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250話:選択


「おまえたち3人で、俺たちの街に来る気はないか?」


 バトリオは俺をじっと見る。


「アリウス・ジルベルト。おまえは街を守る『流浪者(ばくれもの)』を探していると言っていたが。守り手として、俺を雇いたいということか?」


「ああ。だけど礼は今受け取ったからな。おまえたちに恩を着せて、無理矢理連れて行くつもりはないよ。

 恩を感じる気持ちは大切だと思うけど。俺が欲しいのは、恩のために働く奴じゃない。人間と魔族の共存という俺たちの考えに共感して、自分の意志と頭で行動する仲間だからな」


 金で雇った冒険者や傭兵たち全員が、俺たちの考えに共感しているとは思わないけど。少なくとも考えを理解して、自分が何をすれば良いかは解っている。


「俺はバトリオたちなら、俺たちの『自由の国(フリーランド)』でも、上手くやれると思ったんだよ」


 バトリオは信用できる。嘘をつくような性格じゃないし。トリスタのことでは感情的になったけど。先入観じゃなくて、自分頭で考えて行動する奴だ。


 イメルダの何が大切なのかという気持ちも共感できる。それに人間に対する先入観は、バトリオ以上にないみたいだからな。

 

 トリスタは、初めは俺が人間だから警戒していたけど。俺のためにバトリオとイメルダを説得してくれた。自分が怒られることは解っていた筈なのに。


「『自由の国』か……良い名前だな。アリウス・ジルベルト。おまえは人間と魔族が共存できると、本気で思っているのか?」


「ああ、勿論だよ。『自由の国』では、魔族と人間が実際に共存を始めているし。そもそも、種族が違うだけで争うなんておかしいだろう。

 過去の争いが原因と言うなら、魔族同士や人間同士だって何度も争いをしている。俺は魔族ってだけで、バトリオたちを敵だとは思わないよ」


 イメルダとトリスタも真剣な顔で、俺の話を聞いている。


「アリウス・ジルベルト。おまえはトリスタの命の恩人だ。おまえは恩のために働く者は要らないと言ったが。俺はおまえに恩を感じているが、おまえの考えを理解している訳ではない」


「今はそうでも、おまえたちなら理解できると思うんだよ。魔族と人間が共存することに少しでも興味があるなら、俺と一緒に来ないか?

 おまえたちが『自由の国』に来て、やっぱり考えが合わないと思ったら。俺が責任を持って、ここまで送り届けるからさ」


 バトリオがイメルダとトリスタを見ると、2人が頷く。


「ならば、アリウス・ジルベルト。おまえの力を見せてくれないか? 家族の命を預けのだ。おまえにそれだけの力があることを知る必要がある」


「ああ、構わないよ」


 バトリオは肩に担いでいた槍を構える。

 磨き上げられた刃と、赤い金属の柄の武骨な槍だ。


「おまえが『魔王の代理人』ならば、俺の攻撃など通用しないだろう」


 バトリオが魔力を刃に収束させる。集束した魔力が視覚化されて白い光を放つ。


「バトリオ、俺は武器を使わないけど。本気で掛かって来いよ」


 バトリオを見くびっている訳じゃない。バトリオが知りたいのは俺の力だからな。この方が解りやすいと思ったんだよ。

 ちなみに今の俺は、シャツ1枚にズボンという普段のラフな格好だ。


「では……行かせて貰う!」


 バトリオは加速して、俺の肩を狙って槍を突き出す。バトリオの性格だと、息子の命の恩人の急所は狙わないか。


 俺は躱すことも、魔法を発動することもしないで、真面(まとも)に攻撃を受ける。


「な……なんだと……これが『魔王の代理人』の実力なのか?」


 魔力の光を放つバトリオの槍は確実に命中した。だけど俺は服が破れた(・・・・・)だけで無傷。俺の肩に当たった槍は、そこでピタリと止まって動かない。


 服が破れたのは、俺が無意識に纏っている魔力を止めたからだ。つまり俺はステータス(DEF)だけで、バトリオの槍を受け止めたことになる。

 避けられる攻撃を避けないのは、俺の主義じゃないけどな。


「魔法の力はさっきの『絶対防壁アブソリュートシールド』で証明したと思うけど。必要なら攻撃の方も見せようか?」


「いや、十分だ。魔力も使わずに俺の攻撃が効かないとは……アリウス・ジルベルト。おまえがどれほど強いか、良く解った。いや……本当の力は、まだ隠していると言うことだな」


 『索敵(サーチ)』を使えば、俺が魔力を纏っていないことは解るからな。

 バトリオには俺がしたことの意味が解ったんだろう。


 『鑑定(アプレイズ)』したから解っているど。バトリオは384レベルで、ステータスのバランスも良い。

 『収納庫(ストレージ)』も使えるし。戦闘中心で魔法やスキルを鍛えている。


 イメルダは335レベルで、トリスタは24レベル。トリスタも子供の割にはレベルが高いけど。魔族の領域で生きるには、両親に守られないと厳しいな。


「バトリオ。おまえたち(・・・・・)の答えを聞かせてくれよ」


 バトリオは家族が全てだと言っていたからな。これは3人で決めることだろう。


 バトリオはイメルダとトリスタと頷き合うと。


「アリウス・ジルベルト。おまえの提案を受けよう。俺たちを『自由の国』に連れて行ってくれ」


「バトリオ、イメルダ、トリスタ。俺はおまえたちを歓迎するよ。それとアリウス・ジルベルトって、いちいちフルネームで呼ぶなよ。これからはアリウスだけで良いからな」


「解った。アリウス、これからよろしく頼む」


 こうしてバトリオたち3人の『流浪者』が、『自由の国』の新たな住人になった。


 バトリオたちから礼として貰った魔物の素材は、さすがに返す訳にもいかないから。ありがたく受け取って『自由の国』のために使おうと思う。


 バトリオたちには一応住処(すみか)ががあって、家財道具をそこに置いていたから。それを回収してから『自由の国』に戻ることにした。


 バトリオたちは空を飛んで、移動すると思っていたみたいで。俺が全員纏めて『転移魔法(テレポート)』を使ったら、驚かれたけど。


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