51-2(1)話：来襲
金で装飾された白い馬車が、時速80kmで街道を滑走する。
周りを固めるのは、白銀の鎧を纏う騎士たち。完全に目立ち捲ってるよな。
「なあ、エリク。別荘に着くまでは、襲撃される可能性がないってことか？」
途中で襲わせるつもりなら、もっと遅い移動方法を選ぶ筈だ。時速80kmじゃ、高レベルの奴か魔物しか追いつけないだろう。
「そういう訳じゃないけど。街道で襲われると、他の人に迷惑が掛かるからね。僕としては、別荘に着くまで襲撃は待って欲しいんだけど。相手がやることだからね。誘導はするけど、完全にコントロールはできないよ」
とりあえず、警戒はしておくべきってことだな。まあ、それは良いんだけど。
「じゃあ、次は私の番よ。ソフィアの性格だとジョーカーは……よし、こっち！ えっ、嘘でしょ！」
「フフフッ……私の方が、ミリアよりも上手みたいね」
「ミリア、今度は私の番ですわ！」
「サーシャ、ちょっと待って……さあ、好きなのを引いて良いわよ！」
「では……これですわ！ 今度は10が揃いましたわ！」
俺とエリクが話している傍で。ソフィア、ミリア、サーシャの3人が、お茶を飲みながらトランプをしている。
襲撃される可能性があることは、3人も当然知っている筈だけど。
「おまえたちも、良い度胸してるよな」
ソフィアが悪戯っぽく微笑む。
「エリク殿下のやることだし、アリウスもいるんだから。何も心配する必要はないでしょう？」
「そうね。ヨルダン公爵のことは、エリク殿下とアリウスに任せて。私たちは100%旅行を楽しむわよ」
信頼してくれるのは嬉しいけど。ソフィアもミリアもホント、良い度胸しているよな。
サーシャは申し訳なさそうに、ジークを見る。
「ジーク殿下、私は……」
「俺のことは気にするなよ。サーシャも旅行を楽しめば良いぜ」
ジークはダンジョン実習のときに、王家の務めとして自分で考えて行動しろと、エリクに言われているし。剣技大会のときも、襲撃に対して何もできなかったからな。さすがに遊んでいる訳にはいかないだろう。
だけどソフィアたちがトランプをしているところを、ジークはチラチラ見ていたし。本当は自分も参加したいんだろう。
このとき、俺の『索敵』に反応があった。
「エリク。空から襲撃が来るけど、俺が迎撃するか？ 結構、本気で殺しに来ているみたいだな」
魔力の大きさから、相手のレベルが高いことが解る。効果範囲が5 kmを超える俺の『索敵』が捉えたばかりだから、まだ視認できる距離じゃない。
「そうだね。アリウス、お願いするよ。だけど護衛たちの対応力を測りたいから。できれば僕が合図するまで、待ってくれないか？」
「ああ、別に構わないけど。被害が出そうになったら、勝手に動くからな」
空から接近する襲撃者の位置をリアルタイムで把握しながら、俺は『収納庫』から2本の剣を取り出す。
「エリク殿下、襲撃です！ ドラゴンが来ます！」
護衛たちが、慌てて部屋に飛び込んで来る。ようやく気づいたみたいだな。
『索敵』の反応から、護衛の騎士たちが馬車の前方で、陣形を組んでいるのが解る。だけど上から攻撃されたら、陣形なんて意味がないだろう。
「こんなところで襲撃するなんて、少しは周りの迷惑を考えて欲しいよ」
ドラゴンが襲撃して来ても、エリクは平然としている。
「もう……次は、絶対に負けないから！」
「ミリアはホント、負けず嫌いね。そういうところも、ミリアの良いところだけど」
ミリアとソフィアも気にしないで、トランプを続けている。俺とエリクがどうにでもするって、思っているんだろう。
「え……私たちは襲撃されるんですよね？」
「おまえたちは、どうして落ち着いているんだ？」
ジークとサーシャは戸惑っているけど。これが普通の反応だよな。
「ドラゴンって……なんでボクは、こんな場所にいなくちゃいけないんだ……」
マルスは顔を引きつらせて、青い顔をする。
「ドラゴンが相手だと護衛の騎士だけじゃ、被害が出そうだし。僕はまだ手の内を晒したくないから、アリウスにお願いするよ。だけど飼い主は殺さないでくれるかな。アリウスならできるよね」
襲撃者の戦力を、エリクも把握しているみたいだな。
「ドラゴンの襲撃って……なあ、親友。本当なのか！」
ソファーで居眠りしていたバーンが、護衛に起こされて興奮している。
「アリウス。ドラゴンを狩りに行くなら、俺も――」
「バーン殿下、何を考えているんですか！」
「そうですよ、殿下！ 絶対に止めてください！」
バーンの2人の護衛が慌てて止める。こいつらも苦労しているよな。
「じゃあ、ちょっと行って来るよ」
「アリウス、待って！」
振り向くと、ソフィアとミリアが気遣わしげな顔をしている。
「アリウスなら、大丈夫だと思うけど。気をつけてね」
「そうよ、アリウス。何があるか、解らないんだから。油断したら駄目だからね！」
「ああ、気をつけるよ。2人は旅行を楽しんでいてくれ」
俺は『短距離転移』で馬車の上空に移動する。『飛行』は当然、発動済みだ。
赤いドラゴンが斜め右前方から、近づいて来る。『索敵』に反応した魔力の大きさから、大よその強さは解っていたけど。『鑑定』すると325レベル。ドラゴンは空からブレスで攻撃するから、レベル以上に厄介だ。
俺は加速して、ドラゴンとの距離を一気に詰める。ドラゴンは高熱の焔のブレスで攻撃して来たけど。俺は魔力の刃を伸ばした剣で、焔のブレスごとドラゴンの身体を縦に両断する。
まあ、所詮は普通のドラゴンだからな。高難易度ダンジョン『竜の王宮』の最下層に出現する太古の竜の方が、遥かに強いんだよ。
