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172話:狂犬 ※三人称視点※


※三人称視点※


 フランチェスカ皇国元重装騎兵団長のデュラン・ザウウェルは、『魔王の代理人』アリウス・ジルベルトが気に食わないという訳じゃない。

 血に飢えた狂犬であるデュランは、フランチェスカ皇国で見たアリウス・ジルベルトの強さを認めて。戦ってみたい、殺し合ってみたいと思っているだけだ。


 デュランは戦災孤児で。親の顔すら憶えていない。しかしデュランの戦闘能力は天性のもので。物心ついたときには、とある傭兵団に買われていた。

 自分に価値があることを証明するために、敵を殺すことがデュランの日常だった。


 敵を殺し続けながら、戦場を転々とする日々。糧を得るために人を殺すことは、当たり前だと思っていた。

 そんなデュランに転機が訪れる。デュランがいた傭兵団が壊滅して、デュランだけが生き残った。

 他の傭兵団に入ることも考えたが。ふと目にしたのが冒険者ギルドの看板だった。


 それからデュランは10代を冒険者として過ごした。弱い奴は生きる価値がないと、パーティーのメンバーを切り捨てながら。デュランがS級冒険者になったのは18歳のときだった。


「まあ、それなりに金もできたし。魔物(モンスター)を殺すのも飽きたからな」


 デュランは再び傭兵に転じた。今度は自分の傭兵団を作ることで。


「てめえら、良く憶えておけよ。敵前逃亡したら、俺が確実に殺すからな」


 恐怖に縛られたデュランの傭兵団は確実に戦果を上げて。やがてフランチェスカ皇国から声を掛けられることになる。


「おまえがデュラン・ザウウェルか……なるほど、狂犬以外の何者でもないな」


 デュランを誘ったのは、フランチェスカ皇国第2皇子のルーク・フェンテス。

 ザウウェルの姓は、貴族に取り入るために勝手に付けたものだ。


「一応忠告しておくが。俺に平和ボケした仕事をさせたら、フランチェスカ皇国が血の海に沈むことになるぜ」


「ああ、解った。デュラン、おまえを常に血塗られた戦場に置くことを約束しよう」


 フランチェスカ皇国は、周辺諸国と紛争を繰り返していた。紛争が起きる度に、デュランは最前線に置かれて。フランチェスカ皇国を勝利に導いた。

 それでも常に紛争が起きる訳はなく。紛争のないときは、ルーク皇子はデュランを工作員として敵国に送り込んだ。


 デュランが望むモノを与えるルーク皇子と、ルーク王子の野心を満たすデュランの存在。

そんな蜜月関係は、フランチェスカ皇国が300年ぶりに誕生した勇者を支援すると宣言して。皇国が遠征軍を組織しながら、魔族の領域に侵攻する前に勇者が敗れるという事態が発生するまで続いた。


 最初の(つまず)きは、勇者の国イシュトバル王国に突然出現した魔族。

 正直、デュランは魔族を舐めていたが。魔族の圧倒的な力の前に、デュランはアッサリと敗北した。


 2つ目の躓きは『魔王の代理人』SSS冒険者アリウス・ジルベルトが、フランチェスカ皇国にやってきたときだ。

 ブリスデン聖王国でアリウスがしたことを事前に掴んでいたフランチェスカ皇国は、アリウスの風下に立つ選択をした。


(おいおい……フランチェスカほどの大国が、たかが冒険者に尻尾を振るのかよ?)


 デュランがフランチェスカ皇国を見限った瞬間だった。


 確かにフランチェスカに現れた『魔王の代理人』アリウスと、彼が連れて来たSSS級冒険者グレイとセレナは別格だった。


「SSS級冒険者の肩書なんて、俺は信じねえが。てめえら3人の実力は、本物みてえだな」


 デュランは立ち去ろうとするアリウスたちに声を掛ける。デュランは血に飢えた狂犬だが、馬鹿じゃない。戦場で培った勘が危険信号を放っていたが。


「なあ、てめえら3人のうちの誰でも良いから、俺と仕合をしろよ。 仕合なら問題ねえだろう」


 こいつらと戦ってみたい、殺し合ってみたい……デュランの中の狂犬が牙を剥く。


 結局、アリウスたちとの仕合は実現しなかったが。これが転機となって、デュランはフランチェスカ皇国を去った。

 この世界にはデュランが考えていたよりも、強い奴がいるらしい。デュラン自身もフランチェスカ皇国に飼い慣らされて、気づかぬうちに魂が錆びついていた。


 そこからデュランは1人の傭兵に戻って、戦場を渡り歩き。己の牙を研ぎ澄ました。

 そして1年ほど経った頃。冒険者ギルドが新たにSSS級冒険者になった2人に対する挑戦者を、広く求めていることを知った。


「そう言えば、あの3人もSSS級冒険者だったな」


 デュランは SSS級冒険者の肩書など興味がなかったが。今の自分の力を試すにはちょうど良いと思った。

 結果はデュランの圧勝で。デュランは新たなSSS級冒険者になった。


 それから半年間。デュランは挑戦者たちを全て退け続けた。退けたなどと生易しい表現をするのが憚れるほど、デュランは挑戦者が再起不能になるまで徹底的に壊した。


「戦いってのは、殺すか殺されるかだろう?」


 それでも挑戦者を殺さなかったのは、その(ことごと)くをSSS級冒険者序列1位のオルテガ・グランツに止められたからだ。


「おい、狂犬デュラン。勝手に殺すな。挑戦者を殺したら、おまえの冒険者資格を剥奪するぞ」


 デュランは冒険者資格などに興味はなかったが。強者と戦う機会を奪われたくなかった。オルテガ・グランツは、デュランが求める強者だった。


「強い奴と戦いたいなら、俺が相手になってやるよ。だからデュラン、おまえが他のSSS級冒険者に挑戦することは禁ずる。これは冒険者ギルド本部の決定事項だからな」


 冒険者ギルド本部の役員でもあるオルテガには強制力がある。オルテガと戦いたいデュランは彼の言葉に従ったが。素直に従った訳じゃない。


(向こうから仕掛けてくる分には、構わねえよな?)


 デュランは不遜な態度で、他のSSS級冒険者たちを挑発した。特にターゲットにしたのは、彼が実力を認めたアリウス、グレイ、セレナの3人だ。


 しかしグレイとセレナを挑発することは、直ぐに諦めるしかなった。グレイとセレナには全く相手にされず。他の冒険者たちは2人のことを尊敬しているから、デュランが何を言っても悪い噂が広まらなかったからだ。


 アリウスについては『魔王の代理人』の代理人であり。グレイとセレナの弟子として史上最年少のSSS級冒険者になったアリウスをやっかむ冒険者も多いから。だからアリウスの悪い噂は直ぐに広まった。


「『魔王の代理人』なんて、結局は魔王の飼い犬ってことだろう? 強えのはアリウスじゃなくて魔王だ。俺が化けの皮を剥がしてやるぜ」


 無論、デュランはアリウスの力を認めた上で。挑発するために言っていたが。


(まあ、上手く釣れたらってところだな)


 デュランもアリウスが安い挑発に乗るなど、そこまで期待していなかった。


 そんなデュランに再び転機が訪れる。この時点でデュラン自身も、転機だとは思っていなかったが。


 冒険者ギルドに舞い込んだSSS級冒険者指名依頼。依頼主はアドミラル連邦共和国で、内容は魔物に関するものだ。

 辺境地帯を住処にしている『神獣』と呼ばれる魔物が、アドミラルの都市の近くで度々目撃されるようになった。アドミラルの国家元首は『神獣』を、辺境の奥地に追いやることを求めている。


「まあ、どうせ暇だしな。俺が請けてやるよ」


 言葉通りで。この時点で、デュランは何かを企んでいる訳ではなかった。

 

 そして他に名乗り出る者はなく。デュランが依頼を請けることになった。


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[一言] 守り神だったりして
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