46-2(4)話:ミリアの実力
※ミリア視点※
「とりあえず、バーンはミリアの試合を良く見ておけよ」
「え……私の試合? アリウス、どういうことよ?」
「ミリアの戦い方を見れば、バーンは自分に何が足りないか解る筈だからな」
アリウスがこんなことを言うから、バーン殿下が訝しそうに私を見ているわ。
「アリウス、変なことは言わないでよ。バーン殿下は私よりずっと強いんだから、私の試合なんて参考になる筈がないわよ」
バーン殿下は身長が190cm近くあるし、制服を着ていても解るくらいに身体を鍛えている。どう見ても私より強いわよね。
「ミリアはもっと自分に自信を持てよ。俺が教えた魔力操作の練習だって、ずっと続けているんだろう?」
アリウスと2人で行ったカフェで、お互いが転生者だと告白したとき。
『ねえ、私もアリウスみたいに強くなれると思う? 女だから守られる立場みたいに思われるのが、私は好きじゃないのよね』
私が何気なく言った言葉に。
『ミリアは授業を真面目に受けているし。自主練だってしているだろう? だから強くなれるよ』
アリウスは自信たっぷりに、さらりと応えたのよ。
『なんで私が自主練しているって解ったのよ?』
『おまえの成長ぶりを見れば解るよ。剣術の授業でも、魔法実技の授業でも、一番上達しているのはミリアだからな』
アリウスが私のことを見てくれていた――別に嬉しくないけど。
『だけどミリアがもっと上を目指すなら、魔力をもっと効率良く正確に操作できるようにならないと。魔力操作は戦いの基本だからな』
アリウスは私に魔力操作の重要性と、練習の仕方を真剣に教えてくれた。ホント、アリウスって戦いの話になると、夢中になるわよね。
せっかく教えて貰ったから、私は毎日操作の練習を真面目に続けているけど。それもアリウスには解るのね。
自信たっぷりに、何でも解っているような顔――アリウスのそういうところが、ムカつくけど。
「……とりあえず、頑張るわよ」
「ああ。ミリアなら絶対に勝てるからな」
顔が熱い。自分でも顔が赤くなっていることが解る。もう、アリウスがそんなことを言うから悪いのよ!
私の1回戦の相手は、2年生のカミル・ステファン先輩。国王派のステファン子爵の次男で。アリウスたち『恋学』の攻略対象ほどじゃないけど、学院でも評判のイケメンだ。
「君がミリア・ロンドか。平民にしては魔法の才能があると、僕たち2年生の間でも噂になっているよ。僕が退屈しないように、精々頑張ってくれたまえ」
完全に上から目線ね。平民を馬鹿にする態度を隠そうともしない。少しくらい顔が良くても、アリウスとは比べ物にもならないわ。
「ステファン先輩、ありがとうございます。噂に負けないように頑張ります」
ゲームのときも『恋学』の主人公のミリアは、1年生のときから剣術大会で活躍する。だけどさすがに1年生だから、上級生相手に善戦するって感じで。試合には勝てなかったわ。
私はアリウスに教えて貰ったように、魔力の流れを意識して。自分の剣に魔力を集中させる。
『魔力を上手く操作するには、とにかく毎日魔力が尽きるまで繰り返し練習するしかないよ。だけど漫然と練習するだけじゃダメだからな。1つ1つのことを、何のためにやるのか。明確に意識してやるんだよ』
アリウスに言われたように、私は本当に毎日魔力が尽きるまで練習したから。意識することで、自分の魔力の流れを感じられるようになって。どうしたら魔力を上手く操作できるのか、真剣に考えながら練習を続けることで。私なりに少しは魔力を操れるようになつた。
「生意気なことを言う後輩は好きじゃないんだ」
試合開始と同時に、ステファンが突っ込んで来る。
ステファンの武器は私と同じ細身の剣。シンプルな私の剣と違って、金と宝石で派手に装飾されてるけど。
ステファンは動きも派手で、舞うようなステップで剣を振るう。だけど動きが大きいから、躱すのは難しくないわ。
「『連続斬』!」
ガラ空きになったステファンの胴体に、スキルを発動して剣を叩き込む。
『特殊結界』がダメージを無効化するけど。ステファンの頭上に、私が与える筈だったダメージがポイントとして表示される。
魔力を集中させた私の剣の連続攻撃は、余裕で3桁のポイントを叩き出した。
「馬鹿な……こんなモノはまぐれだ!」
ステファンは怒り任せに攻撃して来る。だけど余計に動きが雑になって、躱し易くなったわ。
私は冷静にステファンの動きを見極めて躱しながら、次々と剣を叩き込むと。パリンと音を立てて、『特殊結界』が消滅する。
「僕が1年生に……しかも平民に負けるなんて……あり得ないだろう!」
それでも負けを認められないステファンは、切り掛かって来ようとしたけど。『特殊結界』が消滅したら試合終了というルールだから、先生に止められる。
「勝っちゃった……」
「ああ。ミリアの完勝だな。俺としては当然の結果だけど、周りの奴らは驚いているみたいだな」
したり顔のアリウスに促されて、他の生徒たちを見る。
私は試合に集中していたから、気づいていなかったけど。試合場にいる生徒たちや、観客席の生徒たちが、私に注目して騒めいている。
観客席のソフィアとサーシャが立ち上がって拍手してくれているのが、ちょっと恥ずかしいわね。
「ミリア、おまえ……いつの間に、そんなに強くなったんだ?」
バーン殿下も驚いている。驚いているのは私も同じだけど。
「私が勝てたのは、アリウスのお陰ですよ。アリウスが魔力操作の仕方を教えてくれたから」
「いや、俺はやり方を教えただけで。強くなったのは、ミリアが真面目に練習しているからだからな」
アリウスは、またそんなことを言う。私のことを認めてくれるのは嬉し――くないわよ!
「なあ、親友。俺にも魔力操作の仕方を教えてくれよ」
「教えるのは構わないけど、バーンはそれ以前の問題だからな。おまえはミリアの魔力操作に注目しているみたいだけど。戦い方の基本だって、おまえよりもミリアの方が上だからな」
だからアリウス、そんなに褒めないでよ。思わず顔が緩んじゃうじゃない!




