7 悪女とは何か調査します④
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ルウは悪女にふさわしい格好を見繕おうと、蚤の市も覗いた。
蚤の市――古物市場。不要物を持ち合って売ったり買ったりする場所だ。たいていはガラクタばかりだが、たまに思いもよらぬ掘り出し物があったりする。ルウは貴族の子女なので、多少は目利きができた。めっけもんの品を拾い上げては修繕し、転売することで利ざやを得ることもあったのだ。
市は相変わらず雑多な品物であふれている。どう見てもニセモノを有名ブランドのティーカップと偽っているもの、どこかの教会から盗んできたのかと思うような銀の燭台、果ては黒いレースのような模様が入った鉄柵まであった。どこから抜き取り、どうやって運んできたというのだろう。
ルウは市場を歩き回って、なじみの古物商を捜した。
「悪女っぽいパーティドレスとアクセサリーだ? いや、さすがにそれは揃わないと思うが……まあ探してみようか」
ルウは知人の古物商の青年に、古着の山とイミテーションのジュエリーをより分けてもらって、せめてもマシそうなものをピックアップした。
「これは生地が安っぽい……これは傷んでる……これはレースが安物……これは布が少なすぎて改造には向かない……」
ルウは生地が分厚くて布がたっぷりしたドレスを何着も選び出し、ついでアクセサリーも選別した。古物商になけなしのバイト代を払う。これだけで何ヶ月分になるか分からないが、最後の大舞台なのだからケチなことを言っていられない。
最終的にルウが選定した品物を見て、古物商の青年は「おお」と感心したような声を上げた。
「ちょっと痛んでるけど、レースは最高級品、絹も最盛期の布じゃんか」
「そうなんですか? よく分かりませんが」
「模様見りゃ上物って分かるよ。いい買い物したね」
「古物商の人はみんなそう言うんですよ。笑顔でニセモノつかませて」
「俺がニセモノなんかつかませるかよ! これでもけっこう値引きしてやったんだぜ!」
怒っている青年に、ルウは図々しく手を差し出す。
「じゃあ、出血大サービスってことで、もうひとつだけ。トランプってないでしょうか?」
「トランプぅ?」
「そう。イカサマに使うトランプ、ありますよね?」
「何に使うんだよ? そのドレスもだけど……」
青年は何となく事情を察したらしく、心配そうな顔になった。
「いっとくけど、貴族相手にイカサマなんかしたら最悪死罪だぜ」
ルウはふふっと笑って誤魔化した。
「へいき、へいき。仲間とちょっと演劇をするんです。舞台衣装ってやつですよ。わたしは悪女~♪」
ルウがこの間即興で作ったアリア(気に入った)を歌うと、青年は噴き出した。
「なんだよそれ、変なの! お前が作曲担当なの?」
「よく分かりましたね」
「そんな馬鹿な歌作るのお前くらいだろ」
「よく分かりましたね……」
ルウはいくつかのトランプを試して、ちょうど手になじむものを買った。
すべての材料をそろえて、自分の部屋に持ち込む。
「さて、パーティまで日もないことですし、がんばりましょう」
あとはルウが超特急でドレスをリメイクするだけである。デザインはもう頭の中にできているので、必要なパーツをバラして、一心不乱に縫い上げた。