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万能才女の悪ふざけ ~悪女のふりはやめました。市井でスローライフします…多才で引っ張りだこでした~  作者: くまだ乙夜


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53 行方知れずのあの人は②

「関所と、船の税関に連絡しておこう。金目当ての犯行なら、高額の懸賞金をつければ犯人の方から連れてくる」


 ギブソンがさらりと解決策を述べたので、ディーンは勢いを削がれてしまった。


「問題は本人が自主的に失踪している場合と、痴情のもつれで誘拐された場合なんだけど。まあ、本人が自分から出て行きたいと思っているのなら、わざわざ引き留めるのもね。心配しているということだけ告知して、帰ってきてくれるのを待つしかない。しかし最後の、痴情のもつれはどうしたものか」

「彼女は異性関係でトラブルを起こすようなタイプには見えませんでしたが……」

「でも彼女、雰囲気のいい子だっただろう? ああいう子は、一方的に好かれて付きまとわれることがあるからね」


 ギブソンはそこで少しいやらしい笑みを見せた。


「たとえば、君みたいなのに」

「わ……私は、別に……!」

「君は婚約者なんだろう? 他の男たちとは立場が違う。行き先や生命に責任を感じるのは当然のことだ」


 ギブソンは否定したが、しかしディーンの胸には『一方的に付きまとっている』という言葉が突き刺さったまま、抜けなかった。


 ――そんなはずは……


 彼女が制服を改造したのは、ディーンを思ってのことだ。そして出て行ってしまったのは、誤解からディーンが辛く当たってしまったからのはず。それならば、誤解だったといって謝れば、きっと――


 そこまで考えて、ディーンは唐突にあることを思い出した。


 ――そうだ。彼女は最初、『すぐに出て行くつもりだ』と言っていたんだ。


 どこに行くつもりだったのだろう。付き合いのある男性のところへ?


 ディーンはもやもやとする胸のうちを持て余し、第三王子の御前だというのに、黙り込むことになった。嫌な想像がぐるぐると頭の中を巡る。


 ――彼女は誰とも付き合ったことがないと言っていた。あれが嘘だったようには見えなかった……


 しかし、先ほどギブソンが笑い飛ばした通り、悪女ならそのくらいの言い逃れは簡単にやってのけそうではある。


 とにかく、もしも彼女が自主的に失踪したのなら、答えはひとつだ。


 ルウ・ソーニーは、ディーンよりも、その男を選んだのだ。


「大丈夫? かなり動揺しているようだね」


 ギブソンの声かけで、ディーンはようやくここがどこだったのかを思い出した。


「顔が真っ青だよ。まあ、恋人がいなくなったら誰でもそうなるか。今は冷静になれないだろうから、私も協力しよう。いいかい? とにかく君に出来るのは、懸賞金をつけて、国境付近や港町に告知を出すこと。王都にも集中して出した方がいいだろうね。心配しているということが伝われば、戻ってくる確率はいくらか上がるはず。戻る気があればだけど。なければ避けられてもっと遠くに行ってしまう」


 そんなはずはない、と思いたかったが、さりとて彼女が自主的に戻ってくるほどディーンに愛着があるとも思えなかった。


「あとはしらみつぶしに、彼女が行きそうなところを当たっていくしかない」


 ギブソンの理路整然とした捜索方法の説明は、落ち込んでいたディーンにもいくらか元気を与えてくれた。


「そう……そうですね。おっしゃるとおりです」

「これらの告知は、恋人である君にしか出せないものだからね。名義を貸してくれるのなら、費用は私が負担してもいい」

「いえ、そこまでしていただくわけには」

「いや、私がしたいんだよ」


 そして第三王子は、人のよさそうな笑みを浮かべてみせた。


「ルウ・ソーニー。私も彼女に興味があるんだ。見つけ出して、うちの侍女にしようと思っているよ」


 しかし、発した内容は外道だった。


「あの子のことはパーティで見かけたから知っているよ。見事な仕立てのドレスを着ていた。どこで手に入れたのかずっと気になっていたけれど、その制服も改造したのであれば、自分でやってのけた可能性は大いにあるね。少し見せてもらえないかな?」


 ディーンは上着を脱いで、手渡した。


「へえ。これを一晩で……すごいね。アームホールに見たことのない仕掛けが施してある」


 第三王子はいきなり肘のあたりをぐっと左右に引っ張った。


 ディーンは破けてしまうのではないかとハラハラしたが、幸いギブソンはすぐに手を離した。


「女性の手仕事だからかな。ステッチがふんわりと緩いから、ねじったときに伸縮性が出るわけか。元の制服は男性の手できっちりと隙間なく直線的に縫っていたから、手に持ったときの柔らかさしなやかさが全然違う」


 ギブソンはディーンに服を返しながら、晴れやかな笑顔で言う。


「やっぱりうちに欲しいな。彼女がデザインする服をもっと見てみたい」

「しかし彼女は、殿下のところにも顔を出さなかったのですから、来たがるとは……」

私が・・そう望んでいるんだ。断れると思う?」

「誰であろうとも、嫌だと思えば逃げ出します。彼女はそういう女性です」


 ギブソンはうすら笑いを浮かべながら、「では、こうしよう」と言った。


「とにかく協力して見つけ出して、あとは彼女の選択に任せよう。私と君とで、どちらにするか決めてもらおうじゃないか。まあ、私を断る理由なんてないと思うけれどね」

「……分かりました。私も、もう一度彼女と会って話がしてみたいです」


 ディーンはギブソンと進んで協力しあいたいとは思えなかったが、ともかくも不満を抑えて、約束を交わしたのだった。


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