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万能才女の悪ふざけ ~悪女のふりはやめました。市井でスローライフします…多才で引っ張りだこでした~  作者: くまだ乙夜


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81 迫る追っ手①

◇◇◇


 鑑定士・オハルは不思議な女性だった。小柄で子どものようなのに、話し方は老成した大人のそれ。


「お前が聞きたいのはルウ・ソーニーのことだろう? 聖騎士ディーン・ウィラード」


 なぜ分かるのだろう、とディーンは恐れをなした。鑑定士の領分を越えている。


「なぜってそりゃ、私は十五年も前からお前が来るのを待っていたんだよ」


 心まで読まれて、ディーンは竦み上がった。


「ははは、そう怖がるもんじゃないよ。私が見るのは、その人のログが投影された星の動きそのものさ。そいつが人に観られたくないと思って鍵をかけているものは、まず鍵を開けなきゃどうにもなりゃしない。あんた、隠し事のない、まっすぐで綺麗な心をしている」


 ディーンは小さくうなずいた。


「……ウソをつくのは得意ではありません。それに、恥じることのない生き方をしていると自負しています」


 オハルはかすかにうなずいた。もう知っている、とでも言うように。


「あんたはルウ・ソーニーの母親を知っているかい?」

「いや……もう亡くなったとだけ」

「神託の巫女から、十五年後のあんたに伝言だ」


 オハルの口を借りて、シビュラの言葉が紡がれる。


“王家は竜に呪われている。”


◇◇◇


 ルウは屋台の軽食をつまんでいた。あつあつの揚げ魚とポテトをちょっと酸味のあるソースにつけては口に運ぶ。舌が火傷しそうなほどよく揚がった淡泊な白身魚は衣がサクッとして身はふんわり、ポテトもカリカリの表面の下はホクホクで、これはぜひとも熱いうちに食べきりたいとルウは思っていた。


 無情にも邪魔が入ったのはそのときだった。


 断りもなく隣の席に座ってきた男がいた。眉をひそめて見やれば、クリストファーではないか。静かに、と身振りで示すクリストファーに構わず、ルウは思わず声を上げた。


「うわっ、何で私がここにいるって分かったんですか?」

「言うとまた気持ち悪いって怒るでしょ」

「怒らないので言ってみてください」


 せっかくの揚げたてがもったいないので、ルウは魚を一個つまんだ。白身は口溶けよくやわらかく、そこにおいしい衣が絡んで、ざくざくとしっとりの食感が楽しめる。


「ルウの好きな食べ物はだいたい知ってる。どの辺で食事するかも」


 あやうく落としそうになった。


「気持ち悪!」

「ほんとルウ嫌いだよ」


 クリストファーが独り言のようにうめく。心配してあげてるのに。これでもいとこだから大事に思ってるって言ったらまた気持ち悪いって言うんだろうなぁ。恩着せがましい言葉にルウが思い浮かべたのはまさに「気持ち悪い」だった。


 ――途中で見捨てたくせに何を。


 ルウは聞かなかったことにして、心を落ち着けるためにやけ食い気味に半分ほど食べた。今更家族ごっこなんかしても、お互いにダメージを負うのだからやめればいいのに、とルウは思ってしまう。


「……それにしてもクリストファーって、昔から私の姿は見間違えませんよね」

「赤い目の女の子を地道に探すんだけど、ルウって隠れるの上手だよね……いつも見つけるのに苦労するよ」

「え!? 私が赤い目って知ってたんですか!?」


 食べる手を止めたルウに、クリストファーはとても渋い顔をした。


「なんで知らないと思ってたの……? いとこだよ、私……?」

「私の友達みんな知りませんでしたよ」


 クリストファーは少し考えたあと、『才能かな』と言った。


「昔っからうちの領地の政務なら何でもできたんだ。ルウは跡継ぎだから、いなくなられると困るんだよ。だからメモにして残してある」


 クリストファーが見せた手帳には、冒険者ギルドの免許証に書かれているような身体的特徴が並んでいた。


 ルウはもう一回引いた。


「能力の無駄遣い……私のことなんかよりもっとメモすること他にあるんじゃないですか……?」

「心配してくれなくても全部メモしてあるよ。特技だから」

「怖い」


 クリストファーはイラッとしたような顔でルウを一瞬見たが、すぐにため息をついた。


「無駄話してる場合じゃないんだ。第三王子が君を捜して、うちに来た」


 ――まだ諦めてませんでしたか。


 しかしルウは家捜しなどされても怖くない。出てくときに私物は持っていったのだ。


「で、ルウのことを吐けって言ってさ。拷問で溺死させられかけた」


 ルウはポテトが喉に詰まって、死ぬ思いをした。


 涙が出そうになりながらサイダーを流し込み、ひと息つく。


「大丈夫だったんですか!?」

「全然ダメ。死にたくなかったから、ルウのバイト先の一つを教えちゃった」


 ルウはヒッと息を呑んだ。それは考え得る限り最悪の対処だ。


「今頃お針子通りのあたりにはガサ入れが入ってると思う。逃げるなら今のうちだよ。手を貸す」


 ルウは青ざめた顔で首を振った。


 この誘いはきっと罠だ。


 クリストファーは臆病なので、王子に脅されれば何でもするだろう。昔からそういう男だった。保身大事のクリストファーが、水責めに耐えられるわけがない。


「急いで避難しよう。侯爵領のどこかを適当に見繕うよ。詳しくは道中で聞かせて」


 ルウはもう一回首を振った。あの王子なら、ルウを誘い出すまで何でもやるだろう。クリストファーを味方につけたなら、味を占めて、次に狙うのは――


 ――親方たちが危ない!


「行かないと」

「ダメだよ。ルウが何と言おうと連れて行く」


 ルウはとっさに、食べかけの魚とポテトの残りを全部クリストファーの口に突っ込んだ。


 驚いてもがくクリストファーを置いてきぼりにして、近道を駆け抜ける。


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