番外編:※過去※アピール
海パン姿でたむろする俺たちに、パラソルの下で着替えて来た女子たちが合流する。
「アリウスは水着姿も格好良いわね」
エリスは大人っぽい赤いビキニにパレオ。スタイル抜群なエリスの大胆過ぎないビキニ姿に、豪奢な金髪と海のように深い青の瞳が良く映える。
「アリウス。その……どうかしら?」
ソフィアは清楚な感じの白いビキニで。ミルクベージュの長い髪と碧色の瞳と相まって、まさに綺麗系完璧美少女って感じだ。
「エリス、ソフィア。2人とも良く似合っている。凄く魅力的だよ」
「アリウスにそう言って貰えると、嬉しいわ」
「ええ。アリウス、ありがとう」
エリスとソフィアは嬉しそうな笑みを浮かべる。
「エリス様とソフィアは、スタイルが良いから羨ましいわよ」
ミリアがちょっと拗ねた顔をする。純白の髪と紫紺の瞳の美少女は、控えめな感じのフリルのある水色のビキニを着ている。
「わ、私は……水着なんて、恥ずかしいよ……」
眼鏡を外して、三つ編みを解いたノエルの顔が赤い。ノエルの水着は黄色のワンピースタイプだ。
「ミリアとノエルも、良く似合っている。可愛いよ」
ミリアとノエルが真っ赤になる。
「そう? アリウスがそう言うなら……」
「ア、アリウス君が、か、可愛いって……」
「私はみんなみたいに可愛くないから。アリウス、あんまり見ないでよね」
アッシュグレイの髪のジェシカが着ているのは、スポーティーなセパレートタイプの青い水着だ。
ジェシカはS級冒険者だから、身体を鍛え上げているけど。女子らしい柔らかな身体のラインをしている。
「ジェシカ、そんなことはないよ。ジェシカも良く似合っている。本当に魅力的だからな」
「そうよ、ジェシカさん。同じ女の私から見ても、ジェシカさんは素敵よ」
冒険者としての強さと美しさが同居するジェシカに、女子たちの視線が集まる。
「そんなに褒められると……お世辞でも照れるじゃない……」
ジェシカが頬を染める。満更でもない感じだな。
「サーシャ。その……凄く綺麗だぜ」
「ジ、ジーク殿下も、素敵です……」
ジークとサーシャは2人だけで『恋学』しているから、放っておいて構わないか。
「アリウスお兄ちゃん……私はどうかな?」
女子たちに隠れるようにして、最後に登場したのは妹のアリシアだ。
俺と同じ銀髪で氷青色の瞳のアリシアの水着は、胸のところにフリルで薔薇の花あしらったワンピースタイプだ。
「うん、可愛いよ。アリシア、良く似合っている」
「エヘヘ……アリウスお兄ちゃん。ありがとう!」
満面の笑みを浮かべるアリシアが、本当に可愛らしいな。
海に来ることは解っていたから、準備の方も万端だ。
俺は収納庫からイルカの浮き輪とビーチボールを取り出す。
この世界にビニール素材はないけど。防水性がある魔物の革で代用できる。
『浮遊』の魔法を発動する魔導具を仕込んであるから、空気が抜けて沈む心配もない。
まずは浅瀬で、みんなでビーチボールを投げながら遊ぶことになった。
「アリシアちゃん、行くわよ!」
いきなりミリアがジャンプして、ビーチボールを投げる。
だけど水着でそんなに激しく動くと、目のやり場に困るからな。俺はさりげなく視線を反らす。
「アリウスお兄ちゃん、隙あり!」
アリシアはビーチボールをキャッチすると、俺の死角を狙って来た。
だけど俺は普通に受け止める。
最難関ダンジョンをソロで攻略している俺は、全方位からの攻撃に常に晒されているからな。視界外でも魔力と気配で感知できるんだよ。
だけどその後も、みんなは水着なのに全然気にしないで。激しい動きでビーチボールを投げる。
エリクとバーンは特に反応していないし。俺が気にし過ぎってことか?
「アリウス、それは違うよ。僕たちが反応しないのは、みんなが君にアピールしていることが解っているからだよ。僕のことなんて眼中にない女子のことを気にしてもね」
エリクが小声で耳打ちする。いや、そんなことは……だけどみんなの視線が俺に集まっているのは事実だな。
なんてことを思っていると。バーンが思いきり投げたビーチボールが、ジークの顔面に直撃する。
「痛ッ……バーン、よくもやってくれたな。お返しだぜ!」
ジークの全力投球を、バーンは軽々と受け止める。
「ジークはもっと鍛えないとな」
バーンは思いきり振り被って、再びビーチボールを投げる――寸前に、狙いを俺に変えた。
だけどバーン、見え見えなんだよ。
俺はビーチボールを受止めると、そのままバーンに投げ返す。
物凄いスピードのビーチボールはバーンの顔を掠めて、彼方へと飛んで行く。
「ま、マジかよ……」
俺は一気に加速すると。自分が投げたビーチボールに追いついて、キャッチする。
「バーン、これくらいは反応しろよ。おまえこそ、鍛錬をサボっているんじゃないのか?」
「なあ、親友。無茶を言うなよ」
「いや、エリクなら止めていたと思うけど」
そう言いながら、俺がバーンに投げたときと同じスピードで、不意打ちでビーチボールを投げると。エリクはいつもの爽やかな笑顔で受け止める。
「アリウス、いきなりは酷いね。だけどバーン、解っていると思うけど。僕が受け止められたのは、アリウスが手加減しているからだよ」
エリクは事もなげに言うけど。
「エリクが止めただと……親友、俺にもう一度チャンスをくれ! 今度は絶対に取って見せるぜ!」
すっかり本気になったバーンに、みんなが苦笑していた。
※ ※ ※ ※
みんなで1時間ほど浅瀬で遊んだ後。エリクはパラソルの下で読書を始めて。ジークとサーシャは2人で完全に『恋学』モードになった。
「なあ、アリウス。俺たちは沖まで行こうぜ」
手持無沙汰になったバーンに誘われる。
「アリウス。シリウス君とアリシアちゃんのことは、私たちに任せて良いわよ」
「そうね。たまには男同士で遊びたいんじゃないの?」
エリスとジェシカに、そんなことを言われた。他のみんなも頷いている。
まあ、俺は別にバーンと二人で遊びたいとか思わないけど。バーンが乗り気だし、みんなの好意に甘えることにするか。
「皆さんには気を遣って貰って、申し訳ないですけど。僕もアリウス兄さんとバーン殿下と一緒に行きたいです」
「私も、ごめんなさい。アリウスお兄ちゃんと一緒が良いわ」
どうやらシリウスとアリシアは、子ども扱いされたくないらしい。
「シリウスとアリシアは泳げるのか?」
「勿論だよ。アルトマン先生にどんな状況でも戦えるように鍛えて貰っているからね」
「海で泳いだことはないけど。海の危険性は先生から教えて貰ったわ」
アルトマンは父親のダリウスと母親のレイアが、2人の家庭教師として雇っている元A級冒険者だ。
俺も何度か会ったことがあるけど、アルトマンは50代後半の男で。冒険者としての実力は確かだ。
「じゃあ、みんなには悪いけど。シリウスとアリシアも一緒に4人で行くか。バーン、それで構わないだろう?」
「ああ。シリウスとアリシアが、只の子供じゃないことは解っているからな」
バーンはこういうときに子ども扱いしないから。シリウスとアリシアもバーンのことを気に入っている。
ということで。俺たち4人は泳いで沖に向かった。
バーンは『恋学』の攻略対象で、ステータスが高いから。泳ぐくらいは余裕なのは解っていただけど。
シリウスとアリシアも『身体強化』を発動して、普通について来ている。これなら問題なさそうだな。
「なあ、アリウス。せっかく海に来たんだから。海の魔物と戦ってみようぜ」
海水浴をするような浅瀬までは、魔物が近づいて来ること滅多にないけど。沖に出れば魔物と遭遇することは、めずらしいことじゃない。
バーンも解っているのか。こんな提案をして来た。まあ、バーンがナイフ持って来ていることは知っていたけど。
「別に構わないけど。シリウスとアリシアはどうする?」
「アリウス兄さん、僕も戦ってみたいよ」
「アリウスお兄ちゃん、私も!」
「ああ、解った。だけど無茶はするなよ」
俺はシリウスとアリシアのために、収納庫から2本の短剣を取り出す。
以前に二人にプレゼントした高難易度ダンジョン『竜の王宮』産の短剣と同じモノだ。
これなら二人も使い慣れているだろう。
「なあ、親友! 俺は大物を狙うぜ!」
「僕は魚型の魔物と戦いたいな!」
「私はカニやエビが良いわ!」
とりあえず、3人は如何にもやる気って感じだけど。
「みんな、『飛行魔法』は使えるよな? 泳ぐよりも水中を『飛行魔法』で移動する方が速いし、動きが安定する。
あとは『水中呼吸』を発動しておけば、溺れることもないからな」
『飛行魔法』は中級冒険者以上には必須の魔法だから、3人とも使えた。
『水中呼吸』の方はバーンが使えなかったから、俺が発動して掛ける。
俺は常時発動している半径5km以上の『索敵』で、周囲にいる魔物は把握している。
そこまで強い魔物はいないから、3人の好きにやらせても問題ないだろう。
俺は引率の教師の気分で。バーン、シリウス、アリシアの戦いを見守ることにした。