丸ごと入るサイズと容量になると、『収納庫』の魔法的な構造を理解して、空間を拡張する必要がある。魔力操作の精度を上げる必要があるし、拡張した分だけ魔力が余計に必要だから。SS級冒険者クラスなら、同じことができる奴がいると思うけど。モノを入れるための『収納庫』に、そこまでする奴は少ないだろう。


 ジークとサーシャも驚いているし、マルスは顔を引きつらせているけど。他の4人の反応は違う。


「アリウスと一緒にいたら、こんなことでイチイチ驚いていられないわよ」


「そうね。アリウスがやることだから」


「ソフィア、君は僕のことも『エリク殿下のやることだから』と良く言うけど。その言い方だと、僕とアリウスを同じように扱っているように聞こえるね。僕の方がアリウスよりはマシだと思うよ」


「いや、エリク殿下とアリウスじゃ、全然タイプが違うが。やっていることのヤバさは、同レベルだろう」


 俺の扱いが悪い気がするのは、気のせいじゃないよな。



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