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109話:7ヶ月後


 5番目の最難関(トップクラス)ダンジョン『精霊界の門』。


 ここに出現する魔物(モンスター)は、勿論只の精霊じゃない。

 地水火風などの元素を司る領域を支配するクラス、精霊王たちだ。人や獣の形の膨大な魔力を凝縮した存在が、自らの領域を展開して襲い掛かって来る。


 だけど俺も成長したからな。奴らが纏う魔力の動きを捉えて、攻撃が発動する前に反応する。

 瞬間移動を使われても。空間を無視した攻撃も。相手の魔力の動きを正確に把握できれば、躱すのは難しくない。

 

 『索敵(サーチ)』で全ての敵の位置を俯瞰して捉えながら。思考を加速させてコンマ1秒毎に最適解を選ぶ。


 最下層の『光の精霊王』1,000体以上を全て仕留めると。『精霊界の門』のラスボスが出現した。


 『精霊神』――元素を司る全ての領域の頂点に立ち、精霊界そのもののような存在。

 チートとしか思えない膨大なHPを持ちながら、無尽蔵のMPで一瞬で回復する。

 階層全体を自らの領域として支配しているから、どこからでも攻撃できる。


 まあ、魔物という存在を完全に超越しているけど。戦うのはこれで5回目(・・・・・・)だからな。

 今の俺なら、奴が回復できるHPよりも多くのダメージを与えられるし。攻撃を躱し続ければ、いつかは倒すことができる。24時間以上戦い続けることも、すっかり慣れて来たからな。


 『精霊神』がエフェクトと共に、巨大な魔石に変わる。同時に七色の光を纏う長剣が出現した。


 『精霊神の剣』――安直な名前だけど。名前に相応しい威力と性能だな。


「こんな剣がポップするなら、もう1本欲しいところだけど。そろそろ次の最難関ダンジョンに挑みたいってのもあるんだよな」


 グレイとセレナと一緒に挑んだときも、攻略したのは『精霊界の門』までで。6番目の最難関ダンジョンは、俺にとって完全に未知の領域だ。


「まあ、グレイとセレナに相談してからだな」


 グランブレイド帝国の帝都で、エリクとカサンドラの婚約を見届けてから。7ヶ月以上、俺は只ひたすらにダンジョンに挑み続けて来た。

 学院に通うから時間に制約があるという理由で、グレイとセレナのパーティーから抜けたけど。今は状況が変わって、時間の制約はないからな。


 グレイとセレナと攻略済みの最難関ダンジョンを、全部ソロで攻略するのが当面の目標だったけど。達成したんだから、ひさしぶりに2人に会いに行くか。


※ ※ ※ ※


 結局、俺は学院を辞めなかった。授業に出なくても構わないから、籍だけは残せとダリウスに言われたからだ。


 進級するための最低限の出席日数を、エリクが教えてくれたけど。結局、夏休みが終わってからも、1度も授業に出ていない。俺が留年するのは決定的だ。

 まあ、正直に言って。今さらどうでも良いんだけど。ダリウスには王国宰相を継ぐつもりはないと伝えたからな。


 今日は3月10日。俺は久しぶりに学院に来た。学年末の試験だけは絶対に受けろと、エリクに『伝言(メッセージ)』で呼び出されたからだ。

 いや、留年決定なのに試験を受けても意味がいないと思ったけど。エリクのことだから何か企んでいるだろうし。『精霊界の門』の攻略も終わって、時間に余裕ができたからな。


 グレイとセレナに『伝言』を送って、会いに行くと伝えたけど。『今忙しいから、しばらく待っていろ』と返事が返って来てから、音沙汰ないんだよな。


「ねえ、あれ……」


「キャー! アリウス様じゃない!」


 教室に向かう途中で。擦れ違う女子たちが黄色い声を上げる。俺は今も情報収集を続けているから、状況は解っている。

 俺が帝国で仕出かしたことは、学院にも伝わっているらしく。帝国の皇太子からエリス王女を奪った王子みたいな噂が広まっているそうだ。噂を広めたのはエリクだけど。


「アリウス、久しぶりだね」


 教室に入ると。エリクがいつもの爽やかな笑みを浮かべる。エリクの顔を見るのも7か月ぶりだから。この爽やかな笑みも、ちょっと懐かしい感じがする。


「エリク、おまえには色々と言いたいことがあるけど。まずは結婚おめでとう」


「ありがとう、エリク。だけどカサンドラと離れ離れだから、全然結婚した実感がないけどね」


 エリクとカサンドラは婚約してから1ヶ月で電撃結婚した。いや、結婚しなくちゃいけない理由ができた(・・・)訳じゃなくて。お互いが望んだことらしい。

 まあ、結婚してしまった方が、2人には色々(・・)と都合が良いんだろう。余計なことに煩わせれることもないし。お互いの力を堂々と利用できるからな。


「アリウス。貴様は、またエリク殿下を呼び捨てになど。良い加減に自分の立場をわきまえたらどうだ」


 エリクの取り巻き。いや、取り巻きというには大物のラグナスが文句を言う。この流れも懐かしいな。

 俺が散々やらかした噂はラグナスも知っている筈なのに。態度を変えないところだけは好感が持てるな。


 このタイミングで。教室の扉がバタンと音を立てて開く。


「アリウス!」


 教室に飛び込んできたのはミリアで。後ろからノエルとエリスが入って来る。


「もう! 学院に来るなら、連絡してよね!」


「そ、そうだよ、アリウス君。心配してたんだから!」


 タイミングが良過ぎると思ったけど。


「僕が『伝言』でみんなに知らせたんだよ」


 ああ、そう言うことか。


「心配させたのは悪いけど。『伝言』で連絡はしていただろう」


 学院に来なかった間も。みんなと連絡は取り合っていた。


「そうだけど……顔を見ないと落ち着かないじゃない」


 ミリアが頬を膨らませる。7か月ぶりだけど、いつも通りのミリアだな。


「アリウス。お帰りなさい」


 エリスは満面の笑みを浮かべて。海のように深い青の瞳で俺を見つめる。


「ああ、ただいま」


 思わず言ってしまったけど。


「だけど俺は試験を受けろって、エリクに言われて来ただけだからな。そもそもなんで今さら試験を受ける必要があるんだよ?」


「ああ、話していなかったね。アリウスは特例で、試験の成績によって出席を免除することが決まったからさ。君の成績なら留年しないで2年生に進級できると思うよ」


 なるほどね。エリクが裏で手を回したってことか。だけどそんなことをしても、俺は王国宰相を継ぐつもりはないからな。


「アリウスには他にも、色々と相談したいことがあるんだよ。とりあえず試験が終わった後、時間をくれないかな」


 まあ、話を聞くくらいは構わないと思ったけど。

 このとき。俺はエリクを甘く見ていた。



※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 16歳

レベル:5,483

HP:57,710

MP:88,175


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