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210話:ライバル


 双子の弟と妹のシリウスとアリシアは、冒険者になりたいって言うよりも。貴族社会の外で、経験を積みたいようだな。

 2人とも、しっかりしているし。ホント、良くできた弟と妹だと思うよ。


 シリウスとアリシアのために俺ができることは、まずは2人の自主性に任せて、見守ることだな。

 過保護にすれば成長の機会を奪うことになる。


 シリウスとアリシアも、すでに冒険資格は取得しているけど。冒険者として本格的に活動している訳じゃなくて。

 普段は授業や自主練で、学院のダンジョンに挑んでいる程度で。たまに週末、中難易度(ミドルクラス)ダンジョンに挑むくらいだ。


 それでもシリウスとアリシアがすでに150レベルを超えている理由は、毎日どうすれば強くなれるか考えながら、鍛練を続けて来たことと。手合わせする強い相手に事欠かないからだろう。


「今日はアリウス兄さんが一緒だから……なんか緊張するよ」


「そうね。アリウスお兄ちゃんと一緒だと、保護者同伴って感じで。ちょっと恥ずかしいわ」


 俺たちが向かったのは、王国諜報部の地下にある修練場だ。


「アリウス閣下、お待ちしておりました。シリウスとアリシアは、さっさと練習着に着替えて来いよ」


 200レベル超えが当たり前にいる諜報部の連中が、シリウスとアリシアの手合わせの相手だ。


 父親のダリウスと母親のレイアは、シリウスとアリシアのために元A級冒険者を家庭教師として雇っている。

 家庭教師のアルトマンは結構優秀な冒険者で。おかげでシリウスとアリシアは学院に入学する前の時点で、B級冒険者レベルを超えていた。


 だけど2人が学院の1年生の途中で、アルトマンの方から成長した2人の相手は、自分では体力的に厳しいと言って来たらしい。


 そこで諜報部の連中に、シリウスとアリシアの手合わせの相手を頼むことになったんだけど。

 王国宰相で諜報部を指揮下に置く父親のダリウスが公私混同している訳じゃなくて。

 エリクがシリウスとアリシアを諜報部の訓練に参加させたらどうかって、言って来たんだよ。


「僕は今でも次の王国宰相はアリウス以外考えていないけど。シリウスとアリシアが優秀なのは間違いないからね。

 諜報部の訓練は毎日行っているから、特に手間が掛かる訳じゃないし。王国としても、優秀な人材を育てることはメリットになるよ」


 エリク自身も学院の生徒だったときに、1人だけレベルが高かったのは、諜報部の連中と鍛練していたからだ。


 シリウスとアリシアは、練習着に着替えて来ると。慣れた感じでストレッチをしてから、早速諜報部の連中の手合せに加わる。


 諜報部の主力クラスが相手だと、さすがに今のシリウスとアリシアじゃ勝てないけど。自分にできることは全部試して。相手から貪欲に吸収しているって感じだ。


「シリウスとアリシアも学院を卒業したら、まずは冒険者になるそうだね」


 2人の戦いぶりを見ていると、エリクが隣にやって来る。エリクが諜報部にいるのは、今日俺がシリウスとアリシアと行くことを伝えていたからだ。


 それにしても、エリクはさすがに情報が早いな。まあ、俺の父親のダリウスか母親のレイアから聞いたんだろうけど。


「シリウスとアリシアは貴族社会の外で経験を積みたいみたいだからな。冒険者になるのは悪い選択じゃないと思うよ」


 俺も冒険者になってから、ダンジョンの攻略ばかりをしていた訳じゃくて。本当に色々な経験をしたからな。


「エリク殿下、アリウス閣下、失礼します!」


 修練を終えた諜報部の若手たちが、俺の周りに集まって来た。

 憧れのような視線を向けて来るけど。これも有名税みたいなモノだな。


「アリウス閣下。是非、私たちと手合せをして頂けませんか!」


 俺が学院に入学した頃は、諜報部の連中はみんな年上だったけど。俺ももう直ぐ21歳だからな。若手の中には、俺より年下も結構いる。


「閣下なんて呼び方を止めたら、手合わせくらいするけど。俺は堅苦しいのが嫌いなんだよ。別に呼び捨てで構わないからな」


 若手たちは困っている。中には何故かビビっている奴までいる。

 俺は『魔王の代理人』として知られているし。

 これまで話題にする機会がなかったけど。俺の身長は学院に入学してからも、順調に伸びて。今の身長は198cmだからな。見た目に威圧感があるんだろう。


「さすがにアリウスをいきなり呼び捨てにするのは無理だよね。君たちは『アリウスさん』と呼べば良いんじゃないかな。アリウスは本当に気にしないから、もっと普通に話した方が良いよ」


 エリクのフォローに、若手たちが『アリウスさん、お願いします』と頭を下げる。

 まあ、約束だからな。こいつらと手合わせをするか。


「遠慮しないで、最初から本気で来いよ」


「はい、アリウスさん!」


 最初の相手は短髪男子で、年齢は俺より少し下くらいか。

 開始と同時に、短髪男子は全力で掛かって来る。

 俺はそいつの間合いに入るのを待ってから、一瞬で意識を奪う。


「「「え……」」」


 かなり速度を抑えたつもりだけど。諜報部の若手の連中には、俺の動きが見えなかったみたいだな。


「動きが速い相手を捉えるのは、慣れの問題もあるけど。視覚だけに頼らないで、魔力を感知するんだよ」


 『索敵(サーチ)』を発動すれば、効果範囲内の魔力を感知することができるからな。少なくとも戦闘中は『索敵』の常時発動は基本だ。


「あの……私は『索敵』を発動していましたけど。アリウスさんの動きが全然感知できなかったんですが……」


「それは『索敵』の精度の問題だよ。もっと精度を上げないと、実践じゃ使い物にならないからな」


 諜報部だと言っても、若手の連中はまだ主力じゃないから。色々と甘いところがあるみたいだな。


 ちょうどシリウスとアリシアが、諜報部の奴との立ち会いを終えて戻って来た。

 2人の位置からでも、俺の立ち会いは見えていた筈だ。


「なあ、シリウス、アリシア。おまえたちには俺の動きが見えていたか?」


「うん。アリウス兄さんがロクスさんに手刀を入れた動きのことだよね」


「ロクスさんの後ろに回って1撃入れてから、直ぐに元の位置に戻っていたわ」


 シリウスとアリシアの言葉に諜報部の若手たちが騒めく。

 まあ、2人はキチンと鍛練をしているからな。あれくらいの動きは追えて当然だろう。


「別にシリウスとアリシアが特別って訳じゃなくて。どうすれば自分が強くなるか考えながら鍛練を続ければ、あれくらい見えるようになるよ」


「「「はい!」」」


 若手たちが真剣な顔で応える。

 真面目に鍛練に取り組む奴は伸びるからな。ここにいる若手たちの中から、シリウスとアリシアのライバルになる奴が出て来そうだな。


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