表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

287/612

282話:アンデッドの軍勢


 『死者の森』から這い出したアンデッドの大群が、マバール王国の東部にあるローアン地方を襲った事件。アンデッドの数は1万を超えていたから、規模としてはスタンピードクラスだ。


 しかもスタンピードと違って、魔物が暴走している訳じゃなくて。ヴァンパイアに率いられたアンデッドたちは、軍隊のように組織された集団だった。


 そんな奴らに襲われたら、少なくとも複数のSS級冒険者パーティーに討伐依頼が出る案件だけど。マバール王国はローアン地方をアンデッドに明け渡して、放置するという選択をした。


 表向きは戦力を整えるまでの時間稼ぎのために、苦渋の選択をしたことになっている。

 だけど本当は、ローアン地方を治めるトーリ伯爵が親魔族派だから。マバール王国内の東方教会の奴らが国王に圧力を掛けて、捨て石にしたんだよ。


 俺は東方教会の教皇ルードに文句を言って、圧力を掛けるのを止めさせたようとした。だけど今回の件は、マバール王国内の東方教会の連中が勝手に動いたらしく。教皇ルードも直ぐに手が打てなかった。


  まあ、教皇ルードにそこまで期待した訳じゃないし。マバール王国が動くのを待っていたら、被害が増えるだけだからな。初めから俺が動くつもりだったけど。


「なあ。ずっと『死者の森』に潜んでいたおまえが、動き出した理由は何だよ?」


 『認識阻害(アンチパーセプション)』と『透明化(インビジブル)』で姿を隠したまま、俺は始祖級kヴァンパイアに訊く。

 こいつのレベルは2,000を超えているから。SS級冒険者たちが討伐に向かっても、手に負えなかっただろう。


 ヴァンパイアが気紛れで動き出した可能性もあるけど。ローアン地方を突然襲撃した理由が、イマイチ良く解らないんだよな。

 ヴァンパイアが食料として人間を襲うことは、めずらしくないけど。アンデッドの軍勢で蹂躙したら、食料になる人間がいなくなるだろう。


「無礼な羽虫が紛れ込んだか」


 始祖級ヴァンパイアは俺の声がした方向に、第10界層の範囲攻撃魔法を連発する。

 だけど俺にとって奴の動きは遅過ぎるからな。魔法の効果範囲外に普通に移動する。

 まあ、こいつの攻撃は速度以前の問題だけど。


「おまえの攻撃って、レベルの割に雑だよな。魔力操作の精度も低過ぎる」


 大量の魔力を注ぎ込むことで、無理矢理魔法の威力を高めているけど。レベルとステータスが高いだけで、能力を使いこなせていないし。こいつはまるで、先代勇者のアベルみたいだな。


「おまえの力は、誰かに与えられたモノじゃないのか?」


 こいつは長い間『死者の森』に潜んでいたらしいからな。単純に自分より強い奴がいなくて、慢心している可能性もある。だからカマを掛けてみたんだけど。


「な、何を言ってる? そんな筈がなかろう!」


 始祖級ヴァンパイアはムキになって、攻撃魔法を連発する。どうやら、図星のようなだな。


「おまえさ。相手の力を認識できないことの意味すら解っていないだろう」


 俺は集束した魔力の塊を叩きつけて、始祖級ヴァンパイアの半身を吹き飛ばす。

 奴の身体が半分残っているのは、俺がわざと外したからだ。


「私の身体を一撃で、ここまで傷つけるだと……しかも何だ、この膨大な魔力は!」


 一応、俺の魔力の強さには気づいたようだな。


「ヴァンパイアなら、これくらい直ぐに再生できるだろう。だけど全身を一瞬で消滅させら、どうなると思う?」


 始祖級ヴァンパイアは消滅する恐怖を感じたんだろう。配下のアンデッドたちで自分の周りを固めるけど。俺は一瞬でアンデッドの壁を消滅させる。


「わ、解った……私が知っていることを、全て話そう。だから見逃してくれ!」


 始祖級ヴァンパイアはペラペラと話し出した。

 『死者の森』に潜んでいた只のヴァンパイアだったこいつの頭の中に、突然()が響いて。力を与えてやるから、人間どもを蹂躙しろと言ったらしい。


「そいつは自分のことを何と名乗ったんだよ?」


「いや、特に名乗らなかった。私も疑わしいと思ったが。誘いに乗ると言ったら、突然膨大な力が溢れ出したのだ」


 これまでのことを考えれば、声の正体として一番可能性が高いのは『RPGの神』だろう。

 だけど自分が神と名乗らなかったことに意図を感じるし。問題なのは、これからも同じようなことが、しかも同時(・・)に起きる可能性があるってことだな。


 勇者と魔王は、この世界に1人ずつしか存在できない。『神たちのルール』で、そう決めたからだ。

 だけど魔物に力を与えることが『神たちのルール』に抵触しないとしたら。こいつみたいな高レベルの魔物が複数同時に、突然出現する可能性がある。


 まあ、無制限に力を与えられるなら、とうにやっている筈だからな。何かしら制約があるんだろうけど。俺は『神たちのルール』を全部把握している訳じゃないからな。


 『神たちのルール』について知るには、『ダンジョンの神』に訊くしかないけど。『ダンジョンの神』は向こうの都合で、勝手に話し掛けて来るだけで。俺と友好関係にあるかも怪しいからな。

 『ダンジョンの神』にとって、俺は所詮ゲームの駒に過ぎないだろう。


「なあ、おまえが他に知っていることはないのか?」


「わ、私が知っていることは、これが全てだ。こうして全て話したのだから、見逃してくれるのだろう?」


 俺は集束した魔力の塊を直撃させて、始祖級ヴァンパイアを消滅させる。


「や……約束が違う……」


「いや、俺は何も約束していないからな」


 こいつは散々人を殺したし。放置すれば、また人を殺すだろう。

 俺は無数の魔力を周囲に放って、アンデッドの軍勢を殲滅した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ