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211話:諜報部


「良かった。アリウス、まだいたのね」


 俺が諜報部の若手たちと手合わせをしていると。ミリアが修練場に入って来る。

 ミリアは学院を卒業した後、王国諜報部に入った。だけど練習着を着ていないから、鍛錬しに来た訳じゃないみたいだな。


「「「ミリア先輩、お疲れ様です!」」」


 諜報部の若手たちが姿勢を正して、ミリアに挨拶する。ミリアに一目置いているって感じだ。


 ミリアは学院の生徒だった頃から、エリクの仕事を手伝っていて。諜報部にも顔を出していた。

 元々『恋学(コイガク)』の主人公らしくスペックが高いし、真面目に鍛錬を続けて来たから。ミリアはすでに200レベルを超えていて、諜報部でも主力クラスだ。


「ミリア、任務はもう終わったのか?」


「ええ。せっかくアリウスが諜報部に来てくれたのに、タイミングが悪いわよ」


 諜報部の任務は情報収集と、ロナウディア王国と王家に敵対する者を陰で殲滅することだ。

 諜報部のメンバー全員が諜報活動と戦闘ができるエキスパートという訳じゃなくて、普通の事務方もいるけど。事務方の人間も最低限は戦えるように訓練を受けている。


 ミリアの場合は諜報員と事務方の両方の仕事ができる才能を、エリクが見抜いて。諜報部に誘ったんだよな。


「貴方たちもアリウスに手合わせして貰って、嬉しいのは解るけど。勘違いしたら駄目だからね」


 ミリアは真面目な顔で諜報部の若手たちに言う。


「相手と自分の実力の差を見極めることが、大切なのは解るわよね? だから今日の手合わせ手で、アリウスの強さの一端でも解った気になったら駄目よ。アリウスがその気になれば、冗談抜きにロナウディア王国の全戦力を1人で滅ぼせるわ」


 ミリアの言葉を諜報部の若手たちは、殊勝な感じで聞いている。だけど俺がロナウディア王国を滅ぼせるという部分は、比喩だと思っているみたいで。危機感は感じない。


「ミリア。アリウスがロナウディア王国を1人で滅ぼせるって言い方は、ちょっと違うと思うよ」


 エリクがいつもの爽やかな笑みを浮かべる。

 エリクはロナウディア王国の王太子だから。自分たちの国を滅ぼすなんて言い方をするなと文句を言うと、諜報部の若手たちは思ったみたいで。ミリアが咎められるんじゃないかと、冷や冷やしていると。


「アリウスが本気になったらロナウディア王国どころか、1人で世界を滅ぼすこともできると思うよ」


「エリク殿下、私もそう思いますけど。さすがそこで言うと誰も本気にしないと思って、言い方を控えたんですよ」


 世界を滅ぼすなんてことを当然のように話している2人に、諜報部の若手たちが唖然とする。


「我々の実力では、アリウス閣下の力は余りにも強大で測ることはできないが。エリク殿下とミリアが言ったことは、決して大袈裟ではない」


 灰色の髪をオールバックにした30歳前後の男が言う。王国諜報部副部長(・・・)レオン・グラハム。

 俺の父親のダリウスの腹心の部下で。俺たちが学院の1年生のときに、学院のダンジョンで起きた襲撃事件以来、エリクの配下に置かれている。


 諜報部№2の言葉を、若手たちは重く受け止めているけど。


「おまえらさ、若手の気持ちを引き締めるために言っているのは解るけど。本人の目の前で、そういう話をするのは止めてくれよ」


 気恥ずかしいと言うか、反応に困るだろう。こういうのにも慣れたけどな。


「それに俺1人で世界を滅ぼせるってのは、さすがに言い過ぎだろう。俺以外にも魔王アラニスや、グレイやセレナがいるんだからな」


 もし今俺とアラニスが戦ったら、どっちが勝つか正直解らない。

 俺はこの世界の魔神や神に対抗する力を手に入れるために強くなったけど、強くなったのはアラニスも同じだからな。


 まあ、俺は別にアラニスに勝ちたいとか、そういうことは思わないけど。アラニスは俺の敵じゃないからな。


 俺は当たり前のことを言ったつもりだけど。


「それって……勇者パーティーなんて歯牙にも掛けずに、さらには生ける伝説と言われていたSSS級冒険者序列1位シン・リヒテンベルガーを瞬殺した魔王アラニスや……」


「現役最強のSSS級冒険者デュオと呼ばれるグレイ・シュタットとセレナ・シュタットくらいしか、アリウスさんは眼中にないってことだよな……」


 こいつらは諜報部だから、色々と情報には詳しいみたいだけど。話が変な方向に行っているな。

 まあ、これ以上話に付き合うつもりはないけど。


 今日俺は、諜報部の訓練に参加する双子の弟と妹のシリウスとアリシアの様子を見に来ただけだからな。


「なあ、エリク。シリウスとアリシアの訓練が終わったようだから、そろそろ俺は帰るつもりだけど。もし時間があるなら、飲み物でも飲みに行かないか?」


「アリウスの誘いを僕が断る筈がないだろう。まあ、ミリアやシリウスとアリシアも一緒なんだろうけど」


 エリクは完璧に空気を読んでいる。


「まあ、エリクと密談するつもりじゃないからな。ミリアも来るだろう?」


「ええ、当然よ」


 ミリアが自然な感じで俺の腕に抱きついて来る。周りの目なんか全然気にしないで。

 いや、俺が気にするなら、ミリアはこんなことは決してしないけど。俺も同意の上だからな。


 今の俺とエリス以外のみんなとの関係は、陳腐な言い方になるけど、友だち以上恋人未満って感じだ。親密だけど一線は越えない。

 なんとなく、そういう関係という訳じゃなくて。お互いに同意している。みんなのことは大切だけど、俺にとってエリスだけが特別なのは変わらないからな。


「シリウス、アリシア。おまえたちも一緒にスイーツでも食べに行くか?」


「うん。アリウス兄さん、勿論行くよ!」


「アリウスお兄ちゃん、ありがとう! 私、フルーパフェが食べたいわ!」


 こういうときは、シリウスとアリシアもまだ子供って感じだよな。


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