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266話:報告


 結局、ジョセフ公爵は俺の要求を呑んで。勇者パーティーを解散して、フレッドを解放。フレッドと家族、アーチェリー商会の人間を守ると約束した。


 ブリスデン聖王国は、新たな勇者について何も発言していないから。勇者であるフレッドを解放しても、ブリスデン聖王国の面子に関わることじゃない。


 フレッドたちを守ることについても、フレッドを利用しようとする可能性がある組織の1つ、東方教会とブリスデン聖王国は元々敵対関係にあって。東方教会が手段として使うのはテロと誘拐、『奈落』も犯罪者集団だからな。ブリスデン聖王国の国民であるフレッドたちを、犯罪行為から守ることは何の問題ない。


 ブリスデン聖王国内の他の勇者を利用とする奴や、他の国からフレッドたちを守ることも、ジョセフ公爵にとっては、政敵と戦うだけの話した。

 つまりブリスデン聖王国にデメリットはなくて、ジョセフ公爵は戦うべき相手と戦うだけだから。フレッドたちを守ることは、自分たちがやったことの責任として果たして貰う。


「ジョセフ。俺はおまえたちを監視しているし、フレッドたちの周囲も見張っているからな。せいぜい手を抜くなよ」


 俺は『浄化(ピュリファイ)』でジョセフ公爵の部屋の血を消すと。


「じゃあ、聖王ビクトルのところに案内しろよ。『自由の国(フリーランド)』の国王がブリスデン聖王国と友好関係(・・・・)を築くために、挨拶しに来たんだからな」


 聖王ビクトルにはジョセフ公爵が屈したことを、きちんと教えておく必要がある。ジョセフ公爵は自分の面子のために、隠そうとするだろうからな。


 時間的には、とても国王同士が会談するような時間じゃないけど。どうせ反魔族を掲げるブリスデン聖王国の聖王ビクトルが、公式の場で俺に会う筈がないからな。むしろこの時間帯のが、聖王ビクトルも都合が良いだろう。


 ジョセフ公爵は抵抗することを諦めたのか。まあ、ビクトル聖王にも責任を負わせることも狙いだろう。ビクトル聖王の部屋まで案内することを、アッサリ承諾した。

 俺は『認識阻害(アンチパーセプション)』と『透明化(インビジブル)』で一旦姿を消して、ジョセフ公爵について行く。


 ジョセフ公爵は『伝言(メッセージ)』で先に連絡を入れたらしく。ビクトル聖王の部屋に行くと、扉の前の護衛の騎士は直ぐに通した。


 ジョセフ公爵を部屋に入れて扉を閉じると。聖王ビクトルは不機嫌な顔で口を開く。


「ジョセフ。至急、直接知らせたいことがあるということだが。いったい何ごと――」


 言い終わる前に、俺は姿を現わす。勿論、『防音(ミュート)』と『絶対防壁アブソリュートシールド』を周囲に展開済みだ。


「ビクトル、久しぶりだな」


 聖王ビクトルが嵌められたことに気づいて、ジョセフ公爵を睨むけど。開き直ったジョセフ公爵は、不敵な笑みを浮かべる。


 俺は聖王ビクトルに、ジョセフ公爵に伝えた要求を伝える。ジョセフ公爵がすでに承諾していることも含めて。ジョセフ公爵は否定しない。まあ、俺が一緒にいるんだから、否定できる筈がないけど。


 ジョセフ公爵の裏切りを知った聖王ビクトルは、表情を失った顔で俺の要求を呑む。ブリスデン聖王国の実権は、ジョセフ公爵が握っているから、聖王ビクトルが否定することは無意味だ。

 だけどジョセフ公爵に権力を与えたのは聖王ビクトルで、時間を掛ければ聖王ビクトルが実権を取り戻すことは可能だからな。聖王ビクトルにも承諾させておく必要がある。


 ブリスデン聖王国のトップである2人に要求を飲ませた上で、2人を対立させたことで、ブリスデン聖王国は操り易くなった。


「まあ、おまえたちにデメリットはないし。俺の要求に対する報酬は払うよ」


 鞭だけで人を縛るのは難しいからな。対価も用意してある。ブリスデン聖王国がフレッドたちを守っている間は、裏で魔石の取引をすることにした。


「新たに誕生した勇者を、ブリスデン聖王国が保護する。それだけの話だろう。おまえたちが約束を守るなら、勇者を使っておまえたちがしようとしたこと(・・・・・・・・)には目を瞑ってやるよ」


 全部解っているからなと念を押して。俺はブリスデン聖王国の王宮を後にした。


※ ※ ※ ※


 俺は『転移魔法(テレポート)』で、ミリアと一緒に『自由の国』の城塞に戻る。


 城塞の転移ポイントは、みんなが同じ場所に転移して事故が起きないように。地下にある広い部屋のそれぞれ別々の場所に設定してある。


 まずはフレッドに『伝言(メッセージ)』で、とりあえずブリスデン聖王国の件が片づいたことと、細かい説明は明日すると伝える。


「ミリア。血生臭いところを見せて悪かったな。気分の良いものじゃないだろう」


 ジョセフ公爵の両腕を切り落としたとき。俺は殺しても構わないと思っていた。

 ジョセフ公爵はフレッドを利用して、たくさんの人間を殺そうとした。フレッドたちを守らないなら、生かしておく理由はない。


「私が一緒に行きたいって言ったんだから、アリウスが謝る必要はないわよ。それに私もロナウディア王国の諜報部の人間だから、荒事には慣れているわ。まさかこんなことで、私がアリウスを嫌いになるとか、思っていないわよね?」


 ミリアは悪戯っぽく笑うと、優しく俺を抱きしめる。


「いや、そんな筈がないだろう。ミリアは俺が戦闘狂だと解った上で、結婚したんだからな。俺たちの関係が崩れるとか、全く考えていないよ」


「私だってそうよ……アリウスが優しいことは解っているわ。それでも人を殺さないといけないときがあるから、できれば私が代わってあげたいけど。アリウスはそんなこと、絶対にさせてくれないわよね」


「ああ。俺はミリアのことが大切だからな。俺もミリアに嫌な想いをさせたくないと思っているし。ミリアが傍にいるだけで、俺はもっと強くなれる」


「アリウス……」


 俺とミリアは身長差があるから、ミリアを抱き上げて唇を重ねる。しばらくの間、俺たちは互いの存在を確かめるように抱き合った。


「みんなが待っているから、そろそろ戻らないと。また抜け駆けしたって言われちゃうわね」


 ミリアが小さく舌を出して微笑む。


 2人でリビングへ行くと、みんなが俺たちを笑顔で迎える。


「アリウス、ミリア、おかえりなさい。ねえ、ミリア。地下室の件は2人の邪魔をしなかったんだから、今度は私たちの番で構わないわよね?」


「そうだよ。ミリアは帰って来てまで、アリウス君とイチャイチャて。同じ転生者だからって、ミリアばかりズルいよね」


 エリスが不敵な笑みを浮かべて、ノエルがちょっと恥ずかしそうに。俺の左右の腕を抱える。


「え……みんな、私たちが帰っていることに気づいていたの?」


「私たちは2人のことを心配していたんですから、当然ですよ」


「ミリアには今日あったことを、全部訊かないといけないわね」


 ソフィアとジェシカがニッコリ笑ってミリアを捕まえる。


「ちょっと! みんな、私は抜け駆けなんて……ここに帰って来るまでは、していないわよ」


 ミリアが真っ赤になると。


「私は正直なミリアが大好きですよ」


「そうね。だけどミリアはずっとアリウスと一緒だったんだし。これからは私たちの時間だから。ねえ、アリウス。私たちと一緒に――」


 この日。俺たちは少し夜更かしした。


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