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45 お節介を焼いてみます⑥

 うふふ 、と笑いで誤魔化して、ルウはカードを全部投げ出した。


「聞きたいことはありますか? ちなみに今一番ほしいのはこの赤いネイルです。きれいでしょ?」


 人に借りて塗らせてもらった爪の顔料を見せる。ディーンは嫌そうにした。


「魔女のまじないみたいだ」

「ひっど! 傷つきました。ディーン様には今夜呪いをかけておきます」

「やめてくれ、めったなことは言わない方がいいぞ。呪いをかけると魔女裁判っていうふざけた法律、未だにあるのを知らないのか?」

「すごーく田舎にいくと、たまーにあるってだけですよね」

「都会でも気をつけるべきだ。あなたは気軽に神官の地雷を踏み抜きそうだから。私怨で変な裁判にかけられかねない」

「うっ、やっちゃいそう……それじゃあ、これは呪いじゃなくてあくまで個人的な願望ですけど、ディーン様の指先にささくれがいっぱいできて、髪の毛洗うたびに絡まって『痛っ』ってなりますように」

「嫌だなそれは……」


 ディーンがチラチラと自分の爪のささくれ具合をチェックし始めたので、ルウは話を戻すことにした。


「質問は?」

「あなたはおそらく何かの才能を持っていると思うが、自分では何の才能だと思っている?」


 ――それはさんざん調べたんですけどね。


 皆がそう言うのなら、もしかしたら秘められた才能があるのかもしれない。可能性だけは無限大だ。


「『幸せ』かな? 幸せを感じる才能はすごいあると思ってますけど」

「聞いたことのない『才能』だな」

「唯一無二ですかね? まあ、才能じゃなかったとしても私の長所はそれです。長所……でいいはずです」

「なんでだんだん自信をなくしていくんだ」

「短所でもあるのかなぁと」


 ルウは虚空を仰いで、考えをまとめようとした。


「私は前向きすぎて、同じ体験を共有していても、人と私の感想が全然違うことがよくあって。誰かが『あのときは最悪だった』って言ってても、私は『楽しかったなー』って思ってたことが一度や二度じゃないです。妹が昔、ゲームの優勝賞品をほしがったんで、私が途中まで手助けして優勝させてあげたことがあったんですけど、なぜか嫌われちゃったんですよねぇ。私は楽しかったんですけど」

「妹さんとは仲がよかったのか」

「私は可愛がってたつもりだったんですよねぇ」


 たぶん妹とはもう会うこともないのだろうと思うと、ルウはちょっとだけ悲しかった。


 ――ま、事情が事情ですし、しょうがないですよね。


 しかし切り替えも早かった。


「そういえば、私のせいで侯爵家の評判がた落ちのお父様も、私を押しつけられたディーン様も、災難だったと思いますけど、私はすーごく楽しかったですねぇ! そのうち侯爵家は出ようと思ってましたけど、こんな演劇みたいな展開で放り出されるとは思ってなかったので、これからどうなっちゃうんだろうって他人事みたいに思いました。真剣に困ってたディーン様には申し訳ないんですけど、私はずっと面白がってました。本当に不謹慎で申し訳ないのですが」


 ディーンはそのときのことを思い出したのか、沈痛な表情になった。


「団長閣下から手紙をもらったときも、あなたはドライだったな……」

「そうでしたっけ。よく覚えてません」

「婚約するしかないだろう状況で、知らないと言えるのはすごいと思ったが」

「あー……怒らないでほしいんですが、あれはむしろディーン様が面白かったですし、ちょっと心配になりました。あんなのを真に受けてしまうなんて、生きづらい性格してるなぁって」


 あんな命令聞く必要なんてなかったのに、とルウは今でも思っている。


「あなたの態度はとても褒められたものではないと思う。ふざけていると人に思われたら、その分だけ人からも軽んじられるようになるから、いいことなどないはずなんだが……あなたは人に不誠実な対応をして、結果的に人からも信用されなくなるのが嫌だとは思わないのか?」


 ルウは澄んだ目で即答する。


「思いませんね。だってみんな自分が可愛いでしょう? 誰かが私に誠実に接してくれるところなんて想像できません。やるかやられるかが人生です」

「どれだけ殺伐とした人生を歩んできたんだ?」

「ハッピーな毎日でしたよ」


 少なくともルウの主観では。


「でもまあ、ごもっともだと思います。私がふざけているから人に冷遇されるし、冷遇されるから私もふざけた態度を取るようになる。どこかで我慢して誠実にならないといけないのでしょう」


 ペラペラと喋りつつ、ルウは内心で違うことを考えていた。


 ルウを追い出すためだけに何でも口実を作っては嫌がらせをしてきた父親たちにも誠実でいるのは、すごく馬鹿馬鹿しいことだったと思うからだ。

 

 それでもディーンが『あなたが悪い』というのなら、ルウは『そうですね』と聞き流す。


 ――ディーン様にはどうせ理解できないでしょうからねぇ。


「だからディーン様は、ダメな大人のアルジャー様の言うことにも忠実でいようとするんですね」

「あなたは本当に団長閣下が嫌いなんだな」

「好き嫌いで言ったら好きですが、行動は改めないとダメだと思います」

「……」


 何を思ったのか、考え込んでしまったディーンを薄目で見つつ、ルウはまた口を開く。


「ディーン様のクソ真面目なところ、正直馬鹿だなって思ってましたけど、理由を聞いたらなんか少し分かっちゃいました」

「馬鹿って言ったか、今?」

「世の中にはいろんな考え方があるものですねぇ」


 それもまた楽しいとルウは思う。みんなが同じ考え方をしていたらきっとつまらない世の中になることだろう。


「ディーン様の誠実なところ、私も素敵だと思いますよ。ええもう、ごはんは奢ってくれるしお小遣いはくれるし好きなことさせてくれるし、今の生活は最高です」

「あなたにももう少し誠意という物を見せていただきたいとは思っているんだが」

「見せますよ、心配しないでください。そのうちちゃんと何かやらかしますので」

「あなたは誠意の意味を誤解している」

「面白サプライズのことじゃないんですか? まあ、私はこういう人間なんですよ、ディーン様。昨日、私に興味があるとおっしゃってましたが、実態がこんなでがっかりしましたか?」

「おおむね今まで感じていたことの再確認だったから、それはないが……」

「前からアレだとは思ってたんですね」


 ルウはディーンの質問が一区切りついたらしいのを見計らい、いったん紅茶タイムを挟むことにした。

 

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