218話:SS級冒険者ヒュウガ
※三人称視点※
「みんなも、騒ぎを起こして悪かったな。今日は奢るから、好きに飲んでくれ」
SS級冒険者ヒュウガの言葉に、周りの冒険者たちが歓声を上げる。
「ヒュウガ、出て来るタイミングが悪いぜ。初めからロギンを止めるか、私がボコボコにするまで待つか。どっちかだろう?」
ツインテール女子のヘルガが気安く話し掛ける。ヒュウガとヘルガは年も近いし。2人とも口より手が先に出るタイプだから、気が合うようだ。
「ヘルガ、悪いな。俺が目を離した隙に、ロギンの奴が喧嘩を売っていたからよ。思わずシメちまった。次はおまえに譲るからな」
「ヒュウガ、絶対だぜ。忘れるなよ」
ヘルガはカウンターにヒュウガの分のグラスを取りに行くと。自分のボトルから透明な蒸留酒を並々と注ぐ。
「それにしてもよ、ヒュウガ。みんなに奢るなんて、随分と太っ腹じゃねえか。今回の依頼は上手く行ったみたいだな」
「まあな。臨時収入も入ったし。仕留めたドラゴンが、塒にたんまり財宝を貯め込んでいたんだよ」
ヒュウガたちが冒険者ギルドから受けた依頼は、とある国の鉱山に住み着いたドラゴンの群れの討伐だ。
SS級冒険者のヒュウガにとっては、それほど難しい依頼じゃないが。1ヶ月も遠征に掛かったのには理由がある。
「そりゃ、豪勢だな。だったら遠慮なく奢って貰うぜ。だけどヒュウガ、てめえも物好きだよな。ロギンみたいな馬鹿どもの面倒を見てやるなんてよ」
「まあ、誰かが馬鹿に教えてやる必要があるし。俺は馬鹿どもと群れるの好きなんだよ」
ヒュウガはロギンのような素行の悪い冒険者たちを集めて、冒険者チームを作っている。
パーティーと呼ぶには、ヒュウガとレベルが違い過ぎるし。クランと呼ぶほどの大規模じゃない。だから冒険者チームと呼ぶのが適当だろう。
暴力でしか物事を解決できない荒くれ者たちに、力ずくで道理を教えて。曲がりなりにも真面に生きる道に進ませる。
ヒュウガは行く先々でロギンのような奴を捕まえては、冒険者チームに入れて。今では10人近い冒険者を従えている。
今回の遠征に時間が掛かったのも、チームの冒険者たちに活躍の場を与えるためで。ヒュウガが手を出すのは、本当にピンチになったときか。実力を示す必要があるときだけだ。
「ヒュウガ、おまえは若いのに実力もあるし。ホント、見上げた奴だぜ。次は俺が奢るからな」
ゲイルがグラスを掲げて、素直に賞賛する。
「だがな、オッサンの忠告として聞いてくれ。全部力ずく解決するおまえのやり方には、危うさを感じるんだよ」
「まあ、ゲイルさんから見たらそうだろうな。俺はヤンチャをやって、馬鹿どもと暴れるのが好きなんだよ。あいつらは馬鹿だけど、救いようがないほどじゃない。
今日はロギンが散々迷惑を掛けたが、俺が徹底的に解らせるから。見捨てないでやってくれよ」
だから、そういうところが――ゲイルは言い掛けて止める。ヒュウガは自分のやり方の危うさに気づくには強過ぎる。
挫折を知らない若い奴に、自分のやり方が間違っていると言っても、聞かないのは仕方ない。だったら何か起きたとき、フォローしてやろうとゲイルは思う。
「なあ、ヒュウガ。話は変わるけどよ。おまえ、SSS級冒険者のアリウスさんに会いたいって散々言ってたよな」
ヘルガが2本目の蒸留酒のボトルを空にして、ニヤリと笑う。
「ああ、そうだが? そもそも俺がカーネルの街に来たのは、アリウスさんがここにいるって聞いたからだ。
俺の師匠から、アリウスさんの話は散々聞いている。史上最年少でSSS級冒険者になったアリウスさんは俺の憧れだからな」
だがアリウスは世界迷宮の攻略を始めてから、カーネルの街に来なくなって。入れ違いのような形になったから、ヒュウガはアリウスに会ったことがない。
「だったら残念だったな。おまえがいないな間に、アリウスさんはカーネルの街に2回来ているぜ。しかも2回目は昨日だ」
ヘルガは意地の悪い顔をする。
「おい、マジかよ……ヘルガ、なんで『伝言』で教えてくれなかったんだ?」
ヒュウガはあからさまに落ち込む。
「ヘルガさん。その言い方は酷いと思うよ」
「そうよ、ヘルガさん。意地悪が過ぎるわ」
文句を言ったのは、シリウスとアリシアだ。
「ヒュウガさん、大丈夫ですよ。アリウス兄さんは、これから来ることになっていますから」
「そうよ、ヒュウガさん。さっきアリウスお兄ちゃんから『伝言』が来たもの」
2人のフォローに、ヒュウガは戸惑う。
「兄さんとか、お兄ちゃんって……そう言えば、アリウスさんは銀髪に氷青色の瞳って話だよな……」
目の前にいるシリウスとアリシアの髪と瞳も同じ色だ。
「ヒュウガ、シリウスとアリシアはアリウスの弟と妹だ。これからアリウスが来るのも本当だからな」
ゲイルにもアリウスから『これから行く』という『伝言』が届いている。
「え……マジかよ……」
太々しいくらい、堂々とした態度だったSS級冒険者のヒュウガが――アリウスが来ると知った瞬間。
まるで少年のように、キラキラと目を輝かせていた。