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260話:借り


 ガルシア・ロレックの案内で、馬車で再び移動する。

 向かった先は、旧市街にある港。波止場に大型の白い帆船が停まっている。


 細長いフォルムの船体は全長80mほど。3本のマストにそれぞれ4つ帆と、マストと船首を結ぶ形で取りつけられた3つの三角帆。

 俺は船にはあまり詳しくないけど。前世で見たことのある近代的な帆船のように見える。まあ、この世界には飛空艇も存在するからな。


「モルガンの沿岸を船で遊覧するのが、最近の流行りなんですよ。昼食を用意していますので、ゆっくりとクルージングを楽しんでください」


 桟橋にある乗船用の階段の前で、40歳代の女性が俺たちを迎える。


「アリウス・ジルベルト陛下、初めまして。ガルシアの妻、ミランダ・ロレックです。皆さんのお話は、ガルシアに聞いております」


 ミランダは明るい色の髪を髪飾りで纏めた知的な感じの人で。ガルシアと同じように、みんなにも1人ずつ挨拶する。

 船に乗ると、甲板の上に白いクロスが敷かれたテーブルセットが置かれていて。俺たちが椅子に座ると、侍女たちが飲み物を運んでくる。


「それでは、皆さん。改めまして、ようこそ港市国家モルガンへ!」


 ガルシアの合図で乾杯すると。帆船はゆっくりと動き出して、桟橋を離れると加速する。

 風が強くなった訳じゃないのに加速したのは、この船のマストが風を発生させる魔道具になっているからだ。


 船はモルガンの沿岸をぐるりと一周するように進む。景色を眺めながら、料理人が目の前で作った料理を振舞う。

 新鮮な食材で作った料理は、どれも絶品で。飲み物も高級酒からフレッシュジュースまで、それぞれの好みを訊いて出す。まさに至れり尽くせりだな。


「ミランダさん。海から眺めるモルガンの街は本当に素敵で、料理も凄く美味しいわね」


「エリスさんに、そう言って貰えると嬉しいわ。正直に言うと『魔王の代理人』の奥方の皆さんに、どんなことをすれば喜んで貰えるか悩んだのよ」


 ミランダとみんなは、すっかり打ち解けている。女性同士というのもあるだろうけど、ミランダの人柄だろうな。

 ミランダは俺よりもみんなに積極的に話し掛けて。ガルシアとの馴れ初めを赤裸々に話したり、俺とみんなのプライベートを訊いたりと。みんなと女子トークで盛り上がっていた。


 コース料理を堪能した後。最後はフルーツ盛りだくさんのケーキと、チョコレートソースを掛けたアイスのデザート。ミリアとノエルの目が輝く。


 みんながデザートを食べ終えると。


「皆さん。この船には海の中が見える部屋がありまして、そちらにご案内しますよ」


 ガルシアの案内で、船内の階段を下りる。折り返して続く階段を3層分降りると、高さで考えれば、そろそろ船底まで降りた筈だけど。

 そこからさらに、床に嵌め込まれた蓋のようなモノを開けると。中は縦穴になっていて、梯子がついている。俺たちが穴の中の梯子を下りて行くと。


 そこは船底から突き出すように造られた部屋で。4面の壁と床に大きなガラスが張られている。

 ガルシアが魔道具を操作すると、魔法の光によって海中が照らし出された。


「凄い……アリウス君、魚がいっぱいいるよ!」


 ノエルがめずらしく興奮している。


「この世界で、海の中を見ることができるなんて思わなかったわ」


 ミリアも嬉しそうだ。俺と同じ転生者のミリアは、水族館くらい行ったことがあるだろうけど。『恋学(コイガク)』以外の記憶は、ほとんどないみたいだからな。

 他のみんなも初めて見るだろう海中の景色に目を奪われている。


「なあ、ガルシア。ここまでして貰って、おまえの話を聞かないって訳にもいかないだろう。承諾するかどうかは内容次第だけど、用件だけは聞くからさ」


 ガルシアが俺たちと会ったのには、当然理由がある訳で。

 ガルシアは俺たちが観光することを優先して、自分の話は別の機会で構わないと言ったけど。このまま帰ったら、借りを作ることになるからな。


「アリウス、ありがとうございます」


 ガルシアは気さくな笑みを浮かべる。


「決してお世辞ではなく、私は人間と魔族の共存を掲げて『自由の国(フリーランド)』を建国した貴方のことを尊敬しています。こんなことは他の誰にも、成し遂げることはできないでしょう」


「いや、まだ始めたばかりで。俺は何も成し遂げていないだろう」


 ガルシアは真っ直ぐに俺を見る。


「そんなことはありませんよ。魔族は人間の敵だということが常識だったのに、貴方たちは魔族と取引を始めることで、その常識を覆した。

 それでも魔族を敵視する人間は、この世界にまだ沢山いますが。貴方は彼らと正面から渡り合いながら、人間と魔族が共存する正に自由の国を創ったんです」


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