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19話:ミリアとソフィアのイベント


 図書室でノエルと話していると感じた視線。視線の先には白い髪と紫紺の瞳の女子がいた。

 ああ、そう言えば『恋学(コイガク)』の主人公ミリア・ロンドとアリウスが出会うイベントが発生するタイミングだったな。

 だけど俺は乙女ゲーの世界なんて興味がないからな。素直にイベントに従うつもりはない。


「なあ、おまえ。さっきから、なんで俺のことを見てるんだよ?」


 わざと突き放すように言う。恋愛脳のミリアと絡むと面倒だからな。


「あの……ごめんなさい!」


 いきなり逃げ出すミリア。反応に違和感がある。ミリアはツンデレだから、ここは怒るところだろう。


「おい、ちょっと待てよ」


 俺は興味が沸いてミリアを追い掛ける。追いつくのは簡単だけど、続けざまに次のイベントが起きることが解っているからな。距離を置いて様子を伺うことにする。


「あ、ごめんなさい……」


「ちょっと待ちなさいよ、そこの平民!」


 ミリアと貴族女子の肩がぶつかってイベントが始まる。


「イザベラ、ソフィア様が平民には慈悲の心を持てと言っていましたわよね?」


「ええ、ローラ。ですがソフィア様はお優しいだけで、(わたしく)たちに強制した訳ではありませんわ!」


「そうですわね……ソフィア様が私たちよりも平民を優先する筈があり得ませんわ」


 このイベントではミリアとソフィアが対立して、そこにエリクが仲裁に入る筈だ。だけど何故かソフィアの姿はなく、取り巻きたちがミリアを中庭へと連行していく。


 ゲームと違ってソフィアは関与しないってことか……どういうことだ?

 まあ、本人に訊くのが手っ取り早いか。俺はソフィアのクラスである1年B組に向かった。


「アリウスじゃないか。俺に会いに来たのか」


「いや。バーン、おまえじゃない。俺はソフィアに用があるんだよ」


 バーンを素通りして、俺はソフィアの席に向かう。食堂でのことが噂になってるからだろう。恋愛脳の女子たちが俺とソフィアに注目している。


「アリウス様……どういうつもりですか?」


「なあ、ソフィア。そろそろ様付けは止めろよ。おまえも呼び捨てで構わないからな」


 呼び捨てにする貴方が非常識なだけですと、何故か顔が赤いソフィアが非難の視線を向ける。


「そんなことよりさ。おまえの取り巻きたちが平民の生徒を連行して中庭に行ったんだけど、何か知っているか?」


「え……何ですって!」


 ソフィアが慌てて駆け出す。俺もソフィアを追い掛けてB組の教室を出て行こうとすると。


「なあ、アリウス。ちょっと冷たくないか? 俺とおまえは親友だよな」


 おい、いつから親友になったんだよ? バーンの発言に思わず苦笑する。


「だったら、おまえも一緒に来るか?」


 これでもバーンは帝国第3皇子だ。何かの役に立つかも知れないからな。


「ああ、勿論だ。ソフィア嬢が慌てて出て行ったということは、何か事件が起きているんだろう?」


 こいつ、意外と勘が良いな。


「まあ、そんなところだ。だけど勝手に手出しはするなよ」


「ああ。任せてくれ、親友!」


 バーンが白い歯を見せて笑う。こいつは良い奴だけど暑苦しいな。


 俺たちが中庭に到着すると、貴族女子たちがミリアを取り囲んでいた。慌てて駆けつけたソフィアがそこに割って入る。


「貴方たちは、何をしているのですか!」


「「「ソフィア様……」」」


 取り巻きたちはバツの悪い顔をする。だけどノエルを真っ先に攻撃した2人だけは素知らぬ顔をしていた。


「ソフィア様、私たちは平民を教育してるんですわ」


「そうですわ。ソフィア様もそれは解ると仰っていましたわ」


「そうですが……」


 公爵令嬢のソフィアには、派閥に所属する取り巻きたちを守る義務がある。たとえ取り巻きたち方に非があったとしても。

 ソフィアにとってはここが正念場だな。『恋学』の世界になんて興味ないけど、ソフィアをけしかけたのは俺だからな。最後まで見届ける責任がある。


「そういうことですので……続きをしますわ。そこの平民、貴方に自分の立場を解らせてあげますわ。さあ、貴族である私にぶつかったことを身を以て謝罪しなさい」


 貴族女子たちがミリアを無理矢理押さえつける。


「止めてください! ぶつかったのは私も悪いけど、こんな一方的なのってないわ!」


 ミリアは抵抗するけど所詮は多勢に無勢だ。地面に組み伏せられてしまう。土で汚れるミリアの顔。イザベラは嘲笑うとミリアの頭を踏みつけようとした。


「イザベラ、止めなさい(・・・・・)!」


 ソフィアの強い口調。命令口調を聞くのは初めだな。


「ソフィア様……まさか、ソフィア様は平民の味方をしますの? そんな筈はありませんわね」


「そうですわ。お優しいソフィア様が私たちに命令するなんてあり得ませんわ」


 イザベラとローラはタカを括っているけど。


「イザベラ、私は止めろと言っているんです。貴方は自分が何をしようとしたのか解っているんですか!」


 ソフィアは2人を睨みつける。


「誰の味方をするとか、そういう話ではありません。貴方たちがしたことは貴族として……いえ、人として恥ずべき行為です!」


 覚悟を決めた。ソフィアはそういう顔をしていた。


「貴方たちが他の生徒を傷つけるなら、私は絶対に許しません!」


 毅然と言い放つソフィア。その姿に……俺は見惚れてしまった。

 おい、冗談だろう。相手は15歳の子供だぞ。精神年齢40歳のオッサンが何を考えているんだ。


 イザベラとローラはソフィアの変化に狼狽しながらもまだ抵抗を続けている。


「ソフィア様……それは私たち派閥の貴族を切り捨てるということですか?」


「そんなこと、あり得ませんよね……貴族にとって派閥以上に大切なモノなどありませんから」


 しかし覚悟を決めたソフィアに対して、それは無駄な行為だった。


「貴方たちが人として恥ずべきことをするなら、派閥のことなど関係ありません。むしろそのような行為を見過ごせば、ビクトリノ家の名を汚すことになります。これ以上続けるなら、貴方たちの家を派閥から除名します」

 

 当主じゃないソフィアにそんな権限はないけど、派閥に所属する貴族たちの前で宣言することは彼女の固い意志を示す行為だな。

 それに気づいたイザベラとローラは顔面蒼白になって黙り込む。


「貴方たちも彼女から早く手を放しなさい」


「「「は、はい、ソフィア様!」」」


 ミリアを組み伏せていた貴族女子たちが慌てて解放する。

 ソフィアはミリアに近づくと、自分の服が汚れることなど気にせずに彼女を抱き起こして深々と頭を下げた。


「貴方には派閥の者たちが大変失礼なことをしました。本当に申し訳ありません。ビクトリノ家の名に懸けて、この償いは必ずさせて頂きます」


 公爵令嬢であるソフィアが平民に頭を下げる。それ自体が衝撃的だろうが、こんなことをソフィアにさせてしまった自分たちの罪の重さに気づいて、貴族女子たちが愕然とする。


「ソフィアさん、そこまでしなくても……貴方がやったことじゃないのに」


 ミリアの方は誠心誠意謝るソフィアに戸惑っていた。ミリアの反応って……やっぱり違和感を感じるんだよな。


「いいえ、派閥の者がしたことは私の責任ですので、そのような訳にはいきません。申し遅れましたが、私はソフィア・ビクトリノと申します。貴方のお名前を伺ってもよろしいですか?」


「は、はい。私はミリア・ロンドです」


「では、ミリアさん。今回の償いは必ずさせて頂きますが、今日のところは申し訳ありません。私は彼女たちと話をする必要がありますので失礼させて頂きます」


 ソフィアは再び貴族女子たちを睨みつける。この展開だと俺の出番はなさそうだな。そんなことを考えていると。


「なかなか凄い状況になっているね」


 いつもの爽やかな笑顔でエリクが登場した。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 15歳

レベル:????

HP:?????

MP:?????


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