番外編:※過去※最後の夏休み
ちょっと、過去のエピソードを書きます。
王立魔法学院3年生の夏休み。
前世だと高校3年の夏休みなんて、大学受験の追い込みの時期だけど。学院の生徒の場合は、事情が変わる。
貴族の嫡子なら、学院を卒業した後は親の家督を継ぐことになるけど。
嫡子以外の貴族は家を出ることになるから。男子は卒業するまでに就職先を、女子は婚約者か就職先を決める必要がある。
平民の生徒は男子も女子も関係なく、就職先を決めることになる。
だけどみんなに、その必要はない。
一足先に学院を卒業したエリスは、今はマリアーノ公爵で。貴族としての仕事と、魔族との交易という両方の仕事をこなしている。
エリクとジークはロナウディア王国の王族で、バーンはグランブレイド帝国の皇族だから。学院を卒業しても、王族や皇族としての仕事がある。
ソフィアはエリクの後押しもあって、ビクトリノ公爵家を継ぐことになっているし。サーシャとジークの結婚は確定しているようなモノだからな。
あとはミリアとノエルだけど。ミリアは王国諜報部に、ノエルは魔法省に内定が決まっている。
まあ、エリクが後押ししたんだけど。エリクは2人の実力を認めているってことだな。
ということで。俺たちは学院最後の夏休みだからと言って、特に忙しい訳じゃない。
俺としては最難関ダンジョンの攻略を進めることが最優先だけど。四六時中ダンジョンを攻略している訳でもないからな。
今、俺たちはロナウディア王国の南方にある常夏の島国ベリタスに来ている。
「ア、アリウス君……こ、これが海なんだね!」
初めて海を見るノエルが興奮している。他のみんなは初めてじゃないし。ミリアは前世で海くらい行っているだろうけど。
降り注ぐ真夏の太陽の日差しと、ヤシの木が茂る常夏の島の雰囲気に。エリクとエリス以外のみんなは、少し興奮気味だ。
ちなみにメンバーは、男子は俺とエリクにジーク、バーン。女子はエリス、ソフィア、ミリア、ノエルにジェシカにサーシャ。
あとは俺の双子の弟と妹、シリウスとアリシアも一緒に連れて来た。ちなみに移動手段はロナウディア王国の王家が所有する飛空艇だ。
俺が『転移魔法』を使った方が速いけど。エリクたちは護衛を連れて行くからと飛空艇を使うことになった。俺は移動時間がもったいないから、後から『転移魔法』で合流したけど。
大国であるロナウディア王国とグランブレイド帝国の王族と皇族、貴族が来たとなると、ベリタスの国王に歓待を受けたり。貴族との付き合いで時間を食うことになるから。俺たちは身分を隠して、お忍びで来ている。
だからベリタスの領海に入る前に、飛空艇で運んできたボートに乗り換えて。みんなが連れている護衛も最小限だ。
それでも護衛が一緒だから、ベリタスの高級宿屋『白鯨館』のスイートルームを借りることになった。スイートルームじゃないと、護衛用の部屋がないからだ。
「高貴なる皆様をお迎えしたことは、何よりも勝る光栄です!」
『白鯨館』の主人が挨拶する。下手に隠して後でバレると面倒だから。宿屋の主人には、俺たちの正体を伝えた上で口止めしている。
向こうもプロだから、情報を流して信用を失うほど馬鹿じゃないし。ベリタスはリゾート地だから、お忍びで訪れる王族や貴族も多いらしい。
「それじゃ。早速着替えて、ビーチに行くとするか」
この世界の水着は、前世の世界と大きな違いはない。男子は海パンで、女子の水着はビキニからワンピースタイプまで様々だ。
男の着替えは簡単だから、着替えてからロビーで女子たちを待つことになる。
さすがにロビーで海パン姿はマズいから、みんな水着の上からシャツとズボンを穿いている。
ちなみに高級宿屋『白鯨館』は、魔道具で館内の温度を最適に保っている。
「みんな、待たせたわね」
しばらく待っていると。エリスを先頭に女子たちがやって来た。
女子たちも水着の上から、シャツとスカートを身につけている。リゾート地らしい涼しそうな格好だ。
ちなみにみんなの護衛たちは、普通にスーツを着ている。護衛用の装備があるから仕方ないけど。
さすがにビーチでスーツは可哀そうだからな。護衛たち全員に遮熱効果がある魔道具を渡してある。
俺たちが向かったのは『白鯨館』のプライベートビーチで。『白鯨館』の宿泊客しか利用できない。
護衛たちがパラソルを立てて、休憩用スペースを確保する。準備もできたし。俺たち男子はシャツとズボンを脱いで、水着姿になった。
「さすがに親友は、バリバリに鍛えているな」
バーンが白い歯を見せて暑苦しく笑う。
そういうバーンも日に焼けた褐色の身体は、良く鍛えられている。水着がブーメランパンツなのは暑苦しいけどな。
俺は『恋学』の攻略キャラだからか。幾ら鍛えても細マッチョ体型のままだけど。毎日鍛錬と最難関ダンジョンの攻略を続けているから、無駄な肉は一切ついていない。
ちなみに俺の海パンはシンプルなトランクスタイプだ。
「冒険者だから傷跡があると思ったが。全然無いんだな。魔法で回復しているからなのか?」
ジークが不思議そうな顔をする。
ジークもそれなりに身体を鍛えているけど。あくまでもそれなりで、俺やバーンに比べると線が細く感じる。
「まあ、それもあるけど。真面にダメージを受けるような状況になるのは、そもそもマズいからな。俺はダメージを受ける前に魔物を倒しているんだよ」
最難関ダンジョンでダメージを受けたら、回復している暇なんかないからな。魔物の攻撃を躱せないと、攻略なんてできない。
「ジーク、アリウスを他の冒険者と同じように考えたら無駄だよ」
エリクがいつもの爽やかな笑みを浮かべる。エリクの体型はジークとそんなに変わらないけど。纏っている魔力が違う。
今日一緒に来た男子の中で、俺以外だと護衛を含めて一番レベルが高いからな。
ちなみにジークとエリクの水着は、俺と同じトランクスタイプだ。銀糸で装飾された高級品だけど。
「やっぱり、アリウス兄さんが一番強いと思うけど。エリク殿下も強いんですね」
シリウスがマジマジとエリクを見ている。シリウスも解っているみたいだな。
ちなみに今年11歳になるシリウスは、年齢の割に良く鍛えていて。そろそろB級冒険者が見えて来るレベルだ。