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254話:たまには


 カサンドラとは、色々話をしたけど。最後にエリクとカサンドラの子供に会わせて貰った。


「アリウスおじさん(・・・・)、初めまして。わたしはルミナス。こっちは弟のレオンよ」


 赤い髪と碧眼の3歳の少女は、両腕で1歳の弟を抱えながら自慢げに見せる。


 ルミナスは両親の良いところを受け継いだような美少女で。将来は周りの男子たちが放っておかないだろう。

 弟のレオンは金髪碧眼で、エリクにそっくりだった。


※ ※ ※ ※


「みんなでこうして旅行に行くのって、私たちが学院の3年生の夏休みに、ベリタスのビーチに行ったとき以来よね!」


 白いワンピースを着て、麦わら帽子を被ったミリアが、初めて見る街並みを眺めて、嬉しそうに言う。


 俺はみんなと一緒に、大陸東部の港市国家モルガンに来ている。今週の週末は、みんなで久しぶりに旅行に出かけることにした。


 俺は学院を卒業するまで、最難関(トップクラス)ダンジョン攻略中心の生活をしていたし。卒業してからも、この世界の魔神や神に対抗する力を手に入れるために、世界迷宮(ワールドダンジョン)の攻略を延々と続けていた。


 最近は、ようやく落ち着いたけど。今度は『自由の国(フリーランド)』や勇者の件があって、みんなもそれぞれ忙しかったから。一緒に休みを取って、出掛ける機会がなかった。

 みんなは文句を言わないけど。さすがに申し訳ないと思って、俺の方からみんなを誘ったんだよ。


 週末でも、領主のエリスとソフィアは休みじゃないけど。2人は良い機会だからと、部下に代理を任せるらしい。俺の方はアリサに任せておけば問題ない。


『アリウスはん、うちに働かせて遊びに行くんやからな。土産に期待しとるで』


 アリサに冗談半分で言われたけど、半分は本気だろう。アリサが納得するような土産を用意しないとな。


「ベリタスのビーチの前に、みんなで出掛けたのは、アリウスが私を元婚約者から奪うために、グランブレイド帝国に来てくれたときね」


 エリスは悪戯っぽく笑って、俺の腕に抱きつく。エリスは肩が露出して身体にピッタリとしたサイズのブラウスに、青い花柄でマキシ丈のワンピースを着ている。


「エリス、その通りだけど。なんでその話を、このタイミングでするんだ?」


「あら、私にとってはみんなと仲良くなった大切な思い出だし。アリウスと結婚したいと思ったのは、そのときだから」


 俺が学院の1年生の時。エリスは当時グランブレイド帝国の皇太子ドミニクと婚約して、帝国に留学していたけど。突然結婚したくないと、ロナウディア王国に戻って来た。

 だけどエリスは本気で婚約を破棄するつもりはなくて。結局はロナウディア王国のために、ドミニクとの政略結婚を受け入れるつもりだった。


 俺はエリスと話をして、エリスが本心では結婚したくないことが解って。エリスなら政略結婚以外の手段でも、ロナウディア王国の役に立ていると思ったから。

 エリスの恋人のフリをして、グランブレイド帝国に乗り込んで。ドミニクと決闘して勝つことで、エリスとの婚約を解消させた。


 このとき、学院は夏休みだったから。どうせグランブレイド帝国に行くならと、エリクがみんなを誘って一緒に行ったんだよ。

 エリスの話を聞くと、とても旅行なんて気分じゃないと思うだろうけど。エリス本人も含めて、結構楽しんでいたからな。


 今回、旅行先に港市国家モルガンを選んだ理由は幾つかある。1つはモルガンが政治的に中立で、東方教会やブリスデン聖王国との関わりがあまりないこと。

 もう1つはロナウディア王国から離れていて、ほとんど交流がないから。俺やエリス、ソフィアが顔バレする可能性が低いこと。

 そして1番の理由は、モルガンが観光地としても有名で。みんなが楽しめると思ったからだ。


 今回は2日間の短い旅行だから、旅程を楽しむ時間はないので。俺が『転移魔法(テレポート)』でみんなを運んだ。


 宿はモルガンで一番の高級宿屋(ホテル)のスイートルーム。

 下見と予約のために、俺は一度モルガンに来ているから。今回は『転移魔法』で、宿屋の近くに直接転移できた。


「凄い……アリウス君、素敵なお部屋だね!」


 首元フリルのシャツと、フレアスカートのノエルが思わず声を上げる。

 宿の最上階のほとんどのスペースを占めるスイートルームは、窓から海が一望できて。天上の高い広いリビングに、キングサイズのベッドが2つずつ並ぶベッドルームが4つ。使用人用の部屋もたくさんある。


「モルガンは市場(マーケット)が有名だからな。まず市場に行ってみるか」


 港市国家モルガンは大陸東部の交易の中心地で。大陸各地から様々な品が集まって来る。

 市街には大小様々な市場(マーケット)が開かれていて。買物目当ての観光客が溢れている。


 宿屋から市場までは、馬車で移動する。

 宿屋で手配して貰った馬車は、車内は10人は座れるゆったりしたスペースがあって。魔導具で空調完備。冷えた飲み物も用意されている。


 御者も宿屋が雇った専門家(プロフェッショナル)で。対応は丁寧だけど、必要なこと以外は口を挟まない。

 馬車の窓から外の景色を眺めながら、ゆっくり移動する。


「アリウスはいつも駆け抜けている感じですけど。たまには、ゆっくり景色を見るのも悪くないでしょう?」


 隣りに座ったソフィアが優しく微笑む。ソフィアの服は、光沢のあるVネックのブラウスに、スリットの入ったセミロングのスカート。


「そうだな。ゆっくり景色を眺めるなんて、久しぶりな気がするよ」


「アリウス、本当に久しぶりなの?、ミリアからブリスデン聖王国に行ったときに、2人で抜け駆けしたって聞いているわよ」


 ジェシカが悪戯っぽく笑う。ジェシカはタンクトップの上に薄いカーディガンと、ズボンという格好だ。


 ジェシカが言っているのは、フレッドの情報を探るために、聖都ブリスタに行ったとき。せっかく聖都に来たんだからと、ミリアと観光したことだな。


「あのときはフレッドに会うことが目的だったからな。ついでに観光スポットを少し回っただけだよ」


「そうよ、ジェシカ。あのときは観光したことよりも、私にとってはアリウスと前世の話をしたことの方が重要だわ」


 ミリアも自分が転生者だということを、みんなに話していて。ブリスデン聖王国で、俺と2人で前世の話をしたことも、それとなく伝えてある。


「ミリアがアリウスと同じ転生者なのは、ちょっと羨ましいけど。私だってアリウスを好きな気持ちは負けないから。アリウス、今日はみんなで一緒に楽しむわよ!」


 俺とミリアが転生者だと知っても、みんなの態度は変わらない。ジェシカのように、逆に羨ましいというくらいで。


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