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216話:地雷


「シリウスとアリシアも『ギュネイの大迷宮』に挑み始めたのか。まあ、2人が『ギュネイの大迷宮』を攻略するにしても、しばらく先の話だろうがな」


「グレイ、気が早過ぎるわよ。あの2人は私たち(・・・)とは違うんだから」


 1,000体以上の魔物の群れと階層ボスを殲滅して、一息ついているところだ。

 今日も俺はグレイとセレナと一緒に、世界迷宮(ワールドダンジョン)に来ている。

 世界迷宮に挑み始めてから、もう2年以上経つけど。まだ全部の階層を攻略できていないんだよな。


 まあ、俺はソロで、グレイとセレナも2人だけで、攻略済みの階層に再び挑んだりしているし。この世界の魔神と神に対抗できる力を手に入れてからは、四六時中攻略している訳じゃない。

 それでも150階層を超えたのに、まだ先があるからな。さらに強い魔物がいる階層があることは、戦闘狂の俺たちにとっては悪い話じゃないけど。


「なあ、アリウス。シリウスとアリシアは、誰かとパーティーを組んでいるのか? まあ、あの2人なら2人だけでも、そこそこの階層までは攻略できるだろうが」


「とりあえず今日は、ヘルガに同行して貰っているよ。ゲイルのパーティーは今日休みみたいだからな。ヘルガが暇を持て余してるって言うから、頼むことにしたんだ」


 ツインテール女子のヘルガも、すでに200レベル代後半だからな。ゲイルたちに鍛えられているし、ヘルガが一緒なら何か不測の事態が起きても問題ないだろう。

 まあ、シリウスとアリシアにも冒険者の基本は教えてあるし。2人は無茶をするような性格じゃないからな。


「だけど毎日他の冒険者に同行して貰う訳にも行かないし。一緒にパーティーを組む奴が見つかるのが一番だけど。しばらくは2人だけで『ギュネイの大迷宮』に挑むことになるな」


 俺が同行しないのは、自分の鍛錬のこともあるけど。俺が一緒だと、どうしても2人に甘くなると思うからだ。

 みんなと一緒のときも、俺はみんなの安全を第一に考えるからな。シリウスとアリシアの成長の機会を奪いたくはない。


「シリウスとアリシアなら、2人だけでも問題ないわよ。パーティーを組むにしても、実力だけじゃなくて。性格的にも合う相手を見つけないといけないから、長い目で見るしかないわね」


 俺やグレイとセレナなら、他の誰かとパーティーを組むよりも、自分の限界に挑戦することを優先するけど。シリウスとアリシアには、そんな真似をして欲しくないからな。

 一緒にパーティーを組む奴が、早く見つかると良いけど。仲間を探すのを俺が手伝うよりも、2人の自主性に任せようと思う。


※ ※ ※ ※


※三人称視点※


 アリシアが放つ第7界層魔法『電光鎖縛(チェインライトニング)』が、ドラゴンゾンビの群れを焼き尽くす。

 ほとんど同時に、シリウスが加速して飛び込んで。奥に控えていた金色の骸骨――リッチの身体を長剣と短剣の2本で十字に切り裂いた。


 魔物の群れがエフェクトともに消滅して、魔石だけが残る。


「まあ、とりあえず問題はねえな。シリウスもアリシアも隙がねえし、判断も遅くねえ。このまま20階層までは余裕じゃねえか」


 アリウスからは、同行だけしてくれと言われているが。ヘルガは2人に何かあれば、直ぐに対処できるように準備していた。

 だけどダンジョン攻略に関しては、シリウスとアリシアは初心者に毛が生えた程度だと思っていたが。ここまでは、ほとんど完璧な動きをしている。


「だけど私が得意な『電光鎖縛』を発動したけど。相手がアンデットモンスターだから、本当は光属性魔法を使った方が良かったわよね」


「僕も短剣は防御に使うべきだったよ。リッチだからって、近接戦闘ができない訳じゃないし。長剣だけでも仕留められたと思うから」


 シリウスとアリシアは戦闘が終わる度に、自主的に反省会をしている。それなりに強い魔物を無傷で倒したんだから、普通なら調子に乗りそうなモノだが。2人は全然そんな感じじゃない。


「なあ、『ギュネイの大迷宮』に出現する魔物にもそれなりに詳しいみたいだけどよ。事前に調べて来たのか?」


「うん。自分たちが挑むダンジョンについて調べるのは当然だよ。知識は絶対に無駄にならないからね」


「私たちが初心者だって自覚はあるわ。準備不足で失敗したら、アリウスお兄ちゃんに申し訳ないもの」


「おまえらってホント真面目だよな。こんな言い方をすると嫌かも知れねえけどよ。さすがはアリウスさんの弟と妹だぜ」


「ううん、そんなことはないよ。だけど只兄弟ってだけでアリウス兄さんと比べられるのは、おこがましいと思うけど」


「そうよ。私たちじゃ、アリウスお兄ちゃんの足元にも及ばないから」


 偉大過ぎる兄がいると、比べられて捻くれそうなものだが。シリウスとアリシアはアリウスとの差を素直に受止めて、自分たちなりに成長しようと頑張っている。


「全く、おまえらといると調子が狂うぜ。まあ、今の気持ちを忘れなければ、おまえらは強くなるぜ。このヘルガ姐さんが保証してやるよ」


 シリウスとアリシアは、ヘルガが同じ14歳だった頃よりも明らかに強い。だけど経験不足なことは否めないから、そこは面倒を見てやろうと思う。

 自分でも、らしくないと思いながら。ヘルガはシリウスとアリシアのことが気に入っていた。自分とは違う良い子ちゃんだけど、戦うことに関して真面目な奴は嫌いじゃない。


「なあ、アリシア。その『アリウスお兄ちゃん』って言い方は、止めねえのか? そんな言い方をしていると、いつまでもガキだって思われるぜ」


「別に構わないわ。世界で一番強くて格好良いアリウスお兄ちゃんを、アリウスお兄ちゃんって呼べるのは、妹の私だけの特権だもの。私は何歳になってもアリウスお兄ちゃんって呼ぶわ。文句を言う奴は、実力で黙らせられるように強くなるわ」


「アリシア、おまえ……所謂(いわゆる)ブラコンって奴か?」


「ええ、当然よ」


 アリシアは成長途中の胸を張る。


「アリウスお兄ちゃんは、エリス義姉さんと結婚しちゃったし。ジェシカさんやミリアさんとか、他にもアリウスお兄ちゃんが大切に思っている人がいるけど。アリウスお兄ちゃんの妹は私だけよ。私は一生、アリウスお兄ちゃんに甘えるんだから」


 普段は子ども扱いしないでと、アリウスに言っているアリシアだが。それはアリウスにいつまでも子供だと呆れられないためで。本心はいつでもいつまでも、アリウスに甘えたいと思っていた。


「おい、シリウス。アリシアをどうにかしろよ」


「いや、僕に言われても……それに僕だって、アリウス兄さんのことは尊敬しているから。アリシアの気持ちは良く解るよ」


 シリウスがアリウスを兄さんと呼ぶようになったのも、アリシアと同じような理由で。

 自分は男だからと、格好つけたい子供心もあるが。本音を言えば、アリシアのようにアリウスに甘えたい気持ちもある。


「シリウス、おまえもかよ……まあ、相手がアリウスさんだからな。気持ちは解らなくもねえが」


 ヘルガは自分がアリウスに、女として相手にされていないことは解っているし。

 アリウスの周りにいる女子のレベルが高過ぎるから、自分がその中に割って入ろうなどとは考えていなかったが。


(まあ、最高の優良物件ってことは間違いねえし……私にもワンチャンあるかも知れねえな)


 そんなことを考えていると――アリシアとシリウスの冷ややかな視線を感じる。


「ヘルガさん……まさか変なことは考えていないわよね?」


「そうだよ、ヘルガさん。軽い気持ちでアリウス兄さんに、迫るのは止めた方が良いと思うよ」


 ニッコリ笑っているけど、目だけは全然笑っていない。

 2人から今までに感じたことがないような、物凄い圧を感じる。


「な、何を馬鹿なことを言ってんだよ。私はおまえたちとは違うからな」


 とんでもない地雷を踏もうとしたことに気づいて。ヘルガは自分の邪な気持ちを、誤魔化すことにした。


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