293話:正義の執行者
結局。俺とグレイとセレナは、EX級冒険者になることにした。
そもそも冒険者等級なんて、興味ないけど。実力があるのに、俺たちのせいでSSS級冒険者になれない奴がいるのは、申し訳ないからな。
オルテガは、EX級冒険者にも序列をつけると言ったけど。そっちの方は断った。俺とグレイとセレナの間に、そんなモノは必要ないからだ。
※ ※ ※ ※
それから1ヶ月ほど経った頃。今度はフランチェスカ皇国の辺境地帯で、スタンピードが起きた。
フランチェスカ皇国のライアン・フェンテス天帝は、直ぐに皇国軍を向かわせるとともに。冒険者ギルドにも、冒険者を派遣するように依頼を出した。
俺は自分の情報網で、スタンピードが起きたことを知っていたから。オルテガから『伝言』で依頼が来たときは、すでに動いていた。
自分の情報網があると言っても、世界中で起きたことを、逐一全部把握できる訳じゃないし。今回、直ぐに情報を掴めたのは、たまたまだ。
だけど俺よりも先に、現場に到着して。魔物たちと戦っている奴らがいた。
「エイジさんも相変わらず、頑張っているみたいだな」
藍色の髪で、陰がある感じのイケメン。元SSS級冒険者エイジ・マグナスが、愛剣『裁きの剣』を振るう。
エイジの隣で、肩まで伸ばしたドレッドヘアーの美人が、物凄いスピードで刺突剣を叩き込む。現SSS級冒険者序列4位のジュリア・エストリアだ。
エイジとジュリアが戦っているのは、1万体を超える魔物の群れと、スタンピードの原因となった巨大な魔物。
魔物の群れを追い立てるように突き進むのは、体長20mを超える黒い翼と羊のような角が生えた巨大な美丈夫。
『鑑定』したから解るけど。こいつは『偽神』と呼ばれる下級の魔神だ。
この世界の神や魔神は『神たちのルール』によって、地上に出ることができない。
だけど下級でも魔神の『偽神』が地上に出現した。つまり地上の存在に誰かが、『偽神』の力を与えたってことだ。
『偽神』の強さは、最初の最難関ダンジョン『太古の神々の砦』のラスボスクラスだ。
まあ、最難関ダンジョンと違って、最下層の1,000体以上の魔物を倒した後に出現する訳じゃないし。そこまで脅威じゃないけど。
『偽神』が出現したせいで、逃げ出した魔物たちが暴走して、スタンピードが発生したスタンピードが起きる典型的なパターンだな。
ジュリアが刺突剣の連続攻撃で、魔物の侵攻を止める傍らで。エイジが魔力を込めた『裁きの剣』を『偽神』に叩き込む。
だけど『偽神』はDEFもHPも異常に高い上に、回復力も半端じゃないからな。エイジ1人で『偽神』を仕留めるのは厳しいか。
俺は魔物の群れに飛び込むと。高速で駆け抜けながら、魔物たちを次々と仕留めていく。
「こっちは俺がやるから。エイジさんとジュリアさんは『偽神』に集中してくれよ」
「アリウス……おまえが来たなら、俺たちの出番は終わりだな」
3年前に再会したときから。エイジは俺のことを認めてくれるようになった。
「エイジさん、何を言っているんだよ。エイジさんとジュリアさんなら『偽神』くらい倒せるだろう。今回、俺はサポートに徹するからな」
俺は人の獲物を横取りするつもりはないし。スタンビードを止めることが、目的だからな。
「アリウス……解った。こいつは俺たちが倒す!」
エイジの顔が真剣さを増す。エイジは変わったからな。昔のように自分の正義を押し付けるんじゃなくて。本気で正義のために、人々を守るために戦っている。
『アリウス、ありがとう』
ジュリアは声を出さなかったけど。口の動きで、何を言ったのか解る。
「エイジ君、ここからは全力で行くわよ!」
さらに加速したジュリアは、音速を余裕で超える。魔力を1点に集束した刺突剣がスピードに乗って、『偽神』の硬いDEFを突き破る。
「ジュリア、解っている!」
エイジもギアを上げる。視覚化された膨大な魔力の光が大地を貫いて、上空へと立ち昇る。エイジは全ての魔力を『裁きの剣』に集束させる。
眩しい光を放つ『裁きの剣』の一撃が『偽神』のHPをゴッソリと削る。
それでも2,000レベルを超える『偽神』が崩れることはなく。HPを急速に回復させながら、巨体な剣と魔法の波状攻撃で、エイジとジュリアに襲い掛かる。
2人よりも『偽神』の方が、レベルもステータスも高いからな。エイジとジュリアはダメージを受けながら、お互いにカバーし合って。 2時間ほと掛けて『偽神』のHPを削り切った。
「エイジさん、ジュリアさん。やったな」
「ああ、何とかなったが。この前は結局、アリウスに倒して貰うことになったからな」
『RPGの神』が力を与えた魔物が出現するようになってから。魔物を倒す現場でエイジとジュリアに会うのは、今回が初めてじゃない。
エイジは冒険者ギルドの依頼なんて関係なしに、正義のために動くからな。情報さえ入れば、行動が早いんだよ。
前回は早く倒さないと被害が広がるばかりの状況だったから、俺が魔物を倒したけど。今回は街まで距離があるから、時間的に余裕があった。
「アリウス、本当にありがとうね!」
ジュリアがいきなり抱きついて来る。
「ジュリアさん、そういうことはエイジさんにしろよ」
「勿論、エイジ君には後でたっぷりするわよ」
ジュリアが嬉しそうに笑って、エイジにウインクする。
「……ああ、ジュリア。だが、ほどほどにしてくれ」
エイジが照れ臭そうに頬を掻く。俺も人のことは言えないけど。朴念仁だったエイジも、ジュリアの気持ちを受け入れたようだな。