192話:女子会の筈が
そして週末の土曜日。グレイとセレナには事情を話してあるから、世界迷宮の攻略を早めに切り上げると。
俺は『転移魔法』で地上に戻って、マリアーノ公爵領にあるエリスの居城にやって来た。
「アリウス、お帰りなさい」
エリスがいつものように出迎えてくれる。だけど今日はエリスだけじゃない。
「アリウス、お邪魔しています」
ミルクベージュの長い髪と碧色の瞳のソフィアが、優しく微笑む。
「ダンジョンを攻略しているって言うから、もっと遅くなると思ったけど。意外と早かったじゃない」
純白の髪と紫紺の瞳のミリアが悪戯っぽく笑う。
「ア、アリウス君。ちょっと、久しぶりだね」
眼鏡を外して三つ編みも解いたノエルが、少し恥ずかしいそうだ。
「アリウスは世界迷宮を攻略しているのよね。あとで、どんな魔物と戦っているのか教えてよ」
アッシュグレイの髪のジェシカが、嬉しそうに話す。いつも冒険者らしい格好をしているジェシカが、スカートを穿いているのは新鮮だな。
「ソフィア、ミリア、ノエル、ジェシカ。みんなに会えて嬉しいよ。だけど今日は女子会なんだろう? 俺のことは気にしないで楽しんでくれよ」
ちなみにジェシカは『転移魔法』を使って直接自分で来たけど。他のみんなはエリスが飛空艇で迎えに行った。
エリスの飛空艇はマリアーノ公爵になったときに、王家が所有する飛空艇の1つを譲り受けた物だ。
王都は防衛の観点から、飛空艇が乗り入れることを禁止しているから。みんなは飛空艇の発着場がある王国第2の都市シルベスタまで馬車で移動して。そこから時速100km程度の飛空艇で移動したから、それなりに時間が掛かった筈だ。
だから俺が『転移魔法』でみんなを迎えに行くって言ったんだけど。『アリウスには他にやることがあるし。移動中もお喋りをしているから楽しいのよ』と断られた。
「アリウスは、何を言っているんですか? 私たちはエリス様のところに遊びに来ましたけど。アリウスに会うことも目的ですから」
ソフィアの言葉に、みんなが頷く。
「アリウスが帰って来たから、みんなで食事にするわよ」
みんなは俺と一緒に夕飯を食べるために、待っていてくれた。それにテーブルに並ぶのは、エリスのお手製の料理だけじゃなくて――
「今日は私とノエルも手伝ったんだからね」
「そ、そうだよ。アリウス君……」
「そのチキンは、私が作ったんですが……どうでしょうか?」
「私も……一応、ジャガイモにニンジンは切ったわよ」
みんなが作ってくれたんだな。
「ああ、どの料理も美味いよ。みんな、ありがとう」
俺がエリスを選んだことで、他のみんなとの関係は変わると思ったけど。
『私はできれば、みんなと一緒にアリウスの傍にいたいのよ』
エリスがこう言ってくれたおかげで。みんなはこれまでと変わらない態度でいてくれる。
だけど完全に同じって訳にはいかなくて。ときどき、ぎこちなさを感じてしまうのは仕方ないだろう。
「ねえ、アリウス……エリス様は優しいから、勘違いしちゃいけないことは解っているわよ」
夕飯を食べながらワインを飲んで。ミリアはめずらしく酔っている。
「私は2人の時間を邪魔するつもりはないわ。だから邪魔なら正直に言ってよね」
ミリアの言葉に、ソフィア、ノエル、ジェシカが真剣な顔で俺を見る。
「いや、そんなことはないからな。俺が好きなのはエリスだけど。みんなのことが大切なのは変わらないし――」
俺1人で決めて良いことじゃないからな。エリスを見ると、エリスが全部解っているからって感じで頷く。
「俺の方こそ、みんなが嫌じゃないなら。これまで通りにして欲しいと思っているよ」
俺はどこかのラノベ主人公みたいに、ハーレムを作るなんて考えてないし。
エリス以外のみんなが、それでも俺を好きでいてくれるとか。そんな都合の良いことは考えていない。
だけど俺はみんなが大切だから。嫌われたとか関係なしに、みんなのことを守りたいんだよ。
「みんなのことを邪魔だと思うなら、わざわざ呼ぶ筈がないわよね。それはみんなも解っているでしょう?
何度でも言うわよ。みんなが本気でアリウスを好きなことは解っているから、私はアリウスを独り占めするつもりはないわ」
エリスの本気が他のみんなにも伝わったみたいだけど。
「つまり、それって……私はこれからもアリウスにアピールして良いってことよね?」
ジェシカが思いきり俺の腕に抱きつく。
「ええ、勿論よ。だけど私もアリウスの1番を譲るつもりはないわ」
エリスは反対側の腕に抱きついて、優しい笑みを浮かべる。
「エリス様、ありがとうございます。ですが……後で後悔しても知りませんよ」
ソフィアは真っ直ぐにエリスを見つめる。
「そうよね。エリス様がそこまで言うなら……アリウス、覚悟しておきなさいよ」
「そ、そうだよ、アリウス君……私もアリウス君のことを諦めないから……」
ミリアとノエルが詰め寄る。いや、俺はそういうつもりじゃないんだけど。
「みんな、その通りよ。諦める必要なんかないわ」
エリスの宣言に、みんなが納得しているけど。
「いや、そういう話じゃないだろう。俺が好きなのは、あくまでもエリスだからな」
「アリウスが納得していないことは解っていますよ。だけどこれは私たちの問題ですから」
「そうね。アリウスがどう思おうと関係ないわ」
「そうよ、アリウス。私たちが自分で決めることだから」
「ア、アリウス君が困ることじゃないよ」
俺が何を言っても無駄みたいだな。
まあ、俺がみんなの気持ちに流されなければ良いだけの話だし。
エリスとみんながこれまで通りに仲良くやれるなら、構わないか。
※ ※ ※ ※
アリウス・ジルベルト 18歳
レベル:14,606(+46)
HP:154,890(+492)
MP:236,225(+748)