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【書籍化】万能才女の悪ふざけ ~悪女のふりはやめました。市井でスローライフします…多才で引っ張りだこでした~  作者: くまだ乙夜


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56 自由を満喫しています②


「あ、これ、ワッサさんがこないだ貸してくれたやつ」

「ほんとだ。うわ、いいお値段だねえ」

「スライムから成分を抽出するのが大変なんだそうですよ。独自の製法でここでしか売ってないって書いてあります」

「でもこんなちょびっとでこんなに取る?」

「綺麗だから買いたがる人は多そうですね。貴族のご令嬢とか、他人と差をつけたいおしゃれさんは安売りなんてしてほしくないって思うかも」

「あー、人が持ってない物の方が希少価値あがるもんね」

「これも買っちゃおうかな? 気になってたんですよね」

「調理場のバイトでネイルって大丈夫なの?」

「基本分厚い手袋してますんで。ほら、スライムゴム引きの手袋が」

「スライムって超優秀素材だよねぇ。神様が与えたもうた便利モンスターって感じ」

「スライムって言っておけば何でもアリ感はありますよね」


 ルウは店員さんを呼びに行った。


「あれもください、あのネイルポリッシュ」


 すると店員さんは、キョロキョロとあたりを見回して、ルウを隅っこに手招きした。


「オススメいたしません」

「どうしてですか?」


 店員さんはふたりにだけ聞こえるように、さらに声を絞った。


「健康被害が発生しているんです」

「え、でもこれ、爪が弱っている人にお勧めだって」

「毒が混ざっているという噂で……実際に、爪が緑色になってしまったお客様がご来店なさったことがございます」

「えっ……じゃあなんで売ってるんですか? 普通はお詫びして商品回収のお報せを出すのでは?」

「毒を混ぜた方が、ちょっとお名前も出せないような高貴な方で……薬局の局長が現在内密に処理をしようとことに当たっております。商品が改良されるまでは、ご購入をお勧めしておりません」

「そっか……そうなんですね。残念……」

「しかも、最近はこのネイルをした女性ばかりを狙う変質者まで現れているとか」


 ルウはこの間とっ捕まえた三人組の男を思い出した。


「それってもう捕まったんじゃないんですか? そう聞きましたけど」

「いえ、まだ出てるそうです。噂では、複数の犯行グループが存在するとか」

「複数!? ……の、犯人たち……?」


 店員が重々しくうなずく。なんてことだとルウは驚愕した。女のネイルをはがすことに喜びを覚える性癖のやつらがそんなにもたくさんいるというのか。一人二人……三人くらいまでならまあ分からなくもないが、それは異常だ。


「そいつらの目当てが、全員揃いも揃って、ネイルなんですか……?」

「はい。ネイルをした女性にばかり襲いかかって、勝手にネイルをリムーバーでオフして去って行くのだそうです」


 店員さんの話に、ルウは違和感を覚えた。


 爪をはがすのと、ネイル塗料をはがすのとでは、雲泥の差だ。


「ネイルをリムーバーでオフするんですか?」

「はい。ネイルをオフにするんだそうです」

「それ以外の暴行は?」

「一切ないそうです」

「ネイルだけを?」

「ネイルだけを」

「それは真性の変質者集団ですね……」


 ルウはさすがにびっくりしたが、逆にそれが決意を固めた。やはり購入しようと思ったのである。


 やっぱり買いたい旨を告げると、店員は驚きをあらわにした。


「よ……よろしいのですか!? 毒かもしれないのですよ!?」

「いえもう、一周回ってその変質者を見てみたくなってしまったので。それにまあ、爪が緑色になったからって死にはしませんよ」


 捕まえたらぜひとも聞いてみたい。女性のネイルを落とすことにどんな興奮があるのかと。こんな面白事件とは数年に一度出くわすかどうかだと思うので、出会いを大事にしたいルウだった。


「くれぐれもお気をつけくださいませ」


 ルウはハンドクリームとネイル、リムーバーを丁寧にしまい込み、お店をあとにした。


「ルウ、本当に変質者と会う気なの? いくらルウが強くても危なくない?」

「いやあ、こないだのネイルはがし魔よりは安全じゃないかと」


 ルウはあっ、と声をあげた。


「もしかして、トゥワイラさんが言ってたメイドさん、『ネイルをはがされて寝込んだ』っていうの、もしかして……」


 続けてトゥワイラもピンと来たらしい。


「ネイルポリッシュをオフされた、って……こと……?」

「なんだ、じゃあ人の爪を剥がす変態拷問マニアに襲われた可哀想な女性はいなかったんですね」


 ルウは心からよかったと思ったが、トゥワイラは浮かない顔だった。


「えーでも、ネイルを落とすだけ落として去って行くっていうのもめちゃくちゃ怖いよね……目的が分からないから気持ち悪い」

「そうですね。ここらで誰かが捕まえて締め上げないと。悪人を叩きのめすのもまた悪女の嗜みですので」

「まだやってたんだ、悪女修業」

「やめようやめようと思ってるんですけど、楽しくなっちゃったんですよね。もう趣味と言っても差し支えないです」

「ルウの趣味って変わってるよね」


 ルウはしばらく、ネイルをつけて街をぶらぶらしてみることに決めたのだった。



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