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251話:親友


「アリウス、良く来たね。ここが自分の家だと思って寛いでくれるかな」


 エリクはいつもの爽やかな笑みを浮かべる。


 今日、俺はエリクと会っている。だけど、ここはロナウディア王国の王宮じゃない。

 そしてエリクの隣には、赤い髪と褐色の肌の長身の女性が座っている。


「アリウス、久しいな。陛下ではなく呼び捨てにしろと、エリクに聞いているが。これで構わないのだな?」


「ああ。カサンドラさん、そうしてくれよ。俺もルブナス大公閣下と呼ばなくて良いんだよな?」


 ここは、グランブレイド帝国のルブナス大公の居城。

 彼女はカサンドラ・ルブナス。エリクの妻で、グランブレイド帝国の元第1王女。今は大国グランブレイド帝国で最も力を持つ大貴族ルブナス大公だ。


 いや、そんな言葉じゃ、全然説明が足りないな。カサンドラはある意味で、新たな勇者フレッドを抱えるブリスデン聖王国よりもヤバい存在だ。


 ルブナス大公領に隣接する国が、軍事力で劣るのに、何故か向こうから(・・・・・・・・)戦争を仕掛けて来て。グランブレイド帝国に併合されることが、何度も起きている。

 俺は秘かにカサンドラのことを『世界の火薬庫』と呼んでいる。


「アリウス、何を言っている? 仮にも一国の国王のおまえが、所詮は貴族に過ぎない私に敬称をつけるなど、あり得んだろう」


 カサンドラは豪快に笑う。カサンドラは美人だけど、女性特有の柔らかい雰囲気は一切ない。

 2児の母親の筈だけど、どう見ても百戦錬磨の武人にしか見えないからな。


「なあ、アリウスにエリク、それにカサンドラ姉貴。なんで俺がここに呼ばれたんだよ?」


 エリクとカサンドラから少し離れた場所に座っているのは、バーン・レニング。俺の友だちで、グランブレイド帝国第2皇子だ。

 俺のことを『親友』と呼ぶとか、暑苦しい奴だけど。


「バーン、おまえは『魔王の代理人』であり『自由の国(フリーランド)』国王アリウス・ジルベルトの親友なのだろう?

 ならばアリウスがこの世界の命運を握る存在だということは理解しているな?

 おまえには帝国皇帝を継ぐ権利があるのだから、この場に呼んだのは当然だろう」


 カサンドラの言葉に、バーンが憮然とする。

 いや、俺が世界の命運を握る存在とか。大げさなことを言うなよ。


「俺は確かにアリウスの親友のつもりだ。だが俺がグランブレイド帝国の皇帝になるために、アリウスを利用するつもりはないぜ! そもそも俺は皇帝になる器じゃないからな」


「バーン、おまえは自分を過小評価している。確かにおまえには野心がないが、地位が人を作るという言葉もある。

 おまえなら大国グランブレイド帝国の皇帝が十分務まると、私は思うが」


 なんか勝手に話が進んでいるな。

 バーンは暑苦しい奴だけど、良い奴だし。自分の実力を受け止めて、真面目に努力して来たことは解っている。

 バーンが皇帝になるなんて、イメージが湧かないけど。バーンなら皇帝になっても、帝国のために頑張るだろう。


「カサンドラさん、俺が口を挟む話じゃないのは解っているけど。俺の前で話をしたんだから、意見を言えってことだよな?」


 エリクもカサンドラも何も応えない。つまり肯定したということだ。


「俺は政治の経験なんて、ほとんどないから、偉そうなことを言うつもりはないけど。俺もバーンなら、グランブレイド帝国の皇帝が務まると思うよ。

 だけどバーン自身が皇帝になることを望まないなら、なる必要はないだろう。バーンは第2皇子で、兄がいるんだからな」


 グランブレイド帝国の皇族レニング家には4人の子供がいて。長女のカサンドラの他は、全員男だ。


 長男のドミニクはエリスの元婚約者で、当時は皇太子だったけど。エリスの婚約破棄を迫ったときに、俺に対してやったことを含めて。皇族に相応しくないことを散々したから、廃嫡された。


 それでもバーンの上には、もう1人兄がいて。そいつが今は第1皇子だ。病弱って話だけど、カサンドラが傀儡(・・)として使うには、その方が都合が良い(・・・・・・・・・)筈だ。


「それでもカサンドラさんは、バーンが皇帝になることを望んでいるってことだよな。それってバーンが言ったように、バーンが俺の親友だからなのか?」


 俺はカサンドラを真っ直ぐ見る。カサンドラの真意が知りたいんだよ。


「アリウス。正直に言えば、無論それも理由の1つだ。だが私がおまえを利用するためにバーンを皇帝にしたら、おまえはどうする?」


 カサンドラは俺の視線を正面で受け止めて、問い掛けて来る。


「バーンがそれを望むなら、俺は何もしない。だけどバーンを無理矢理皇帝にするなら、俺はカサンドラさんの敵に回るよ。俺はエリクとは戦いたくないけど、バーンも俺の友だちだからな」


 内政干渉とか言われても、知ったことか。それにバーンが皇帝になれば、バーンが望むことをする分には、問題ないだろう。


「ならば私がアリウスを利用するためにバーンを皇帝にしても、意味がないということだ。私もそれくらいは理解している。私の夫はアリウスのもう1人の親友だからな」


 カサンドラは豪快な笑みを浮かべる。


「だから私がバーンに皇帝になれと言う理由は、姉としてバーンなら皇帝になれると思うからだ。バーンが本当に皇帝になりたくないなら、強制するつもりはない。

 だがバーン、おまえも皇子なのだから。おまえと兄のどちらが皇帝になった方が、グランブレイド帝国のためになるか、良く考えることだ。

 私としてはバーンが皇帝になった上で、アリウスとグランブレイド帝国の協力関係が深まるなら、これ以上のことはない」


「カサンドラ姉貴……」


 バーンはカサンドラを見つめる。


「俺はこれまで自分が皇帝になるなんて、考えたことがなかったが。自分がすべきことをしないと、アリウスの親友だなんて、胸を張って言えないからな。自分がどうすれば良いか、真剣に考えてみるぜ」


 カサンドラは満足そうに頷く。

 カサンドラはバーンに発破を掛けるために、俺の前でこんな話をしたんだな。俺を利用したいことを隠さないところが、カサンドラらしいと思うけど。


 まあ、結局のところ、選ぶのはバーンだからな。バーンが真剣に考えた上なら、どんな答えを出しても、俺は応援するつもりだよ。


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