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46-2(7)話:ミリア対キース


「「「「エリク殿下!!!」」」」


「「「「アリウス様!!!」」」」


 4回戦に出場する俺とエリクに、観客席から女子たちの黄色い声が聞こえる。


 エリクは手を振って応えているけど、俺にそんなつもりはないからな。


「たまにはアリウスも、サービスしたらどうかな?」


「エリク。試合前に俺を呼んだのは、そんな話をするためじゃないだろう?」


 俺は『防音(ミュート)』を発動する。無詠唱で『防音』を発動したから、気づいた奴はいないだろう。


「キース・ヨルダンは腹立ち紛れに、バーン(・・・)に怪我を負わせたってところだろうね」


 エリクはいきなり本題に入る。ダンジョン実習の襲撃事件以来。エリクとバーンは、お互いに敬称で呼ばなくなった。


「バーンを殺してしまったら、その時点で剣技大会が中止になるし。試合中のことは言え、相手はグランブレイド帝国の皇子だからね。キースとヨルダン公爵は責任を取らされるだろう。そこまでのリスクを負ってまで、バーンを殺す理由はないよ。勿論、万が一バーンを殺すつもりでも、僕が絶対に殺させなかったけどね」


 エリクは根拠のないことを言っている訳じゃない。

 試合場の周りには『認識阻害(アンチパーセプション)』と『透明化(インビジブル)』で姿を隠した諜報部の連中が控えている。俺には普通に見えているけどな。

 キースがバーンを殺そうとしたら、諜報部の連中がキースを拘束しただろう。


「俺もキースがバーンを殺そうとしたとは思っていないよ。バーンを殺すつもりなら、キースはもっと威力のあるスキルを使えるからな」


 『鑑定(アプレイズ)』したから、俺はキースが使えるスキルと魔法を全部把握している。俺とキースはレベル差があるからな。『鑑定』すればレベルとステータスだけじゃなくて、そこまで解るんだよ。


「僕たち揺さぶりを掛けるために、バーンを傷つけた可能性も考えたけど。ヨルダン公爵の反応を見ると、そんな感じでもないからね」


 バーンとの試合の後、キースは来賓席に呼ばれて。ヨルダン公爵から叱責を受けていた。

 叱責が意図を隠すためのパフォーマンスの可能性もあるけど。キースが次に同じようなことをしたら、ヨルダン公爵を無視したことになるから。ヨルダン公爵はキースを処罰せざるを得なくなる。これでキースは下手に動けないだろう。


「ヨルダン公爵が狙うとしたらエリクだろう。エリクと刺し違えるなら、ヨルダン公爵もキースを処罰するくらいはしそうだけど。今回の試合でエリクに当たることはないからな。キースに関しての懸念事項は、あとはミリアとの試合だけだよ」


 キースがエリクと戦うには、準決勝で俺を倒す必要がある。別に自慢するつもりなんてないけど、キースが俺に勝つことは絶対にあり得ないからな。

 エリクもそれが解っているから、俺が勝つ前提なことはスルーする。


「キースの独断なら、ミリアさんを狙う可能性はあるよ。平民のミリアさんを試合で傷つけても、キースが処罰されることはないからね」


「まあ、そんなことは俺が絶対にさせないけどな」


「僕もキースとミリアさんの試合は注意して見ているけど。アリウスがそう言うなら、安心だよ。キース以外(・・・・・)の動きは、まだ掴めていないけど。このまま何もなく終わるなんて、ヨルダン公爵の性格を考えれば、それこそあり得ないからね」


 4回戦も順調に進んで、俺とエリクは勝ち上って。最後の4試合目が、ミリアとキースの試合だ。


「ミリア。俺が傍にいるから、安心して戦いに集中しろよ」


「アリウスは、またそんなことを言って……でも、ありがとう。精一杯、頑張って来るわ」


 笑顔のミリアを試合に送り出すと。俺はミリアの後ろから、試合場に立つキース・ヨルダンを見据える。ミリアに何かしたら――おい、キース。解っているだろうな?


「平民の生徒が4回戦まで勝ち残るとはな」


 キースはあからさまに蔑んだ目を、ミリアに向ける。


「身分が強さに関係あるとは思いませんが。昨年優勝したキース先輩が強いことは、私も解っていますよ」


 だけどミリアは平然と受け流して、真っ直ぐにキースを見る。


「今日はキース先輩の胸を借りるつもりですので、よろしくお願いします」


「フンッ……身の程は弁えているようだな」


 ミリアの格好はチェインメイルをブレストプレート、ガントレット、レッグアーマーで補強した鎧。まるで冒険者のように実用的な防具で、使い込んだ跡がある。

 武器は右手に持つ細身の剣(レイピア)と、ベルトに差した錫杖。錫杖は魔法の効果を増幅させる魔道具だ。


 試合が始まると、ミリアは闇雲に距離を詰めないで。


「『輝きの矢(シャイニングアロー)』!」


 『輝きの矢』は光属性第2界層魔法だけど。観客席からどよめきが起きたのは、光の矢が6本同時に出現したからだ。

 学院の2年生でも魔法をここまで使いこなせる生徒は、そうはいないだろう。


「なるほど。ここまで勝ち残ったのは、伊達ではないと言うことか」


 キースは魔力を纏わせた剣と盾で、6本の光の矢を叩き落とす。これでキースはノーダメージだ。


「今度はこっちから行く――『加速(ブースト)』!」


 キースは第3界層魔法『加速』を発動して、ミリアとの距離を一気に詰める。


 そこからは盾と剣による攻防一体のキースに、ミリアが押される形で試合が進行する。 

 ミリアは魔力操作が上達したことで、なんとかキースの攻撃を受けているけど。そもそもレベルもステータスも、キースの方が明らかに高いし。キースは試合形式の戦いに慣れている感じだ。


「『治癒(ヒール)』!」


 『特殊結界(ユニークシールド)』の中で治癒魔法を発動すると、蓄積されたダメージポイントが減少する。

 『治癒』を使わないと厳しいくらいに、ミリアがキースの攻撃を受けているってことだけど。レベル差を考えれば、これでも十分善戦している。


「まだMPが尽きないのか……小賢しい奴め」


 キースが苛立っている。ミリアは『治癒』が使えるからってのも大きいけど。2年生でもキースの攻撃にここまで耐えられる生徒なんて、そうはいないだろう。


 それでもキースが使える最大威力のスキルが直撃すれば、一発でケリがつく。だけどミリアは戦いに集中して、キースの攻撃を何度も躱しているし。準決勝以降の戦いを考えれば、MPの消費を抑えたいところだろう。


 結局、ミリアはMPが尽きるギリギリまで粘って。


「さすがに、もう限界ね……降参するわ」


 次の試合があるから、キースがスキルを出し惜しみしたのもあるけど。ミリアが何度も躱したことで、スキルを使わせなかったのが大きい。


「アリウス、解っていたことだけど。結局、負けちゃったわ」


「いや、今のミリアの実力なら、かなり頑張ったと思うよ。最後に引いたタイミングも、良い判断だな」


 惜しかったとか、次は勝てるとか。そんな適当なことを言うつもりはない。


「アリウスがそう言ってくれるなら……頑張った甲斐があるわね」


 ミリアもやれることは全部やったから、満足してるみたいだな。

 キースが忌々しそうに、こっちを見ているけど。


「キース先輩。そんな顔をしなくても、次は俺が相手になるから。ミリアに意趣返しするとか、余計なことは考えるなよ」


「なんだと……アリウス、私がそんなことをする筈がないだろう!」


 ムキになるのは、図星だからだな。

 ホント、こんな奴をエリクも警戒し過ぎだと思うけど。エリクだって、本命は別にあると考えてるみたいだからな。


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