表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

330/612

50-2(2)話:準備


「アリウス、ようやく準備が整ったよ。今週末、王家の別荘へ旅行に行くから。君も一緒に来てくれるよね?」


 火曜日に登校すると、エリクのサロンに呼ばれて。いきなり話を切り出される。


 勿論、旅行に行くというのは建前で。エリクの本当の狙いは、ダンジョン実習で起きた襲撃事件の黒幕であり、剣技大会でも掃除人(スイーパー)を使って襲って来たビクトル・ヨルダン公爵を、誘き出すことだ。


 剣技大会の後も、エリクは色々と画策していたから。ヨルダン公爵を確実に誘き出す準備が整ったってことだな。

 一応、旅行に行くのは本当で。金曜日から授業をサボって出掛けることになった。


 みんなにはエリクが事情を全部話した上で、旅行に同行するか自分で決めて貰うって話だ。だけど正直なところ、剣技大会で襲って来た掃除人は、結構レベルが高かったから。俺はみんなが同行することに賛成できない。


 まあ、エリクも解った上で、みんなを誘ったんだから。対抗する手段は用意しているだろうけど。


 教室へ戻ろうと、エリクと一緒に廊下を歩いていると。俺たちの教室の前にバーンがいた。


「よう、親友。アリウスと会うのは、剣技大会以来だな」


 クラスが違うバーンと一緒の授業は、合同授業だけだ。だけど俺は剣技大会の後、剣術と魔法実技の授業を、全部サボっていたし。バーンは昼飯を自分のサロンで食べるから、授業以外で会う機会も少ない。


「バーンはアリウスに用があるみたいだね。僕は先に教室に戻っているよ」


 エリクはいつもの爽やかな笑顔で教室に入って行く。


「バーン、俺に何の用だよ?」


 剣技大会でキース・ヨルダンにボロ負けしたバーンは、プライドをズタズタにされたけど。立ち直るかどうかは、バーン次第だし。下手に慰めたところで、気休めにしかならないだろう。だからバーンが行動を起こすまで待っていた。


「放課後、俺に少し付き合ってくれないか? 話したいことがあるんだ」


「俺は別に今からでも構わないけど。授業をサボるなんて、今さらだからな」


 もうすぐ午後の授業が始まるから、担当の教師が来たら止められるだろうけど。言訳するのは簡単だからな。


「じゃあ、今から俺に付き合ってくれ」


 バーンが向かったのは裏庭で。もう授業が始まったから、他の生徒の姿はない。


「なあ、アリウス。俺はキース・ヨルダンにボロ負けして、どうして負けたのか必死に考えたんだ。技術も力も何もかも、キースに負けていることは解ったが。アリウスが言った俺に足りないモノって、そういうことじゃないよな?」


「逆に訊くけど、バーンは自分に何が足りないと思うんだ?」


「だから全部だろう。今の俺じゃ、何度戦ってもキースに勝てないぜ」


 バーンは相手の実力を素直に認めることができるからな。


「確かにそうなんだけど。この際だからハッキリ言うけど、全部なんて大雑把に考えるから、バーンはステータスの割に、強くなれないんだよ」


 バーンも『恋学(コイガク)』の攻略対象だから。元々ステータスが高い上に、伸びしろもある。だけど戦い方が雑で、力押しだから。上手くステータスを活かせていない。


「個々の技術もそうだけど、問題なのは根本的な戦い方だな。今のスタイルが絶対にダメとまでは言わないけど。スタイルを変えないにしても、相手の戦い方に合わせて戦う必要はあるだろう」


 今のバーンの戦い方が通用するのは、格下相手のときだけだ。


「だったらアリウス、俺に戦い方を教えてくれないか。この通りだ、頼む」


 バーンが俺に深々と頭を下げる。とりあえず真剣なことは解ったけど。


「バーンには悪いけど、俺はそこまで時間がある訳じゃないからな。バーンには護衛がいるだろう。そいつらに教えて貰えば良いんじゃないか」


 バーンの護衛たちは大国グランブレイド帝国の騎士で。見掛けたことがあるから『鑑定(アプレイズ)』済みだけど、レベルは100を余裕で超えている。


「いや、俺はこれまでも護衛相手に鍛錬して来たが。今のありさまだぜ」


「それはやり方に問題があるんだよ。おまえの護衛たちは、たぶんキース・ヨルダンよりも強いからな。鍛錬って言っても、バーンに遠慮して気持ち良く打ち込ませていただけだろう。おまえの方から本気で鍛えてくれと、頼んでみたらどうだよ?」


 皇子のバーンに忖度する気持ちも解らなくはないけど。手を抜いて相手をしても、バーンは強くなれないからな。


「アリウス、解った。護衛たちに話してみるぜ」


「それでもバーンの護衛が手を抜くなら、真面な教師役を探すくらいはするよ」


「ああ、そのときは頼むぜ」


 バーンはやる気になっている。本気で鍛錬を始めれば、バーンは現実を思い知ることになるけど。今のバーンなら、それくらい乗り越えられるだろう。


「ところでアリウス()、エリクとの週末の旅行には行くんだよな?」


 つまりバーンは参加するってことか。


「バーンもエリクの事情は解っているんだろう。剣技大会で襲って来た掃除人は、相当なレベルだったからな。旅行中に襲って来る奴らも強いだろう。俺は参加することを勧めないけど」


「アリウスがそう言うくらいだから、本当に強いんたろうが。俺もヨルダン公爵家の結末を見届けたいからな」


 バーンはキース・ヨルダンに思うところがあるだろうけど。ヨルダン公爵自身とは関わりがないと思う。だけどエリクはバーンも無関係じゃないって言っていたな。


「ヨルダン公爵はグランブレイド帝国の貴族とも繋がりがあることは、エリクから聞いているけど」


「ああ、そうだな。俺もヨルダン公爵とは家族絡みで、ちょっとした因縁があるんだ」


 バーンの家族って言うと、グランブレイド帝国の皇族だからな。

 まあ、バーンの様子から、そこまで深い話って感じじゃないけど。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ