277話:新しい年
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年が明けて、新年を迎えた。
これまでは新年になったからといって、特にどうということもなかったけど。
俺はみんなと結婚したから。ロナウディア王国には、年始の挨拶に行く習慣があるし。俺たちは俺の実家も含めて、みんなの家族のところに挨拶に行くことにした。
俺たちは全員一緒に、それぞれの家族のところに挨拶に向かう。俺たち6人の関係をキチンと認識して貰うためだ。
まずはロナウディア王国の王都。王宮でアルベルト国王とエリク、俺の実家で父親のダリウスと母親のレイアに会う。
「ねえ、アリウス。今年は孫の顔が見れるかしら?」
男が言えば完全にセクハラ発言だけど。母親のレイアは平気でこんなことを言う。みんなが顔を赤くしているから、止めて欲しいんだけど。
「母さん。デリカシーのない発言は止めてくれよ。それに母さんの見た目で孫がいたら、違和感があるだろう」
母親のレイアは今41歳で。全然老けないから、見た目は20代と言っても十分に通る。知らない奴が見たら、俺の姉だと思うだろう。
「アリウス。またそんなことを言って、誤魔化そうとしてるでしょう」
「まあ。レイアが若くて美人なのは事実だからな」
「ダ、ダリウスまで……そんなことないわよ」
父親のダリウスの発言に、母親のレイアが顔を赤くする。父親のダリウスも相変わらず老けないよな。どう見ても20代の大人な感じのイケメンだ。
「父さんも母さんも、恥ずかしいから止めてくれないかな」
「そうだよ。お兄ちゃんたちの前で恥ずかしいよ」
双子の弟と妹のシリウスとアリシアがジト目をする。
12月で14歳になった2人は、今年の3月で学院を卒業して。本格的に冒険者として活動を始める予定だ。
「シリウス、アリシア。両親の仲が良いことは良いことじゃない」
「そうそう。私はお義父さんとお義母さんの関係に憧れるわ」
みんながフォローする。
まあ、実際のところ、父親のダリウスと母親のレイアは、王国宰相と宰相夫人として、今でもバリバリに活躍しているし。家族思いの良い父親と母親だと思うよ。
俺はダリウスとレイアの子供として転生したことに、本当に感謝している。
※ ※ ※ ※
俺の実家の後は、ビクトリノ公爵領に行って。ソフィアの両親に挨拶した。
ソフィアの両親がアルベルト国王に挨拶するために王都に来ないのは、ソフィアがすでにビクトリノ公爵家を継いでいるからだ。
ソフィアの両親は、ソフィアとエリクの政略結婚を進めようとしていた張本人で。ビクトリノ公爵家の衰退を止められなかった人たちだけど。
ソフィアが生まれたのは、ソフィアの両親のおかげだからな。一応、感謝はしている。
次に俺たちが向かった先は、ミリアの故郷であるロナウディア王国の田舎街シュケル。ちなみに誰の実家に先に行くかという順番は、優先順位とかじゃなくて。相手の都合を聞いて決めた。
まあ、王家と俺の実家、ビクトリノ公爵家については、王族と貴族だから優先してくれと。ミリア、ノエル、ジェシカの家族に頼まれたけど。
ミリアの故郷のシュケルの街は、ロナウディア王国の南部にある人口3,00人ほどの小さな街で。ミリアは学院に入学するまでシュケルの街で過ごしていた。
「ミリア、お帰りなさい。アリウス陛下と皆さんも、よく来てくれました」
ミリアの両親が俺たちを迎える。ミリアの実家はパン屋で、ごく普通の平民の家だ。
ミリアの両親は2人とも40代前半で。『恋学』の主人公であるミリアの両親だけあって、外見ハイスペックだ。まあ、俺の両親と違って年相応の見た目だけど。
ミリアの父親は栗色の髪と茶色の瞳で、母親はミリアと同じ純白の髪と紫紺の瞳。顔立ちから言っても、ミリアは母親似だな。
俺はミリアと結婚するときに挨拶に来て、結婚式でも会っているから、ミリアの両親に会うのは、これで3回目だ。
とりあえず、俺たちはミリアの実家で昼飯をご馳走になった。俺がたくさん食べることは、ミリアの両親も知っているから。ミリアも手伝って、沢山の料理が並べられる。
焼きたてのパンと温かい家庭料理は、どれも美味かった。ミリアが料理上手なのは、子供の頃から母親に教えて貰ったからだろう。
「ねえ、みんな。私の魔法の先生のところにも挨拶に行きたいんだけど。構わないかな?」
『恋学』の主人公ミリアは、元々魔法の才能があるけど。誰にも習わずに魔法が使えるようになった訳じゃない。
「ヘレン先生、お久しぶりです」
「あら、ミリア。帰って来たのね」
俺たちがシュケルの街の教会に行くと。祭服姿の50代の女性が迎えてくれた。
ヘレン・オルガン司祭は、生まれたばかりのミリアに、光属性魔法の才能があることに気づいて。ミリアが幼いころから、魔法の使い方を教えてくれたそうだ。
ミリアにとってヘレンは、もう一人の母親のような存在らしく。俺はミリアと結婚したいと挨拶に来たときにも、ヘレンに会っている。
「ヘレンさん。忙しいときに来て悪いな」
俺たちもヘレンに挨拶する。教会には新年の挨拶にたくさんの人が来ていて。神官たちが信者たちにパンとワインを振舞っている。
「たくさんの人が来てくれるのは、嬉しいことです。皆さんも寛いでください」
ヘレンは気さくな感じで応えると。
「それにしても。ミリアは学院に入学してから、本当に良い笑顔で笑うようになったわね。これもアリウス陛下と皆さんのおかげかしら」
「もう、ヘレン先生! 私はみんなには感謝していますけど。そういうことは人前で言わないでくださいよ!」
ミリアは照れ臭そうにしながら、満面の笑みを浮かべる。
『アリウスに会う前の私は、『恋学』の主人公のミリアを演じようとしていて。他の人たちのことも『恋学』のキャラだと決めつけていたわ。
だけどアリウスが、私は私らしく生きて良いって。みんなはこの世界でリアルに生きているって教えてくれたの。
私の両親やヘレン先生と本当に仲良くなれたのも、アリウスのおかげよ……ありがとう、アリウス」
結婚の挨拶に来たときに、ミリアがこんなことを言った。だけど俺が何かした訳じゃなくて。ミリアが自分で気づいて、変えたんだからな。俺がそう答えると。
『もう、アリウスは……そういうことばかり言って、ズルいわよ。ねえ、アリウス。ずっと私と一緒にいてね』
ミリアは嬉しそうに抱きついて来た。まあ、ミリアが幸せなら、俺は構わないけど。
俺たちは教会を後にして、シュケルの街を歩く。
今日は、みんなでミリアの故郷に来たんだから。ミリアが学院に入学するまで過ごしたこの街を、もう少し散策してみるか。